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大久保醸造店(長野県松本市)

長野県松本市の里山辺(さとやまべ)という地区で120年近くにわたって醤油・味噌を作り続ける大久保醸造店。この度新たにお取り扱いできることになりました。

普通のスーパーなどでは滅多にお目に掛かることはありません。ですのでご存じでない方も多くいらっしゃると思います。

大久保醸造店といえば、全国の著名な料理人・料理研究家から絶大な支持を得る、その世界では極めて有名なお醤油・味噌蔵なのです。

ご家族と数人の従業員のみという決して大きくはない蔵のため生産量も多くはありません。商品のほとんどは全国北から南まで名だたる料亭や蕎麦屋、そしてラーメン屋などに直接納められるため、一般にはあまり出回っていないのです。


きっかけは1本の電話から

2022年末の12月28日夕方、年内最終営業を終えてお店の片付けをしていた時に「MGを見て電話したんだけど」と一本のお電話をいただきました。

「MG」というのは長野県の中南信地区で発行される情報誌「MGプレス」のことで、当店を取り上げてくださった記事をご覧になったというお電話です。

記事内のお醤油も取り扱っているという文章に触れ、「ちっちゃい蔵なんだけど、おれも醤油作ってるの」から始まって、お醤油・お味噌作りのことから食の安全性のこと、ご自宅で育てていらっしゃる野菜のこと(「畑の肥料を変えたら寄ってくる虫の種類まで変わったんだよ」)、などなど物凄い情報量を30-40分くらいで一気にお話をしてくださいました。まさに息つく暇もないくらい。

最後の最後に「あのぉ、お名前だけ伺ってもよろしいでしょうか・・」と尋ねたところ、「あ、いけね、名前も名乗らなんだね(笑)。大久保です」。

これが大久保醸造店3代目で現会長の大久保文靖さんとの最初の出会いでした。

大久保文靖会長。途轍もなく頭の回転が速い方です。80を過ぎたとは思えない。

全て「顔の見える人」から

「技術は10%。90%は原材料の力。」と語ってくれたその言葉の通り、醤油・味噌作りに欠かせない大豆・小麦・塩などの原材料選びには並々ならぬこだわりがあります。

「国産」と言ったレベルではなく、例えば大豆なら「青森の福士武造さんの作った大豆。もう別格だね。」などと全て顔の見える個人名が挙がります(原料に限らず大久保さんと話していると、とにかく色々な方のお名前がよく挙がります)。

琥珀だしなどの出汁調味料の原料も、宗田節は高知の○○さん、鯖節は枕崎の△△さん、と言った具合。削り節を仕入れるわけではなく、もちろん「鰹節エキス」などを仕入れるわけでもなく、そのままの節を大久保さんが自ら削って仕込んでいます。

福士さんの大豆をはじめ、長野より北の大豆を使うのだそう。
「原料までこんなに全部見せられるところは少ないと思うよ」。小麦は長野県内のもの。

全ては微生物のために

大久保醸造店にお邪魔して気付くのは整理整頓や清掃の行き届いた様子です。そして何より特徴的なのは総漆塗りの木桶。

実は木桶に限らず、ご自宅などの板にも自ら漆を塗ったという大久保さん。尋常でない労力だったと振り返っておられました。「夜なべなんて当たり前。3人分は働いた」と自ら認めるほどのハードワーカーの大久保さんですが、漆を塗るのは本当に大変だったようでした。


全て大久保さんが自ら漆を塗った木桶

そして極め付けは、床下や壁の中に埋め込まれた大量の炭。何十トンもの炭を入れてあるのだそうです。そうすることで余分な湿気が溜まらず衛生的な環境を保てるのだとか。だから蔵の中は「何となく気持ちがいい」のです。

壁や天井もとても綺麗なのがわかります。こちらの珍しい横型の木桶も大久保さんが漆を塗っています。

これらの徹底した努力は、兎にも角にも余分な雑菌や発酵の妨げになる微生物はしっかりと排除しながら、有用な微生物にしっかりと働いてもらうため。

「クリアできれいな味にしたいんだよね」と大久保さんはおっしゃいます。ともすれば非常に抽象的で漠然とした表現ですが、この蔵を見た上で聞く大久保さんのこの言葉はどっしりとした具体性を持って聞こえてきます。例えば淡口醤油の「紫大尽」を口にした時の研ぎ澄まされた感じは、やはりこの蔵から生み出されたのだということがよくわかります。

オゾン水で洗浄して綺麗に磨き上げられた床

伝統も革新も

大久保醸造店の蔵は木桶が並ぶ伝統的な部分もあれば、アルカリイオン水製造機などの機械や、独自開発した機械仕掛けの「麹室(こうじむろ)」など革新的な部分も共存しています。

材料を加工しながら下へ下へと落として工程を進めていく効率的な設計も大久保さんの考案
これが2階にある「麹室」。3階から大豆・小麦と麹菌が混ざった原料をここに「落とし」て麹をつくります。

「醸造物は「時間の味」だよ」とおっしゃる通り、微生物の力を借りながらじっくり発酵を進める部分はしっかりと時間をかけ、一方で効率化できる部分や機械を導入すべきところは思い切って変えていく。
変えるべき部分を大胆に変えていけるのは、絶対に変えられない軸がしっかりとしているからこそなのだろうと、大久保さんのお話を伺っていると強く感じます。

安心で安全でそして美味しいものを作るというシンプルな目的に沿うのか?沿わないのか?ということを常に自問し続けているのでしょう。

応接室に置かれた大久保さんの蓄音機。モーツァルトから昭和の歌謡曲まで、一人で音楽を聴く時間が幸せという。

「最近の食品はとにかく過剰調味。そして何でも甘くすれば美味しくなると勘違いしている。」

何度となく大久保さんから出てきたセリフです。

そんな大久保さんの作る醤油・味噌は、素材が本来持っている旨さが余すところなく引き出された本当の美味しさを教えてくれます。

この作り手の商品


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