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【弁護士・佃克彦の事件ファイル】判決要旨交付拒絶事件_Part2

被告国側の余裕の(?)答弁


松山地裁に判決要旨の交付を断られた寺澤氏が国を相手に起こした損害賠償請求訴訟の第1回期日は、1999年12月に開かれました。

被告国側の答弁書は、主張部分が3頁程度の極めて簡単なものでした。

被告の主張を要約すると、「たしかに原告寺澤に判決要旨を交付しなかったのは事実である。しかし、裁判所がしている判決要旨の交付は、単にサービス(便宜供与)で行なっているに過ぎないのであって、交付が法律上義務づけられているわけではない。したがって、誰に交付するかは裁判所が自由に決めることができる。そして、速報性を重視して記者クラブ加盟社だけに判決要旨を交付したという松山地裁の判断は不合理ではなく、原告寺澤の報道の自由を侵害しないし、法の下の平等に反するものでもない。」というものでした。

しかし、法律上定められていない単なる便宜供与であっても、その便宜を供与するにあたって差別をしてはならないのは当然であり、「単なるサービスだから誰に渡そうと国の勝手」とはいえません。また国側は、「速報性を重視して記者クラブだけに渡したのは合理的だ」といいますが、速報性は週刊誌でのレポートを控えた寺澤氏にもあてはまるのであり、「速報性を重視するから記者クラブだけ」というのは、牽強付会に過ぎません。

このように国側の論理は、憲法の基本原理からからすると説得力がないのですが、現実の裁判の世界ではこの憲法理念が生かされていません。記者クラブについてはかつて、法廷でメモすることを禁じられた男性が起こした損害賠償請求訴訟で最高裁判所が、「記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することも、合理性を欠く措置ということはできない」と判示しています(法廷メモ訴訟・最高裁大法廷1988年3月8日判決)。つまり、クラブ加盟社であること自体で、法的に保護を受ける優越性を認めているのです。

しかし、憲法を字義通りに解釈すればこのような結論になるはずはなく、この最高裁判決は改められなければならないものというべきでしょう。

原告側の反論


原告側は、2000年1月31日の第2回期日で、被告の上記の答弁に対して反論を展開しました。そのポイントをかいつまんで挙げておきましょう。

  1. 国側は、記者クラブ加盟社のみに判決要旨を交付した目的は、記者クラブの行なっている「速報」に協力するという点にあり、これは合理的な目的だという。しかし第1に、報道機関の報道は「速報」だけに意味があるのではなく、この機能のみを重視することに合理性はない。報道には、日報的な事実報道もあれば継続的な取材に基づく調査報道などさまざまな態様があり、いずれも国民の「知る権利」の充足に不可欠なものである。報道によって社会的事象の本質を掘り下げるという観点からすれば調査報道などの方が有効だとさえいえる。第2に、記者クラブ加盟社は、大手の新聞社や放送局であり、この件を報じるとしてもほとんどが単なる結論の伝達に止まるが、国民の「知る権利」に奉仕するという報道の機能に照らせば、このような単なる結論の伝達の報道のみを特に重視することに合理性はない。

  2. 仮に「速報」に協力するという目的に合理性が認められたとしても、その目的の達成手段として、記者クラブ加盟社だけに判決要旨を交付することに合理性はない。

  3. 第1に、「速報」をしているのは記者クラブ加盟社ばかりではなく、原告の寺澤氏も同じである。第2に、仮に「速報」の意味を、当日や翌日の報道のみを指すと捉えたとしても、そのような日報的報道をしている報道機関は記者クラブ加盟社以外にもたくさんあり、やはり記者クラブに限定する合理性はない。

  4. 判決というものはそもそも判例雑誌などの公刊物に掲載されるとは限らないし、仮に掲載されるとしてもそれは通常、半年から1年以上も経過した後なのだから、もしこのような差別が認められることになると、記者クラブ加盟社以外の報道機関は、判決要旨を判決裁判所から事実上入手できなくなる。よって非加盟者には判決内容を正確に把握する方法は一切なくなり、著しく不合理である。

  5. 本件の場合、松山地裁は、判決要旨を記者クラブ加盟社分の他にもう1部だけ用意すれば丸く収まったのであり、対応は極めて容易だったのに対し、原告の寺澤氏の立場からすると、松山地裁から判決要旨をもらえない限り、判決の正確な内容を入手する方法は一切なく、その不利益は著しい。

そして判決へ


以上、反論の一部をご紹介しましたが、これに対して、国側から再反論、それに対してこちらから再々反論をするなどして、期日を重ねました。そして2000年7月27日に最終弁論が行なわれ、判決は10月5日に言い渡されました。

part3へ続く

佃法律事務所 弁護士 佃克彦
“正義の味方”にあこがれて弁護士になり、気がつけばもう30年。さまざまな事件に出合い、数多くの経験をしてきました。事案に応じて他の事務所の弁護士と連携し、フットワークは軽く、しかし強い信念を持って皆さんの人生やお仕事における前進のお手伝いを致します。お気軽にご相談下さい。

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