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「ウイルスは生きもの?」境界線上のあいまいな存在と、細菌と、人間のフクザツな関係

こんにちは、物理は苦手でも生物学は大好きな ものづくりナビゲーターの やのえみです。

新型コロナウイルスの感染が拡大し、日々の行動になにかと制限や不自由がつきまとうようになって久しいですね。

思い返せば昨年の冬、感染拡大初期は、あらゆるテレビやネットの情報が「感染対策」「新型ウイルスの正体」などでもちきりでした。
そのころの報道は情報も断片的で、なんだか分かるような分らんような内容が多かった気がします。

感染の再拡大にあたって、当時のモヤっとした気持ちを思い出したので、「ウイルスってなんだろ?」という部分を、ライトに再確認したいと思います。(今さら感なんて気にしない!)

ざっくりおさらい:細菌とウイルスのちがい

(※そんなん常識やん!という方は読み飛ばしてください)

細菌もウイルスも、人の目には見えません。そして、ヒトや他の動物たちの病気の原因になることがあります。ならないことも、もちろんあります。

小さすぎて目に見えないところは同じ細菌やウイルスですが、それぞれ名前が違うということは、何かはっきりと「ここが違う!」という特徴があるはずです。

異なるところは、いろいろとあります。
大きさ、からだの表面の素材やつくり、ほかの生き物のどの組織に感染できるか。

しかし一番の違いといえば、やっぱり「自分だけで増殖できるか?」です。

増殖(繁殖)に異性のパートナーが必要な、いわゆる「有性生殖」か?ということではなく、人間の体で日々起こっている体細胞分裂のような、自分自身のコピーをつくる増殖です。

ウイルスはそれができません。ウイルスのからだは細胞ではないので、他の生き物の細胞に感染して、そこの細胞分裂システムを借りて増えるしかありません。

細菌は、そのシステムを持っています。適切な環境と材料があれば、自分自身で増えていくことができるのです。


細菌は生きもの。ウイルスは生きもの?

さて、ここからが本題です。

ウイルスが生きものかどうか?という話には、さきほどの「ウイルスが自分だけで増殖できない」ということが深く関わってきます。

多くの科学者たちが合意する「生きものの定義」のなかに、「自分で増殖できる」という内容があります。(定義も、時代やら新発見やらで変化するものですが、いまのところは。)

アウトやん、ウイルス。生きものではなさそう。

実際、少し前の教科書には「ウイルスは無生物」と書かれていました。生物学では常識なのです。

でもその常識が揺らぎだしています。なぜなら、「めっちゃウイルスに近い細菌」や「ものすごく複雑なウイルス」が見つかったから。

前者は、他の生きものの細胞に寄生して、もうその生きものなしには増えることができないほど「自分を増やすシステム」を手放してしまった細菌。
これはもう、ミトコンドリアのように細胞小器官のひとつになる日も近いかも?というレベル。(ちょっとおおげさ)

細胞の中にあるミトコンドリアは、もともとは細胞の中に共生していた別の生きものだったのが長い年月の中で「細胞の中のパーツのひとつ」に変化していったと考えられています(細胞内共生説をざっくり意訳)

後者は細菌と同じくらいたくさんの遺伝情報を持っているウイルス。
それまで知られていたウイルス(数個~数十個)とは比べ物にならない数(2500ほど)の遺伝情報を持っていました。
先刻触れた「めっちゃウイルスに近い細菌」の、じつに20倍近い遺伝情報があります。

遺伝情報が多いということは、それだけ複雑な存在であるといっても過言ではありません。
前者を生きもの、後者を生きものでないとするのは
「ペッパーくんレベルのロボットでもコンセントに挿さな動かんから、ソーラーパネルで自家発電してユラユラするおもちゃのほうが偉いんや!」
と言っているような違和感がありませんか?

ということで、科学者さんたちの意見も割れていて、現在のところウイルスは「生きものかどうかビミョー」という立ち位置です。

こちらのページを参考にさせていただきました。https://synodos.jp/opinion/science/20043/
私の書いた内容はかなり端折っているので、ぜひ中屋敷先生の文章でも読んでください!

人間とウイルスや細菌の関係ー感染症

人間と、ウイルスや細菌をつなぐものといえば、やはり「感染症」でしょうか。
パンデミック真っただ中の新型コロナウイルスに限らず、ウイルスや細菌によって引き起こされる感染症の流行は、時代を超えて人類を苦しめてきました。

例えば天然痘。ワクチンの先駆けである種痘が発見されたことでも有名な、ウイルス性の流行り病です。
明治時代までの日本でもたびたび流行が起こり、多くの人が亡くなりました。

ただこの天然痘は、1980年にWHOにより根絶宣言が出されています。以降の感染確認もありません。
WHOが「天然痘根絶計画」をつくり、実行して、見事成功させたのです。
ただし、かなり大規模な計画で、かつ偶然に恵まれた感がある事例だなあと個人的には思います。正直、今では再現できなさそう…。

このあたりの経緯はたいへん興味深いです。ひとつご参考に。https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/445-smallpox-intro.html

脱線が大きくなりましたが、ここで言いたかったのは「ウイルス性の感染症は根絶できることがある」ということ。
ウイルスは自身では増殖できず、感染できないまま乾燥や紫外線などにさらされ続ければ壊れてしまいます。
そのため理論上、感染個体から次の個体に感染することを100%防止できれば、そのウイルスは地球上から消えるのです。

もちろん、ヒト以外にも感染するウイルスなら感染予防も難しくなりますし、感染力が強ければワクチンを一人一人接種するのは時間がかかる。ウイルスは変異が速いので、次から次と変異株や新種ができて既存のワクチンや薬は効かなくなる。と、問題は山積みで、根絶というのは本当に現実味の薄い話なのですが。

その点、細菌性の感染症は根絶できないと考えられそうです。
細菌なら、感染の連鎖を止めても環境中のどこかで生き延びられるのですから。
ただし、公衆衛生が向上すればヒトへの感染や流行も防げますし、なにより抗生物質などの抗菌薬が幅広く効きます。

日本でなじみのある細菌性感染症といえば、結核でしょうか。かつては不治の病として恐れられた結核も、今では適切な治療により死亡率はぐんと下がっています。


新型コロナウイルスの感染拡大初期に、京大の山中伸弥教授がコメントを求められ述べていた言葉がとても心に残っています。ざっくり要約すると、
「ウイルスに勝つのではなく、共生する道を探すべき」

今のコロナは感染が広まりすぎて社会に悪影響が大きい存在ですが、特効薬ができたり、ワクチンが普及したりしていくことで、医療機関の機能を圧迫しない程度に感染が抑え込めるようになっていくはずです。

新型コロナも早く、インフルエンザみたいな存在になってくれないかなあ。

蛇足ー感染症だけじゃない、ウイルスと人間の関係

ウイルスは全部が全部、人間に悪さするわけではありません。
悪い奴はいっぱいいますけどね。

生物の進化にウイルスの感染が一役買ってきたんじゃないか?という説があるんです。

というのも、ヒトやらのDNAのなかに、ウイルスとそっくりな部分がちょいちょい紛れ込んでいるんですって。

つまり、われわれのご先祖(ヒトになるずっと前かも)にウイルスが感染して、ご先祖の細胞を借りて増えようとしてる最中に、うっかりウイルスのDNAやRNA(遺伝情報)がご先祖の遺伝情報に混ざっちゃった、と。

そのおかげで(せいで?)、ご先祖が新たな能力や特性を獲得する、ということがあったのかもしれないと。

そもそも、生物の遺伝情報はときどき書き換わっていくものです。
細胞が増殖する際に偶然のコピーミスが起こるためです。(何十万回に一回とかの頻度、しかもひとつふたつのミスでは影響が出ない)
その小さなミスが積もり積もって、進化につながるという説が有力視されています。

ウイルスの遺伝情報混入は、そんな偶然待ちの進化を速めていたのではないか?と考えられているんですね。

おわりに

人間とウイルスや細菌について、思い出すまま書かせていただきました。

生物に関わるものの境界線はあいまいでグラデーションのようですし、それらのバランスの変化が私たちの対面する世界の変化として捉えられる。
生物を学ぶごとに、世界の流動性が意識されます。

最後に関連図書の紹介を。
福岡伸一先生の『生物と無生物のあいだ』
生物学がどうとかいう以前に読み物としておもしろい名著です。ご一読あれ

ものづくりナビゲーター やのえみ

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