見出し画像

09

これは僕が小学生の時の話です。

時刻はお昼前、庭に面した大きな窓から光が入っていた、よく晴れたのどかな日でした。
家に何もないということで母親がご飯を買いにいき、僕は家でひとり留守番していました。近所のコンビニなので時間もかからないだろうと、リビングでぼうっとしていました。

しばらくしてガチャリと玄関から音がしました。


「遅くなってごめんねーすぐ用意するね」


そう言って、全く知らない女がリビングに入ってきたんです。


お母さんでもない、見たこともない人でした。


僕は咄嗟に声も出せず、その女がキッチンへ歩くのを見ていました。そしてガサガサと袋からお惣菜なんかを取り出すんですけど、それも見たことがない商品なんです。近所のコンビニといえばあそこか、とか分かると思うんですけど本当に見たこともない色で。そいつが慣れた手つきで僕の家のレンジを操作してるんです。

逃げたいんですけど身体が動かなくて。固まる僕に女が話しかけてきて。

「どうしたのぉ?好きそうなの適当に買ってきたけど…嫌だった?」

まるで本物の母親のような態度でした。動かない僕を気にすることなく近づいてきました。見れば見るほど会ったこともない女なんです。近所の誰かでもなく。僕はもう何も出来なくて、女が手を伸ばすのが見えてもう逃げられないと、ギュッと目をつぶったんです。

額に手の感触がした瞬間


「ただいまー」


玄関から母の声がしました。
ハッと目を開けるとそこには誰もいませんでした。

「お母さん、今日って誰か家に呼んだ?」
「え?どうしたの?誰も呼んでないけど……」

慌てて母に聞いたんですけど本当に知らないみたいできょとんとした様子で返されたんです。詳しく聞いてもそんな人は知らないって。


家の鍵を変えたりもしたんですけど、それ以来、留守番ができなくなっちゃいましたね。
今でも一人で家にいる時は思い出します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?