経産省が「2025年の崖」対策の第2弾 「DX銘柄」と「デジタルガバナンス・コード」を読み解く(下)
1回目の会合は検討テーマの羅列で終わる
デジタルガバナンス検討会初回の様子を描写すると、攻めのIT経営銘柄選定委員会で委員長を務める伊藤邦雄氏(一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授)が座長として中央に座り、経産省側は商務情報政策局 局長の西山圭太氏を筆頭に審議官、課長、課長補佐らが顔を揃えた。
2020年1月22日に経済産業省で開かれた、「デジタルガバナンスに関する有識者検討会」の第1回会合の様子
委員は、DXレポートおよびDX推進指標の作成を担った「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」座長の青山幹雄氏(南山大学 理工学部 ソフトウェア工学科教授)以下、製造業、金融・証券、投資機関、IT業界などを代表する計17人だ。傍聴席の最前列に随行者、オブザーバーが陣取り、一般傍聴者約50人が2列目、3列目にびっしりだった。
写真から分かるように、会合の様子は全体が黒で覆われている。男性が圧倒的多数を占めているだけでなく、申し合わせたように同じ色合いのスーツで埋め尽くされている。1回目ということもあって、主旨説明と委員1人あたり3分間のショートスピーチで大半の時間を費やした。その中から記憶に残った発言を取り上げておく。
「DXは働き方改革にも通じるので、ダイバーシティ、なでしこ銘柄との連携も考えていい」
「デジタル人材とIT人材は近いけれど不連続だ」
「デジタルは生き物なので常に進化する。DX指標もデジタルガバナンス・コードも不変固定であってはいけない」
「DX推進指標もデジタルガバナンス・コードも産業界に周知・浸透しなければ存在しないのと同じ。普及策が重要」
「DX推進の必要性だけでなく、IoTやAIの利用が広がるとマシンツーマシン(M2M)のリスクが増えることも考慮しなければならない」
──と、曼荼羅図のようにさまざまな検討テーマが羅列され、本格的な意見交換に至る前に時間が過ぎていく。事務局が提示した「議論いただきたいこと」は次の図のようだった。
図:第1回会合で事務局が提示した「議論いただきたいこと」(出典:経済産業省 デジタルガバナンスに関する有識者検討会)
いつ、これらの議論に入っていけるのか。これで収拾がつくのか? と思わせた、第1回目の会合だった。
決算説明にDXを盛り込む?
この種の会合の初回は、委員に思うところを自由に述べてもらい、2回目で論点整理、3回目で意見集約というのが流れ。しかし、おおまかな方向性は事務局説明資料(下図)に示されている。
図:日本企業のDXレベル感(出典:経済産業省 デジタルガバナンスに関する有識者検討会)
日本企業のDXレベル感をピラミッドで示したこの図によると、情促法改正のうち、⑤の「優良な取り組みを行う企業を認定(DX格付、仮称)」は、4つの階層(「DX-Ready以前」を除くと3階層)を想定している。「DX-Ready」「DX-Emerging」「DX-Excellent」の最上位に位置する企業群が「DX銘柄」というわけだ。
第1回会合では「上場企業ばかりでなく、非上場の中堅・中小企業も視野に入れてはどうか」という意見が出た。なるほど、確かに非上場の中堅・中小企業は小回りが効き、オーナー経営者の一存でビジネスモデルを転換することができることがあるだろう。
強みと弱み/チャンスとリスクの把握、ビジョンの策定、戦略と体制の整備、ステークホルダーとの情報共有といった要件が整っているならDX-Readyに認定しない必然性はない。ただDX格付ないしDX銘柄の目的が、日本企業の競争力強化にあるとすれば、企業(事業)規模でなく、主戦場がグローバルかドメスティックか、ビジネスモデルが輸出型か輸入型が、という整理もある。
もう1つ、検討会で出た検討課題に「人材をどう確保するか」があった(関連記事:情勢変化に対応した人材指針を出さすに「人材が足りない」は敗者の言い訳)のように、「人材」はしばしば「逃げ」を打つときの常套句として使われる。
無論、検討会の委員にそのような考えは毛頭ないのだが、異論として提示された「人材を雇用する発想から、プロジェクトごとに契約する方向に転換する必要もある」こそ、DX時代の考え方かもしれない。
問われるのはデジタルの影響把握と戦略の達成度
では、認定の要件となるデジタルガバナンスはどのような内容となるだろうか。詳細は検討会の議論に委ねられるのだが、経産省が重視しているのは、以下の3点にについて、経営陣や取締役会が正確に把握して見える化し、ステークホルダーと情報を共有することだ。
●事業にデジタル技術が及ぼす影響
●ビジネスモデルを実現する戦略と体制
●戦略の達成度を測る指標
ところで、筆者の個人的な見解だが、デジタル技術が及ぼす影響には、チャンスもあればリスクもある。チャンスはどんどん追求していけば良しとして、大切なのはリスクの把握だ。20世紀型ビジネスモデルの低生産性・高コスト体質、アナログ時代に形成された価値観の崩壊(Digital Disruption)、少子高齢化社会の深化による消費の縮小と労働人口の減少、社会コストの増大、地球環境問題に起因するエネルギーの構造変化……。
いずれも企業ひいては産業の未来にかかわってくる。それを企業経営や投資の問題ととらえれば、株主総会のチェック項目にデジタル時代への対応を加えたり、決算短信や貸借対照表にIT投資に関する説明を義務づけたりすることもあるだろう。
旧来のバッチ処理ベースの業務系/管理系システムを「守り」の投資とすれば、リアルタイム経営を実現するDXは、事業を拡大し企業価値を高める「攻め」の投資にほかならない。双方の投資バランスが適正かどうか、DX対応の姿勢が収益をどう左右するか、リスク管理と企業経営の観点で一般投資家や就職希望者が評価できるようにする──。
いや、以上はあくまで筆者の空想、妄想だ。しかし2周回、3周回遅れと言われる日本企業のDXを真剣に考えるのなら同意してくれる向きもあるのではないか。
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