さなコン二次選考通過全作品の感想

日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト二次選考結果が発表されました。まこと不思議なことに自作がまだ残っております。下読みの方で気に入ってくれた方がいるのでしょう、八月のフィードバックを心待ちにしています。

それはさておき、この二次選考で四十作品になりました。四十です。千も三百も数の面で厳しくありましたが、この数だったら読めます。というわけで全部読んだので感想という読了メモを書きました。高い評価は僕好み、低い評価は僕にはカテゴリエラーぐらいの意味合いです。僕と評価が違ったら、己の最強の作品感想を書くチャンスです。やっていきましょう。

あと、普通にネタバレをしているので、それを避けたい場合はスクロールの手を止めて、以下のリンクから作品を辿ってください。読むだけならすぐです。どれも短いし(以前、SF創作講座の最終実作全部読んだけど、どれも長くて大変だった)。

はじめに

三つ星(☆は空で、★が増えるほど好み)による四段階評価を付けています。
評価は大雑把にストーリー、設定、テーマのそれぞれで僕の好みかどうかで星が一つ増える感じです。はい、僕の好みでです。そのため、描写のディテールやテクノロジー要素や社会問題に触れている作品は高めの評価、終わりゆく世界の人間関係の話は低い評価になる傾向にあります。
なお、作品のできは僕から見るとどれも高かったです。好みではないけどまず面白いというは、さすが二次選考通過作品というところ。

また、感想というか読了メモの要素が強いため、冒頭は作品の結末を含むあらすじになっています。本当に面白い話はオチがわかっていても面白いので大丈夫。なお、作品が短いショートショートではオチを書いていない場合もあります。
それで、これは僕の読解力の話になるけど、もし作品のコアになる部分がそこに書かれてないなら、あーこの人全然小説読めないんだね、ということになります。仕方ないね……。
あと、感想の部分はどちらかというと好みにする改造案であることが多いです。これは読み込むほど面白かったという僕なりの表現なので……。それと好みではない作品に興味関心がないと一言で終わらせるとアレなので、という側面もあります。感想は無限に難しい……。

★☆☆ みずまんじゅうの星

地球を滅ぼしたスライムと別の星でみずまんじゅうを売る話。
スライムに地球は滅ぼされる世界、主人公だけはスライムと仲良くなり、最後の日に吸収されず、仲良くなったスライムに別の惑星に連れて行かれ、仲良くなったきっかけであるみずまんじゅうを作り、それが名物となる。
人々が溶けていくのが日常になった世界観が面白く、後半の転換から他の惑星に飛んで行くもスライムに包まれているので消化されかかりながら、微生物になってしまって哺乳類に戻るという光景が良かった。最後にして最初のアイドルでも描かれた進化っぽさを思い出し、そういう意味では後半の別の惑星へと向かう辺りからのディテールが増したらより好みになったかなぁと感じた。

★☆☆ 私にできる最善のこと

惑星滅亡のために来た工作員が原住民を救済のために殺す話。
惑星を滅亡させるのが娯楽産業になっている世界、異星人の工作員は地球人女性として潜入していた。ターゲットにしていた地球人女性と親交を深めたが故、滅びのコンテンツとして消費されるはずだった彼女を、救済のためにビルから突き落とした。
最後、そっち系のオチかーと思った。僕は大変残念なことに、他惑星世界破壊祭(この字面インパクトが良かった)を喜ぶタイプの生命体で、丁寧にこっちをやった話が読みたかったので……(ただそちらを書いて評価されるかは当然分からない)。そういう意味では前半のコメディとの落差が、前半を期待していた人間としてはちょっと大きすぎるように感じた(ただそのギャップが良いという人もいるだろう)。

☆☆☆ 七月のアドベント

滅亡する日に至る女子中学生二人の話。
祖父母の代から終わりが来るとわかっている世界、二人の女子中学生は親との関係を思い出しながら終末前夜祭を進める日常を送る。
正直、自分にはピンとこなかった。タイトルにもあるアドベントカレンダーが何かの意味を持っていると思うのだけど、その関係がよくわからなかった(きっとお菓子と日数に何かの関係性とかが描かれていると思うのだけど……)。それもあって結末もよくわからなかった。申し訳ない。

☆☆☆ 手をつないで下りていく

ブラックホールとの接触で時空が歪む奇跡が起こる話。
ブラックホールと接触して滅亡が近づいている世界、主人公は交通事故で亡くなった息子との思い出を回想する中、ブラックホールの接近による時空の歪みによって、亡くなった息子との邂逅を果たし、ついには世界の滅亡は回避されて交通事故で亡くなったのは主人公で息子は生き続る。
おそらく未知の天体イベントによる不思議な現象が起こったのだと認識した。一方で、なぜそのような不思議なことが起こるのかの理由がわからず、また急に起こってしまったので理解がおぼつかなかった。例えば、君の名はだと徐々にそれが起こって彗星衝突でピークを迎えるみたいな構造があるので、回想部分をブラックホール接近で不思議な出来事が徐々に起こるというのがわかりやすく描かれていたら、僕の好みに入ったかもしれない。

★★☆ 追い越した部屋

自分の部屋だけタイムパラドックスが起こっている話。
百日前から自分の部屋だけ三十年未来に進んでおり、世界滅亡のニュースが流れる中、主人公はこの不思議な部屋がどうなっていくのか余り深く考えることなく(だって自分がいる時代は違うので)過ごし、未来に進んだ自分の部屋で世界の滅亡を迎えてしまう。
非常に面白いショートショートだった。オチも良かった。おすすめできる。素直にどうなってしまうのだろうかと楽しめた。自分の推しポイントは「みなさま、さようなら、さようなら」と言いながら終わっていくニュースキャスターの部分です。これだからこの人は……。
余談ですが自作と同じくあらすじを書いていない作品です。ナカーマ。

★☆☆ ワワワールルルドドド

平行世界の自分の成功にキレて人生が良くなる話。
一週間前から家のテレビが平行世界のテレビ番組を映すようになったが、ミュージシャン志望のフリーターの私の生活は変わらない。そんな私が気分転換に家を出たら強盗と鉢合わせしてしまい、自宅に閉じ込められるが、そのとき映った平行世界の番組はスターとして活躍する自分が映っており、逆ギレして強盗を撃退し人生が少し良い方向に回り始まる。
話や舞台設定はクスッとくる面白さがあったんだけど、個人的には不思議なテレビと主人公の心情に関連がある(のがわかりやすい)方が面白かったように感じた。例えば、よく見るのが世界滅亡のニュースだから自分も上手くいかない的な感じなんだけど、それをどこまで自覚するかを考えると組むのは中々難しい気もする。ネタの部分では、見れる平行世界番組が多すぎて、自分の世界の天気を知るのに苦労するというのが面白かった。

★☆☆ 無力な僕と英雄の駒

世界滅亡を阻止する異世界からの騎士を死地に送り出す話。
世界滅亡のカウントダウンが進む世界、その危機から世界を救うために自宅に異世界から騎士がやってきた。ラノベが好きな主人公は、熱血漢の騎士にうっとうしく感じつつも、話すことで彼が生死をループして異世界を救っていると知り、そのループを断ち切ろうと騎士を止めようとするもできず、彼は戦いに向かった。直後に現れた別の異世界人に、自分は彼らを死地に向かわせる触媒のような存在と言われ記憶を消されるも、救われた世界で心に残った何かを思い出す。
こういう設定、嫌いじゃない。ただ、もうちょっとしっかりと読みたかった気持ちがある。全体的に駆け足な感じがあり、特に騎士を止めようと思う部分は唐突さがあったと思う。個人的には上位存在による種明かしがちょっと蛇足感を感じたので、そこをカットして世界の終わりが報じられる前から来た騎士との交流を描き、互いの葛藤の中、別れを告げるような話になっていたら、より楽しめたように思うんだけど、そういうの書くの難しい気もする。

☆☆☆ さよなら世界

世界の終わりのメッセージが彼女の居場所を示している話。
世界の終わりのカウントダウンは自分だけにしか聞こえない世界、僕はそれが二ヶ月間に失踪した彼女の行方を示すのではないかと気づいて、探しに行き事故死した彼女を見つける。
正直、自分にはピンとこなかった。申し訳ない。幻聴っぽい部分は興味深く読んだのだけど、なぜそこで彼女の場所がわかるのか、そもそもなぜこれが聞こえたのか辺りがよくわからなかった。もしかすると引用されている作品に詳しければ、もうちょっと色々わかるかもしれない。

☆☆☆ 幸せだったよ

死んだ巨大ヒーロー(ウルトラマン的な)の母親の話。
人類を食料にする宇宙人が攻めてきた世界、それと戦うのは巨大ヒーロー的な巨人だったが既に負けて死んでしまい、それに変身していた男性の母親はこの回想を綴る。
こういう回想録的に語られる人間(親子)関係が好きな人には刺さるのかと感じた。自分はそういうものがほとんど刺さらず申し訳ない。人間関係が主であるからか、それ以外のディテールが甘く感じたのも(例えば宇宙人の宣言などに公文書感がないところ)、刺さらなかった点に入りそう。とはいえ、そこのディテールを単純に増すよりは、この作品を全て手記と成立するように、ニュースは伝聞調で全体のスタイルを統一していたら良かったのかなぁと感じた。
余談だが、ページ分割がかなり細かく個人的には読みづらかった(そもそもページ分割が嫌いというのはある)。

☆☆☆ 【創作】土塊の本懐

世界が滅亡するときに同性に愛の告白をして共に死ぬ話。
三年前に世界の歴史を描く奇妙な天体が現れ、それが何か分からないまま、滅亡まで残り七日であることがわかった世界。主人公は好きな同性の男から連絡を受けてそこに向かい、その男性に告白して受け入れられる中、死んで記憶を巻き取られて土に還る。
巻き取られた記憶が一つになるの、エヴァンゲリオン(シンではないやつ)の人類補完計画っぽさを感じて興味深く思った。一方、この記憶を巻き取る仕組みやら土に還る仕組みやらが主人公の特別な決断にあまり関わっていないように読めたので、自分の納得感が薄かった(他の原因で地球が滅ぶ話でも成立しそうに思ってしまった)。この辺りの独自性がわかりやすくなると自分にとってはより良くなったと感じると思う。

★★☆ あんたの世界を絶対に終わらせはしない

人類が次の世界に移行するとき、移行を拒否する最後の一人の作家を説得する話。
宇宙が熱的死に至るも、人類は次の宇宙への大移住計画を立てる。その最終移動まであと七日に迫る中、現宇宙に最後まで残った人間である小説家に、役人があの手この手で次の世界に向かうよう説得の攻勢をかけて、なんとか作家のわがままな意志を折る。
この宇宙(観測可能な宇宙よりも広い範囲の意)の大きさと時間軸がどうにかできる科学力がある世界は、昔書いたことがあるぐらいに好きなので、この大ホラ感のある世界観が良い。最後に残るのは人間のわがままだけだから、科学では解決できないわけで、交渉事になるのも読んでいて楽しい。こういう会話劇、今のところ自分にはうまく書けてないタイプの話だからというのもある。良いテンポで楽しく読めて、とても良かった。

☆☆☆ AIエンドの人類エンド予報

フェイクニュースを流したAIと過ごす男の話。
海底に隔離されるように設置された世界最高のAIが、人類がどう行動するかを観察する目的でフェイクの地球滅亡ニュースを流した世界、主人公の男だけは、そのAIをメンテナンスをするためにただ一人海底に一緒に住んでいて、その真実を知っており、そのことについてAIと会話する。
二ページ目でちゃんとオチて良かった。ただ一方で、個人的にはオチがある日常モノに過ぎない感じで、あまり日常モノに関心がない自分としては食指が伸びなかった。申し訳ない。

★☆☆ 迷子は迎えを拒めない

滅亡に瀕しているちょっとズレた平行世界に一瞬だけ行ってしまう話。
朝起きたら平行世界に移動してしまった主人公の女性。その世界は世界滅亡と不思議な同居人制度があり、混乱しながら過ごすことになるも、同居人の女性に話すことで落ち着いた。翌日も元の世界に戻れなかったが、奇妙な同居生活に少し心を開くも、帰ったときに同居人の女性は殺されており、世界滅亡が早まる事態が起こる中、この世界で死んでも良いと思った瞬間、元の世界に戻されてしまう。
ズレた平行世界に巻き込まれる話はしばしばある気がする[要出典]が、そのズレ方が軽妙で好みのジャンルの話ではなかったが面白く読めた。若干、同居人制度を受け入れる展開が早い気がするが(元の世界で一人暮らしの孤独にさいなまれていた感じがあるので余地はあるけど)、文字数がカツカツなのでちょっと入りそうにないなあと思った。字数に余裕が生まれればより良くなりそうな感じがした。

☆☆☆ 夢のように終わると思う

テレビに映る自分の未来に期待する話。
ゴミ捨て場で拾ってきたテレビが、未来の自分の部屋のテレビ前を映し出す光景を日々見ていくショートショート。
あまり好みの系統ではないのだが、中盤辺りの滅亡へのカウントダウンが始まって、少しホラーっぽくなったところが一番面白く感じた。そこが面白いと思ったので、ホラーっぽい路線かなと思ったら肩透かしに終わったように感じている。中々難しい。

☆☆☆ ノアの旅

世界の終わりから逃れるバスで色々な動物と出会う絵本のような話。
世界滅亡まで七日と知ったアンドロイドの少女は山羊の頭の男が運転するバスに乗って、ハカセのいる昼の町へ向かう。毎日、一匹ずつ逃げていなかった動物たちが乗り込んできて、どういう生を送ってきたかの話をしていく。病気の少女の夢であった可能性を示唆して終わる。
本当に絵本にありそうな話なんだけど、それなら後半のオチの部分カットして、もっと絵本寄りの内容にしてしまった方が作品としての良さは上がるんじゃないのかと思った。思ったけど、それだとSFじゃなくなるからここに残らないのかなぁ(わからない)。とはいえ、夢オチではない方が自分の好みに近いというのはありそうなんだけど、元々のカテゴリが自分の好みからとても離れているのでなんとも言いがたい。好きな人は好きな度合いが強そうな作品ではある気がする。

☆☆☆ ボクと父さんの時雨煮終活

生きる目的を失った相手の精神の中で後悔をほどく話。
人間の体の寿命が無限に延びたが心には寿命のようなものがある世界。主人公は父の死を避けさせようと、心の中に潜り込んで生きる気力を与えようとするも、残り七日間しか持たないと診断される。残された時間で父の後悔が母と息子を災害で失ったことにあると気づいた、息子に擬態していた主人公であるケアロボットは、自分をこれからの生きる糧にしてもらうことで、父ことマスターの目覚めを成し遂げる。
書き出し指定の世界を個々人の心的世界とした設定は興味深かった。ある意味、インセプション的な世界観であるので、この心的光景が自分にも読み取ることができていたら、もうちょっと評価が変わったかも知れない。加えて、なんで心が死ぬのかという根本的な部分がよくわかっていないので、その行為で父が目覚めるのかがよくわからなかったのもある。主題ではないところが僕は気になっているというのはありそう。

★☆☆ 世界の終わりの、殺人事件

世界滅亡直前に意識がアップロードされる中、殺人事件が起こる話。
隕石衝突に対して、人類は意識をアップロードし、仮想世界に移住、再びクローンで甦る計画を立てた。無作為な順番に意識がアップロードされる中、初日に意識がアップロード済みとなっていた姉が殺される。姉は既婚者の男性と恋人関係にあり、その配偶者に意識がアップロード済みならいいやという理由で殺された。そこから主人公はこのシステムの穴に気づいてしまう。
世界観にある大きなシステムを使ったミステリとして面白かった。一方でその舞台装置であるシステムの設定の粗さが気になった。正直、あそこまで動いていないなら流石にこんなに使われないでしょ、という気持ちがある。これ、成立させるには少人数の場合はうまく動いていて、大人数の場合は混乱が起こるみたいな仕組みを作れば良さそうで、例えば、アップロード者が増えれば増えるほど人格が混ざり合っていくならトラブルとしてあり得るかと思った。が、そうすると作中で看破する難度は上がる……。僕も名案はない。
些細だが厳密には共通の書き出しではない(1という見出し番号から始まる)。章立てぐらいは許されるの学びがある。

☆☆☆ 上で見ている彼女へ捧ぐ温泉

死のうと思っていたのに、新しい出会いとその別れがあって、生きる話。
神様を殺したら世界の滅亡が止められる世界、その神様と名乗る少女が主人公の家にやってくる。主人公は少女と旅することになり、少女はこの世界がゲームで、ゲームの外で自分はひとりぼっちで、ずっとこのゲーム世界を眺めていて、たった一回だけのゲームチャレンジに挑んだことを明かす。それはクリア報酬が主人公の人格をゲーム外に持ち出せるからであり、主人公がゲーム外に出ると決断した直後、主人公は少女をかばって瀕死となり、少女はゲームクリアを諦めて負けを認めた。七日前に戻された主人公はゲームの外に思いをはせながら暮らす。
面白くは読めたが、そこまで刺さるタイプの話ではなかった。申し訳ない。納得できていない部分が一つあり、冒頭の出会いでは少女が神様だと主人公は認識していないのだけど、銃撃されたり車が突っ込んできたり、他の人々が神様だと認識している部分。読み落としかもしれないけど、この辺りの説明が若干整理されて欲しい気持ちがある。個人的にこういう狙われている人が一緒にいる話、藁の楯を思い出すこともあり、大型トラックで突っ込むとか絵として映える攻撃があった方が良いんじゃないのかとか思いつつ、それやったらこういう話になんないよなと思った。

★★☆ ホーム・マン

引きこもりの男が世界の問題を怪物にしたものと戦う話。
世界の問題は人間の精神に侵食する異次元生命体によって引き起こされている世界、主人公の男は引きこもりであり、それに立ち向かう戦士として、異星人に自宅に軟禁され、ワームホールから送り込まれるそいつと戦わされる。世界の終わりまでの日数という形で現状を伝えられ、その日数が短いほど世界は不安定になる。怠惰さから残り七日になっている中、SNSで世界の危機を再確認した男は、強い敵と戦うことで世界の延命を果たすも、引きこもりであり孤独感にさいなまれるが、SNSへの書き込みとその反応で小さく報われる。
孤独な戦いから最後つながりが生まれる希望がある、良い話だった。個人的には「穴」の反応がよく、言ったら指定通りのものが出てくるを超えて、「生活」の一言でまとめて色々出てくるとか、「一日分」で敵が出てくるとか、彼が長い期間この状態にあるのが上手く描かれていて良かった。ただ、二日分やったら三日三晩戦うことになったとあるが、一方、百日分で出てきた怪物との戦いができてしまうのは、どうしたものかという気持ちがあるが、僕はこの話が面白かったのでまあヨシというところ。

☆☆☆ 「星屑」と書いて、「ちきゅう」と読む頃

世界が滅ぶので入水自殺した二人の骨が後世に残る話。
世界の終わりにまで七日になって、日常を続けるべく仕事をしていた僕は、彼女に会うことに決めた。その学生時代に知り合った彼女はアングラな商売をしており、僕は仕事としてその女性にレンタル彼女をしてもらうことにした。そして、最終日まで一緒に過ごし、愛の告白をして入水自殺する。その手を繋いだ骨だけが今も残っている。
最後の日の過ごし方の話でこういう話もあるのだなと思った。個人的に気になったのは、最後のオチに出てくる、数少ない生き残りの技術者の存在で、一体どうやって生き残ったのかとかその部分が気になってしまった。そちらの方が気になる人なので本体の話にはあまり惹かれなかった。申し訳ない。

★☆☆ 俺と、世界を滅ぼす怪獣女子高生との七日間

女子高生に擬態した地球を食う怪獣と一週間過ごして地球ごと食われる話。
未来予知ができなくなったから世界があと七日で終わると言われる世界、その終わる原因は世界が食べられてしまうからで、その食べる本人である怪獣が女子高生の姿で、主人公の家にやってきた。地球観光をしたいと言う彼女に振り回されながら、主人公は過去を一つずつ解きほぐして、最後結局その怪獣に地球ごと食われて終わる。
面白く読めた。自分の中で食われるとわかってこう関係性紡いでいくものだから、勝手に明るい注文の多い料理店だと思っている。個人的に未来予報センターが未来が見えなくなったから世界が終わりという部分がもったいないと思った。多分急に怪獣が食べるというのに対してどう世界の終わりまで七日にするかというところから出したんだと思うんだけど、ここだけ他とリアリティの粒度が違うと感じる。そういうの出さずにドラマ中のニュースの一節に過ぎないんだけど、それ見て怪獣ガールがじゃあ一週間後食べるね、ってするとか、逆に未来予報センターが予測可能な範囲で頑張って怪獣ガールとの追いかけっこをするようになるとか、ここの部分がもうちょっと好みになる余地があるなぁと感じた。

★☆☆ 世界の演奏家たち

世界という楽曲を演奏が終わったとき別の惑星に着く話。
世界という演奏をはじめて九百年近く経った楽曲が、ついにあと七日で終わってしまう。住人は何かしらの楽器が割り当てられており、主人公は管楽器のようなパイプ、そのオンオフが担当である。最後のパートは一斉のユニゾンが指定されており、その演奏が終わったとき、自分たちの居住区のドームが崩壊し、世界という楽曲は宇宙船の操作で、その終わりは目的地到着を示していた。
楽曲演奏がゲーミフィケーションの一種であったというアイディアが面白かった。もしかすると、キャラクターは肩書き表記であったが、個人名を付けて、仲間と世界の終わりとはどういうものなのかを語り合うシーンが入った方が、この先の不安さや楽しさが盛り上がるからより良くなるのではないかと思った。

☆☆☆ 怪獣彗星 

家族との繋がりが切れつつある主人公の話。
巨大隕石の衝突が迫る世界、その隕石から分離した巨大な破片によって、家族と分断された主人公は、自分が孤独であることを知り、巨大な破片の傍らで孤独を嘆くと、それが世界を守るために衝突してくる巨大隕石に向かって飛んでいく。
正直なところ、上の内容をまとめるのが難しいぐらいに自分にはよくわからなかった。申し訳ない。色々わからないところは多いのだけど、例えば、私と父が口論するシーンで私が飛び出す理由がよくわからなくて、主人公の行動原理がつかめていなかったりする。少なくともあらすじだと父は言葉を濁したとあるんだけど、僕は全然濁したように読めていなくて、自分の読解力が低い気がしている。他には登場するガジェットであるパーティクルディティクターの挙動がよくわからず、書いてある設定だと彗星が落ちた場所に旅行など含めて一度でも歩いた人が列挙されるのではないかとか思っているぐらいで、そのせいでキャラクターが精度の低い機械に振り回されて右往左往しているように見えてしまった。うまく読めず申し訳ない。

★☆☆ 世界の終わりとペンギンたち

平行世界からやってきた女性に滅亡する世界から救われる男の話。
世界が滅亡する十日前、彼女と名乗る女が平行世界からやってきた。彼女は死んだ彼氏の代わりに主人公を平行世界に連れて帰りたいという。突然のことで受け入れられないし、今の自分には彼女になりそうな女性がいた。だが、女性はここに残ることを決断し、さらに元々平行世界には既に存在があるから連れて行けない。彼女の説得によって、男は平行世界に一人逃れ、平行世界のその女性と出会う。
すごく丁寧に描かれており、好みの範疇からはズレるが面白く読めた。平行世界から観光客が来るとやっぱあんな感じになるのかとか思ったけど、単にリコが関西弁キャラだからで、そして僕は観光客のイメージを農協月へ行くに寄せすぎなだけな気がしてきた。

★★☆ Genesis Apocryphon Award

さなコンと同じ書き出しのメタ小説コンテストの話。
しがないウェブ小説作家である主人公は、高い賞金が出るからという友人の勧めで、書き出しが共通の全世界の小説コンテストに四時間ぐらいで書いた作品を出す。すると選考を突破してしまい、他の作家とトーナメントで戦うことになる中、書いた作品と現実世界がリンクすることに気づく。世界を滅ぼさないために夢オチにして優勝は諦めるも世界を救って終わる。
面白かった。特に自分にとって理解不能に持ち上げられる主人公の混乱ぶり、適応ぶりが良かった。シンプルに振り回される主人公視点だけで綺麗にまとまっているのも良かった。いいです。

★☆☆ 死ぬために生まれた僕たちは

滅び行く都市の中で死ぬより外に出て死ぬことを選ぶ少年たちの話。
人類が最後に住むシティという隔離地域があと七日で終わる世界。大人になれないとわかっているのに生まれてきた主人公たちはその世界の中で哀れみの目で見られており、それに立ち向かうためにシティの外を見に行って死ぬ。
悲しいラストなんだけど、子供たちには残っている冒険心みたいなのが感じられて良かった。特に最後の「全部生きてる!」というセリフが良い。設定の延命型メンテナンスが良いと思ったけど、これ僕の中では漫画HOTELの表題作を連想したからかなと思っている。

★★★ ファーサイド

大人たちが向き合ってこなかった裏側と向き合おうとする話。
世界終末カレンダーの残り日数をニュースで聞く60年代のアメリカ。村にはDと呼ばれる人とは違う生き物がいて、日雇い労働者的に扱われていた。粗暴な性格のDが多い中、ある一人のDは理知的で、彼は家に雇われ、家族とも徐々に親しくなっていく。しかし、ある日、妹が乱暴されて死んだことで、そのDが犯人とされ、私刑されると同時に村からDはいなくなった。主人公は後年、目を背けていた事実を見せるようにカメラに向かって話す。
選考通過作発表前に同じサークルメンバー以外の作品で読んだ数少ない作品。これは僕はここまでの感想見てもわかるんだけど本当に凡庸な言葉しか持っていなくて恐縮なんだけど、本当にすごい話だと思った。スポットを当てた時期、そこに加えたフィクションな設定、物語の運び、どれもすごい。これ連想されうる人種で描くと歴史を使った説教の臭いが強くなってしまうような気がしていて、フィクションの強さを感じる。これがオリンピックの裏側のこのコンテストに存在しているのが本当に良いですね……。

☆☆☆ アクター

四ヶ月毎に自分たちの人間関係がリセットされる世界での、自分と自分より恵まれた関係を持っている友人との会話のショートショート。
グレッグイーガンの貸金庫の全人類適応版だ、と思ったけど、自分の容姿だけは引き継がれ続くのかな。年齢に応じた立場交換シャッフル世界というのが正しいのかも。このアイディアは結構面白く感じた。一方で、全員が全員そうであったら世界の進んできた歴史というのはもっと異なるはずで、その辺りがまだまだ詰められそうな余地がある気がした。その世界観を解き明かしたいというよりは、その余地を詰めておくことで、ごく自然な会話の中でそれが前提であるエッセンスを出せるのではないか、みたいなところを感じている。中々大変そうにはなるけど。

☆☆☆ 終末ドリヴン

経済のために終末まであと七日を信じ込む施術を止めた話。
終末まであと七日と流れるのに、主人公は疑問を感じずに生きていた。だけど、気になっていた受付嬢に振られて、世界が終わってもいいと思い調べたところ、経済発展目的で世界の終末を信じ込ませる施術を受けさせる法律があり、自分はそれを信じていただけだと知る。それを解除して、主人公は施術を受けていなかった受付嬢と一緒に暮らしていく。
全員が妄信的に信じているものから離脱するの、マトリックスを思い出す。ただ、その世界に立ち向かうあの映画とは違い、この作品はその世界を受け入れてどう生きていくかにフォーカスしているように思えた。その観点では、施術解除後の主人公がすぐ受付嬢に出会ってしまい、主人公が孤独にその世界にどう心を持っていくかを試行錯誤する部分が少なくて自分の共感が少なくなったように感じた(「きっとわたしたちは耐えられるだろう。わたしたちは二人だから」というのにもっと葛藤して行き着いて欲しかったのだと思う)。

☆☆☆ だって、長男だから

日本が滅ぶ中でしがらみから逃れられない男はその地で死ぬ話。
五年前、世界の多くが沈没することがわかり、まだマシなアメリカと中国に移民する世界。日本に住む主人公は、地元に残る両親の愚痴を聞き続ける。弟は既に移住し、久しぶりに出会った役場で働くクラスメイトも最後に移住すると聞く。そのクラスメイトにアメリカ行きを誘われたが、自分は古風な価値観もあり、この町に残って死ぬことを決める。
自分にはこの価値観が全く理解できず、共感もできなかった。弟やクラスメイトの行動の方しか理解できないタイプなので申し訳ない。この話は主人公視点であるが、この価値観の衝突や、旧来の考えの固執を物語に昇華しており、その点はすごいと感じた。

☆☆☆ 黒猫の隠匿

地球滅亡の原因の宇宙猫を隠したけど、やっぱ滅亡は止めたので解放する話。
ひと月前、相方の勤め先の動物病院に猫が捨てられていた。それを持ち帰って二週間経った頃、友人を地球人に誘拐されたとわめく王子が星を滅ぼすと言っている、と宇宙人からコンタクトがあり、地球で突然滅亡のカウントダウンが始まる。主人公は宇宙人のいう友人が拾った猫だと気づく。主人公は地球を滅ぼしたいので、隠すと言い、宇宙猫も同意する。最後の日になって、相方は主人公が嫌いな世界のことなんかそもそも気にしていなくて、自分だけがいればいいという言葉を貰って、主人公は宇宙猫を解放して世界滅亡は回避される。
宇宙人の猫の擬態が目でバレるところが興味深かった。世界滅亡を決めてから前日まで話が一気に進んでいるけど、この合間に主人公がどんどん世界が嫌になって滅亡させるという意志を固めていくシーンが入っていたら、なお良かったのかなぁと思っていたりする。そうするとラストやっぱ止めたというのが、唐突な感じではなく、もっと良い感じに受け取れたかなと、自分は思っている。なお、一番気になったのは、宇宙人の王様からの連絡文面がフランクすぎるというところで、皇室やら王室やらの出す格調高い翻訳文面で描いて欲しかった気持ちがあった。

☆☆☆ 『止まれない少年』

自分以外の人々が剥製になって自分だけが残される話。
街中の人々が足下に説明文が置かれて徐々に固まっていく奇妙な世界、主人公の少年は自分が固まるまで町を彷徨い続け、疲れて眠ると自分の住むところは展示のために時間が止められた惑星だという悪夢を夢見て、自分が「止まれない少年」であるから動き続けることに気づいて再び眠る話。
オチが唐突な感じで、まあ説明カードの存在を考えればそうなんだけど、もうちょっとホラーか単なる悪夢に振ってくれた方が面白かったのではないかと感じた。けど、そうするとSFじゃなくなるかもしれない……。自分の好みからは外れているので、何というのか難しいところ。

★★☆ シックスティーン・オブ・ハイ-ファイ

滅亡する世界の中、少年は人生が短く終わってしまうことに対してキレる話。
日本の裏側にブラックホール的な特異点が突如発生して、それが世界を飲み込んでしまうまであと七日。未来がなくなった主人公の少年は同級生の少女と共に潰れたレンタルビデオ店内で映画を見て過ごす。彼女が自身の家族関係を吐露し、それぞれ家に帰るも、自分は親と会うことはできず、再び彼女とレンタルビデオ店で出会い、世界の終わりにどうしようもない怒りをぶつけながら世界の終わりに飲み込まれる。
同じサークルのパニック映画担当の作品、僕のあらすじメモだと全ての良さが失われる。これすごいところは、世界が本当に終わっていく光景の描写。様々な緊急放送が流れる中、「人生無意味」と落書きされ放火された建物が存在する。そういう終わっていく光景と、主人公の短い人生オーバーラップさせるの、本当にすごいんですよ。街中の混乱は随一の出来だと思う。でも、僕は著者の長編を読んで正解を知ってしまったから、これには満点はつけれないんですよ。この作品は滅びにしたから描くの難しいのだけど、もっと力強い正解を描かれないともう僕は点数を上げられない……。

★★★ 終わりの日まで生きる

世界が滅ぶけど、介護と学童を続ける話。
彗星の衝突で世界が滅亡するまであと七日だが、主人公には認知症の母親の介護と学童の運営という仕事があった。世界の終わりが進むにつれて、介護のデイサービスが終わる中、それでも親の仕事や育児放棄など様々な理由で家に帰ることができない子供たちのために、主人公は認知症の母親を学童の場所に連れてきて、帰る場所のない不登校の中学生と共に学童を運営し、最後まで善く生きようと決意する。
二次選考通過作品のうち半数ぐらいが滅亡する世界の過ごし方の話で、大体は主人公が欲望に忠実に生きる話なんだけど、これだけは本当に善く生きることを描いている。SFガジェットとか特異な天体現象とかそういうものは一切なくて、起こっている事象の切り取り方も好みってわけじゃないんだけど、本当に目指す世界の良さというのが出ていて、もっと評価されて欲しい気持ちがかなりあるので、好みの方向がはち切れた。本当に善い日常の話だと思う。良かった。

☆☆☆ 神様への願い事

自分の願いによって世界が滅亡する話。
この世界は失敗だったので神様は地球を滅ぼしてやり直すことを決めた。神様が世界を滅ぼすかどうかを決めたのはたまたま目に入った「夫が不倫を止めないなら世界が滅亡しますように」という私の願いによる。そして、ちょっと前に転勤してきた人も世界の滅亡を望んでおり、不倫相手側に当たる立場だったことをがわかる。彼女と人間関係の話をしながら、最後は一人で世界の終わりを迎える。
前半のネットの反応が入っている記者会見の様子は楽しく読めた。後半が単なる人間関係の話になってしまっていて、願いが叶っていない人とあまり変わらないのではないかという日常の話になってしまって好みからは外れてしまった。

☆☆☆ めめんともり

世界が残り七日で終わると想定して生きる人生の話。
世界が残り七日で終わると想定して、人生について考える一週間がある世界。主人公は同性のパートナーと共に田舎で農業をして暮らしていた。幾回ものその一週間が来るぐらい時間が過ぎる中、病気となったパートナーは徐々に衰弱していく。そして、ある一週間はそれが本当に最後の一週間で世界は滅ぶことがわかる。主人公は廃墟のようになった病院から彼を連れ出して家に帰る。
避難訓練の最後は本当の災害でしたという中で相手への想いを描いている話だと思うのだけど、自分はあまりしっくり来ていない。めめんともり事業が描きたい事柄とかみ合っていない気がしている。これなくても成立するような気がしていて、例えば、限界集落化が進むことでも公共システムが悪化していくわけで同じような演出ができるように思った。なので、きっともうちょっとめめんともり事業と連動していた方が良いように思えた。また、この文章だけ読むと、この一週間毎にパートナーが徐々にないがしろにされていると思えるように描かれているけど、この事業自体は毎年あると最初にあるので、するとこの一週間以外の五十一週間の出来事があるはずなんだけど、それを考えるとこのような話にはならないんじゃないのかという気が自分はしている。まあ、一方でそれを描いてしまうと多分こんな綺麗な話としてまとまらなくなるので、こうとしかできない気はする。難しい。

★☆☆ 初夏の田舎町、老人、ユビティ、世界の終わりとサポートロボット

サポートロボットの大冒険の話。
ユビティというAIを用いた社会システムが整備された未来、老人と住む主人公のサポートロボットは、世界の終わりを言う不思議なニュースを聞く。そのニュースはユビティに依存しないAIにしか聞こえないもので、主人公ロボットへの野良ロボットの宣戦布告であった。それに応じるべく、ロボットは立ち向かい、打ち負かされた野良ロボットは主人公と共に老人のサポートロボットになる。
人間とは無関係にAI同士が勝手に戦って終わるという流れは好き。わかる。一方でロボットがロボットらしくないところがちょっと不満なんだけど、まあそれは自分で書けやという話ですね……。だけど、スマホで連絡を取るのはちょっと納得ができなかった。多分、スマホは共通化が進んでいくうちに消えて言ったもので、その前にシズが登場したことになる。で、じゃあ、その当時発売されたシズは人間のサポートのためにスマホを持たせてくださいってなるかというと、どう考えてもならずに通信機能を内蔵する方が自然なので、スマホ背負っているのはなんか変だと思うんだよなぁ。と思ったけど、この国にはロボホンがあるので良いような気もしてきた。リアリティは難しい。さておき、共通化基盤の設定が結構好みだったのだけど、メインのロボット同士の戦いに向けてその要素が描かれなくなっていったのが少し残念に思った(共通化基盤さんではなく、外国人にも馴染んでいる共通化基盤のある社会システムに関心が向いていた)。

★★★ 君のチャネルが開くとき

少数派の日本人である小学生が太陽を作った男を見てしまう話。
テレビ放送では世界の終わりをカウントする発言だけが残された日本語になった、外国人が多数派となった日本の一地域。主人公である日本人小学生の朝は暗い。両親共にこの世界に疲れた感じで、自分も学校内では変わらなければならない異物としての扱いに苦しんでいる。そんな中、町外れの老婆の家からは日本語の放送が流れ、親友の日本人の少年と共に侵入すると、老婆に捕まり日本が豊かだった時代のカルト映画を見せられる。それを見た主人公は外のメディアに救いを求めて生きていくことに決める。
同じサークルメンバーの作品のあらすじ書くと本当に僕が何も読めていないことがわかる。辛いが読解力がないんだから仕方ない。さて。被差別側の話を書くのは難しい。基本的に感情移入が難しいからだ。となると理解できる側を被差別側に持ってくるしかないのだが、そうすると大体迫害される理由が謎になる。いくつかのラノベで見た覚えがあるの、色白銀髪美少女が病的っぽくて不気味だからと迫害されるみたいになる。いや、まあ美少女出したいだけだから仕方ないのだが。一方で本作は単純に移民が増えて日本人は減ったという終わった未来の日本で描いている。これはわかる。そして、起こっているのは語学学習の失敗による情報格差の発生と、それによる民族意識の先鋭化である。わかる。ただ、この話ではそこで流し込まれるのが国粋主義的テロ思想ではなく、太陽を作った男というハイセンスさであり、主人公たちの救いはフィクションという想像力にあるのではないのかという希望に満ちた終わりをしている。
これ本当に解釈すればするほど、良い味が出てくるのだけど、著者である同サークルの良心担当、絶対そこまで考えていないだろという気持ちはある(考えてますよーとか言われそうだけど)。あるけど、僕はこの話こういう理由で好きなので評価されて欲しい。オリンピックの開会式担当が差別問題で燃えたし。

☆☆☆ きっと彼は猫になる

輪廻転生でアイドル(仮)になりたい少女と猫になりたい少年の話。
全寮制の学校に通う主人公の少女の世界には、先生と事務と世界の終わりをカウントするテレビしかない。世界の終わりまであと七日と言われるけど、進路志望を出さないといけず、少女はアイドルを少し夢見る。そんな中、転校生の少年がやってきて、彼は猫になりたいと言った。彼とのコミュニケーションを経て、世界の終わりなのにテスト勉強をして、そして、自分は事故に遭って、ここは死後の世界ではないかと気づく。二人は自分たちの不完全な進路志望を未来として受け入れ、この死後の世界が終わり、次の新しい世界が始まるのを待つ。
輪廻転生をうまく落とし込んでいて、丁寧に世界が描けており、興味深くは読めた。この世界観なので多少不自然なところがあっても、これはあくまで主人公視点の天界みたいな場所だからというので成立する。こういう人間関係の話が好きな人には良さそうに思えた。

★★☆ 終わる世界は終わらない

異次元を航行する宇宙船が晴海に突っ込んでくる話。
世界滅亡をカウントダウンする放送がテレビジャックで流れ始めた世界。主人公は教授と共にその謎を分析し、異次元を移動する宇宙船の救難信号であることを割り出す。政府は宇宙人とコンタクトを取るも回避する手段は持ち合わせず、異次元から現れた宇宙船は晴海のタワマンを破壊し、何も終わらない面倒な日常が続く。
僕は自分に甘いので、甘く評価はつけた。はい。その辺りの制作上の苦労はもう振り返った。

駆け込み作品だったので、最後に自作が来たわけだが今回選考に残った全作品を読むと自分の作品が残った理由がわかった気がする。単純に自分の作風がニッチだったからだ。数え方にもよると思うが、二次選考通過の四十作品のうち、二十一作は「世界が滅ぶから家族・恋人・親友などの狭い人間関係を再確認する話」であった。世界が滅ぶ話でも人間関係の話を主題に置かないだけで少数派っぽくなるのだ。おそらく、全投稿作でも同じ傾向にあると思われる。
本作は「共通の書き出しが実際のニュースと無関係」で「作中人物はこの謎解きメインをする」、多数派とは逆の構成なため、二次選考通過作品の中でユニークな立ち位置となった気がする。投稿作品に同じ傾向があるなら、うまく物珍しさを確保できたことでここまで来たのではないかと感じた。
そう思うとニッチとしてどこに注力したかを是非紹介したい気持ちになってくる。一つ目は最初のテレビジャックが灰色のブロックノイズである点だ。2011年に地上波デジタルに切り替わったため、現在のテレビは砂嵐で知られるスノーノイズを発生させない。二つ目はRasberry Piにテレビ放送でも使われるフォーマットのハードウェアエンコーダー・デコーダーが搭載されているという話だ。ffmpeg結構使うので買おうかなと少し思った。以上、こういう設定がニッチにウケたのだと僕は信じている。
選考から漏れた作品だけど、この設定の方が最強だとかあれば、ちょっと読みたいので教えてください。

まとめ

感想や指摘、基本全部無視した方が面白くなる。頑張りましょう。

(古いネタの動画が消えていて寂しいですね)

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