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エッセイ

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記事一覧

切り花

机に飾ったトルコキキョウが茶色く変色し始めていた。切り花なので仕方無いのだけど、花が朽ちていくのを見るのは少し心苦しい。

近所の花屋で買ったものだった。商店街の中の、知人がアルバイトをしているその花屋で花を買うのは2回目だった。前回買ったのは花束で、予算と色の希望を訊かれ私が曖昧に「暖色…?」と首を傾けながら答えると店主が慣れた手つきで小ぶりの可愛らしい花束を作ってくれた。1分もかからない。凄い

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巡礼のようなもの(2)

 その美術館が「日本で1番高いビルの中にある美術館」らしい、とこれを書いている今、知った。あべのハルカス16階、展望台のチケットカウンターと同じ階にあるあべのハルカス美術館は、「館」ではないような気はするがショッピングビルの中にあるにしては意外なほど企画展が豪華な美術館である。

 出掛けることに躍起になっていた時、「大阪 美術館」で検索して出てきたものの中に、「マティスとルオー展」があるのを見

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巡礼のようなもの(1)

 絵を見て泣いたことが一度だけある。

…などと言うと「感性の豊かさ自慢」みたいになりそうで不安だ。合唱コンクールで泣けなくても卒業式で泣けなくても人の死で泣けなくても、問題はないはずだ、そうであって欲しいと願っていた自分がこのような書き出しをすることに少なからず違和感があるし、ここで合唱コンクールと卒業式と人の死を並べる感覚に既にかなりの気持ち悪さと痛々しさがある。泣くことが悪いとか狡いとは

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家に辿り着くまでに3回は立ち止まる

ありふれた理由で眠れなくて、ありふれた理由で深夜外に出ることがある。大学生の4割程が発症するような月並みな病だから経緯については省略しようと思う。有難いことに私の家から喫茶店まで徒歩6分、これはポップスなら1曲半、ジャズなら1曲終わらないくらいだ。移動距離をキロメートルではなく曲数で表すのはどうやら一般的ではないらしいと最近知った。
そのように近くにお気に入りの避難所があるので、眠れない時はそこへ

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「動物園のホッキョクグマみたいに」とかいうかなり限定的な場面でのみ使用される比喩(2)

幾何学模様を眺めるのが結構好きだ。トルコやウズベキスタンのタイル貼りの建物とか、草間彌生の作品とか、曼荼羅とか、「おやすみプンプン」にたまに出てくるあれとか、あとは音楽に合わせて波形が動く動画(オーディオスペクトラム?)とか。

「電話中に手慰みに図形を書く」という行為が、当時の私は少し怖かった。

思うに、幾何学模様って少し「怖い」のだ。頭が痛い時に目を閉じるとたまに瞼の裏に映る模様。「疲れ

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「動物園のホッキョクグマみたいに」とかいうかなり限定的な場面でのみ使用される比喩(1)

電話をする際に手慰みに何かしらの図形を描く人間というのは一定数存在するらしい。私は長らく、それをするのは自分の母親だけだと思っていた。

よくもまぁそんなことを覚えているものだと思う。というのも、母がそのように電話中に何かを描いていたのは私が7、8歳になるまでの話で、その後ぱったりと描かなくなったからだ。
彼女が描いていたのは大抵図形のようなもので、特に意味はなかった。居間に置いてある油性ボールペ

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川向こうの家の庭の桜で開花状況を確認する

春が来るらしい。というか既に来ているらしい。夏より冬の方が好きだ、四季の中で1番冬が好きだと語ったその口で寒い寒い耐えられない死んでしまうどうにかならないのか、とか言っていたらいつのまにか暦の上では春になっていた。そこらへんも含めて冬が好き、ということにしたい。…春の話は?

家の近くに公園がある。私の自宅をご存知の方は今脳裏に2つくらい候補が浮かんだかもしれないが、多分どちらも違う。先日も「10

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