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退学日和

 卒論、一週間後締め切りだと思ってたら三日後だった。
 追い詰められた人間の文章が一番おもろいよね(注1)のノリで編集画面を開いたけれども、普通にヤバい。ヤバいので過去の話を切り売りして現在の危機から目を背けるやつやりたい。自分、やる気だけはあります。ヤルキモノですので。進化するとなまけますが。

注1……天野視点も味わい深くてすごかった。どじろー先生、神とさせていただきます。


 7年前のこの時期、俺は高校をサボるようになった。
 理由はよく覚えていない。成績は低かったがそれに拘泥するほどの熱量もなかったし、人間関係にさしたる不具合も生じていなかった。部活だってそこそこ楽しかったのだから、理由なんてないのかもしれない。ツイのオタクがよくリアリストぶって「歴史は勝者によって作られる」とニヤケ顔で主張している(注2)が、実際のところは「歴史は現在と過去が入り混じる」くらいが正確だと思う。つまり、現在の俺が過去の理由についてあれこれ理屈を並べるのはここでは控える。

注2……画面の向こうの人物の表情なんて知る由もないが、オタクは苦労を知らないため顔が幼く、そして常に何かを小馬鹿にしていないと精神が安定しない生き物なのでこの推測は正しいと思う。

 

 ここで少しだけ言及しているが、当時の俺は早朝に意気揚々と学校へ行くと見せかけ、途中でどこかに寄って無限に等しい時間の空費を試みていた。最も頻繁に利用していたのがコンビニだ。学校へ向かうまでの道にちょうど構えていた店に入り、店内を少しだけ物色してからトイレに入る。そのまま一定時間を過ぎるか誰かに催促されるまで個室に籠った後に店を出て、そのまま近所をぶらぶらするか誰もいない時間を見計らって家に舞い戻るかを選んでいた。
 ストレスフリーな環境に逃げ込んだはずだった俺だが、却って他人の目が気になってイライラするようになってしまった。制服を着た高校生が真昼間からここをうろうろしているのは不自然だろうか。校名がバレたら問い合わせされたりするだろうか。そして最も恐れていたのは、知り合いに出会うことだった。必然、少しでも知人に似た背格好の人間を見つけ次第脇道や物陰に逃げ込むようプログラムが最適化され、常に周囲に気を配る必要性が生じてしまった。今も人の目が気になるのは多分にこの時期の影響もある。

 一月末だっただろうか。その日もコンビニのトイレで瞑想を試みたが、やたらドアを叩いて呼びかけてくる人間がいた。というか母親だった。いつから俺のエスケープに気付いていたかは定かではないが、とにかく俺は家へと強制送還され、たっぷり説教される羽目になった。
 自業自得ではあったものの、ここからの数週間は正直堪えた。なんせtsukumo312少年は既に学校に通う気力は消え失せており、あとはいかにして学校を辞めようかという計画の方にばかり意識が向かっていた。なんとか”まとも”な生活を送らせたい両親さんサイドの意向に沿ってたまにはきちんと登校したりしたものの、落伍者予備軍、いや既に崖下にいる人間に送られる心配と憐みのまなざしや言葉が熱くて痛くて苦しくて、特に仲の良かった同じ部活の人間(注3)にも「や、小生は最近哲学をやってて~」などと意味不明な説明をしたりして脱落理由を誤魔化した。本当はニーチェの思想もろくに覚えちゃいないのに。ミスター衒学趣味にも成れなかった雑魚、哀れ。

注3……最後に会ったのは二年前だが、雰囲気は菅田将暉に似ているし内面も本当によくできた人間だと思う。将来国を背負ってほしい。

 辞めるのを決めてからも次の学校をめぐる熱い攻防(注4)や学校見学パート、発狂して夜に突然家を飛び出すも2キロほど歩いて家に引き返す情けないプチ家出など粒ぞろいのエピソードがあるものの、思い出すだけで死にたくなるので今回は書かない。ただ、最低な夜を切り裂くことに失敗してとぼとぼと橋の上を歩く無力感と、学校を去る手続きを済ませた日に担任と部活の顧問から温かいエールを頂いた時の悔しさだけは忘れたくないなとは思っている。

注4……俺は本気でN高を希望していたことだけは記しておく。KADOKAWAさん、俺の作品を拾い上げてください。


 とりあえず、高校はちゃんと行った方がいい(健常者エミュレータ事例集)。成人式もそうだが、「行かなかった」ことをアイデンティティとする情けないルートを歩むと予後が極めて良くない。俺は早く真人間に戻りたいので卒論を書く。



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