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コンビニの煮物を知っていますか。

セブンで売られているやつです。おでん等の定番のみならず牛肉とごぼうの甘辛炒めや豚角煮なんかもあります、あのコンビニの煮物。

牛肉と出汁のうまみが利いた肉じゃが。悠々と佇む写真を見ながらそうっと封を開けると途端にグルタミン酸の香りが広がる。
肉じゃがをリビングに運び、眺める。
薄茶に色づいたじゃが芋は歪に凹んでいて、箸で触ると少しの抵抗のち、崩れる。持ち上げるともったりと宙に浮き、そのままお皿に落とすとドチャリと音をたて着地、何事もなかったかのように佇むじゃが芋。

あの肉じゃが。

口に入れるとほろりと溶けて消えてしまうような気がするのです。舌の上で転がすように味わいながら噛み締めればじんわりと染みる旨味。鼻から抜ける匂いは何とも言えず甘く優しい。ああ、幸せだなあなんて思いながら食べているうちにいつの間にかなくなってしまう。

ゆっくりと食べ終えお茶を飲む。

机にはまだ肉じゃがの温もりが残っていた。

1925年11月24日 太宰治手記より

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