僕の天使さん

※この作品には暴力、暴言等の表現が含まれます。




そのとき、僕は見たのです。隣の部屋のベランダから飛び立つ天使を。飛び降りなんかじゃないのです。羽のはえた天使が爪先を手すりから離したとき、ちゃんと空に向かって、昇っていったのです。天使は、神様が作っただろうなってわかるぴかぴかの姿をしていたのです。粗末なTシャツと半ズボンを着ていても、綺麗だってわかるくらいぴかぴかしていたのです。
僕がそう話し終えると、固い拳が飛んできたのです。昨日できた痣の上に重なって、拳は僕を殴るのです。
「お前、いい加減その喋り方やめろよ!あと女のくせに僕って言うな!社会で通用しねえぞ!」
「ごめんなさいなのです。でも、僕はこの喋り方しかできないのです。」
「この穀潰しの金食い虫が!変なクスリでもやってんのか!天使なんかこの世にいねえんだよ!」
大きな声で怒っているおじさんは、僕のお母さんの彼氏なのです。お父さんが家から居なくなった代わりに、このおじさんが住むようになったのです。おじさんは、僕を殴り続けるのです。
「痛いのです。やめて欲しいのです。なんで僕を殴るです。」
「お前の全部がいかれてるから躾てやってるんだろうが!おかしいんだよお前!」
おじさんは、僕のことが嫌いなのです。初めて会ったときはにこにこして、ふりふりのお洋服を僕にくれたり、たくさん褒めてくれたのに。でも僕がプレゼントしてもらった服が好きじゃなくて着れなかったり、おじさんの手が気持ちの悪いところを触ってくるのが嫌で逃げ回っていたらこの有様なのです。
お母さんは、隣の部屋に居るのです。煙草を吸いながら、まるで僕たちが見えなくて聞こえないみたいにテレビの方を向いているのです。お母さんは、昨日見た天使と似ているのです。でも天使は金色の髪をしていて、お母さんは黒い髪をしているから、別の人だと思うのです。それに同一人物にしては、お母さんはぴかぴかしていないのです。
「おいサチヨー!」
おじさんは、お母さんを名前で呼ぶのです。
「なにー!?今面白い所だから話しかけないで!」
「そうじゃねえだろ!この糞ニート追い出す方法ねえのか!学校も行かねえ、バイトもしねえ、家事もしねえ、なんの為に生きてんだよこいつ!」
「そんなもん知らないよ。早く死ぬのを待つしかないね。」
死ぬ。そう、僕は早く死ななければいけないのに、生きているのです。でも、僕は思うのです。早く死んだら、昨日見たみたいな天使が来てくれて、僕を優しく抱きしめてくれるんじゃないのかって、ずっと考えているのです。僕はもう生きているとか死んでいるとかどうでもいいのです。あのときの天使に会いたいのです。それだけなのです。

続く

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