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【弁護士・佃克彦の事件ファイル】判決要旨交付拒絶事件_Part1

フリーのジャーナリストには判決を渡さない裁判所


今回は、赤坂警察署裏ガネ疑惑事件を「噂の真相」でスクープしたフリージャーナリスト寺澤有氏自身が原告となった事件をご紹介します。

事件が起きたのは1996年9月。寺澤氏が、愛媛県警の警察官による拳銃不法所持事件の判決言い渡しを松山地裁で取材したときのことです。法廷に出てきた裁判長は判決言い渡し前に傍聴席に向かって「判決要旨を希望する報道機関の方はあとで取りに来て下さい」と言いました。法廷での口頭による判決言い渡しでは内容が正確にはわからないため、世間で話題となった事件では裁判所はしばしば、報道機関のために、判決を要約した文書(判決要旨)を配布しているのです。

この件のレポートを週刊誌に載せる予定だった寺澤氏も、閉廷後に地裁の担当課に行きました。しかし地裁の担当者は「記者クラブ加盟社以外には判決要旨は渡せない」と言い、寺澤氏には判決要旨を渡しませんでした。

その後寺澤氏は懸命に裁判所側と折衝し、担当者は電話で一旦は判決要旨の交付を約束しました。ところがその電話を受けて寺澤氏が改めて松山地裁に行くと、担当者は前言をひるがえして「やはり渡せない」と言い出し、結局寺澤氏は判決要旨をもらえませんでした。

判決というものは、必ずしも判例集などの公刊物に掲載されるものではありません。また、仮に掲載されるとしてもそれは、半年から1年以上も後のことになってしまうものです。ですから、松山地裁の今回の措置は、およそ記者クラブ加盟社以外には判決内容を知らせない行為といわれても仕方がありません。また今回の場合、加盟社以外で交付を希望していたのは寺澤氏だけだったうえ、担当者は一旦は交付を約束したのですから、ことさらに交付を断る必要はなかったでしょう。

今回の裁判所の措置は、あらゆる観点から合理性のないものであったといわざるを得ません。

記者クラブだけを優遇するな


記者クラブとは、官公庁などがその施設内に取材のためのたまり場や会見室を設け、そこに集まる報道各社の記者が組織化されてできたものです。実際には多くの場合、大手の新聞社や放送局だけで閉鎖的にクラブを組織して官公庁の取材施設とその庁の記者発表を独占し、外部のジャーナリストはその庁舎内の施設の利用も記者会見への出席もできない状態に置かれています。

このように記者クラブは、閉鎖的な組織を形成すると共に、官公庁から独占的な便宜を受けていることから自然と官公庁に逆らわない取材態度に陥りがちであり、その閉鎖性と権力の宣伝機関と化した姿勢が、以前から多くの人々の批判の的になっています。

今回の松山地裁の措置も、記者クラブルートにのみ判決要旨を渡すというものであり、まさに記者クラブの悪弊をそのまま反映したものとなっています。これをこのまま容認することは、国と記者クラブとの馴れ合いを助長するおそれがあり、報道が市民の知る権利に真に応えることができなくなってしまいます。寺澤氏は、このような国と記者クラブとの馴れ合い体質に風穴を開けるべく、今回の件で裁判を起こすことにしました。

法律的には、記者クラブだけに判決要旨を渡し、非加盟のジャーナリストに対し「クラブ非加盟」を理由に判決要旨を交付しないことは、法の下の平等に反し、また、非加盟のジャーナリストの取材・報道の自由を侵害するものといえます。そこで、このような権利侵害を理由に、寺澤氏は1999年9月、国を相手に慰謝料請求訴訟を提起しました。

今回の訴訟代理人は堀敏明弁護士と私です。私は堀敏明弁護士とは、赤坂警察署事件を一緒に担当しています。次回は、一審の模様をご報告します。

part2に続く

佃法律事務所 弁護士 佃克彦
“正義の味方”にあこがれて弁護士になり、気がつけばもう30年。さまざまな事件に出合い、数多くの経験をしてきました。事案に応じて他の事務所の弁護士と連携し、フットワークは軽く、しかし強い信念を持って皆さんの人生やお仕事における前進のお手伝いを致します。お気軽にご相談下さい。

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