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【007】生涯年収7500億?! ピカソに学ぶセルフ・ブランディング術

本題に入る前に、タイで騙された話を一席。

バンコクの街を歩いていたら、街の人に「兄ちゃんどこに行くんだい?」と声をかけられ、地元民しか知らない穴場寺院を教えてくれた上に、トゥクトゥク(三輪バイクタクシー)を止めて、現地価格で交渉までしてくれた。

別れ際、「そういえばタイファクトリーには行ったか?」と聞かれた。年間でこの時期しか開いていない、シルク工場の直売所だそうだ。その時は「へぇー、そんな所があるんだ」ぐらいにしか思わなかった。

教えてもらった穴場寺院で、たまたま出会った参拝客からも「普段はオーストラリアで仕事してるんだけど、帰国したら必ずタイファクトリーでスーツを作るんだ。他じゃ考えられないくらい安い」という話が出た。

何だか興味が湧いて来た。英語も堪能なスマートな人だったから、海外で働いているという言葉に疑いは持たなかった。

寡黙なトゥクトゥクの運転手に「タイファクトリーって有名なの?」と聞いたら、ぶっきらぼうに「タイシルク工場の、年に1度の直売会だ。観光客は高い店で買わされるから知らないかもな」と言った。

もう興味深々だ。自ら希望して連れて行ってもらい、6千円ほどのネクタイを1本買った。聞けば、オーダースーツは2着で6万円。「タイシルク100%なら安い!」と思ったが、普段スーツを着る機会がないので、買わなかった。

が・・その夜、夜市に出かけたら、同じ箱に入った同じネクタイが400円で売られていた。彼らは全員、グルだったのだ――。

◆ ピカソも駆使した「タイファクトリー」商法

実はこの手法、まだ無名だった頃のピカソもやっていたらしい。

あるギャラリーに来た客が「ピカソの絵はないか?」と訊ねる。もちろん、置いてる訳がない。数日後、別の客がやってきて「ピカソの絵を扱ってるか?」と聞く。また別の日も、違う客が「ピカソの絵」の話をする。

ギャラリー店主は「ピカソ」が気になって仕方ない・・。これだけニーズがあるなら、とピカソの絵を扱いはじめた。が、その客たちは全員、ピカソの友人だったそうだ。

商品の質が悪ければ、やってることはタイの詐欺と一緒だが、天才・ピカソの「売れる糸口を掴むための作戦」と聞くと、高尚な技に思えてくる――。

◆ 高値吊り上げ「パーティ」商法

ピカソの "貪欲商法" はそれだけではない。

売れてからも、新作を描き上げる度に、数十人の画商を呼んで展示会を開き、作品の意図や制作背景を入念に解説した。

「芸術は見る人が自由に解釈したらいい」なんてカッコつけたりはしない。人は作品より、作品の裏にある『物語』に金を出す。という、ブランディング術を知っていたのだ。

更に、個別バラバラではなく、画商を一堂に介すことによって、オークション会場さながらの集団心理を発生させ、高値を競わせることに成功した。

生涯で1枚しか絵が売れなかったゴッホと対照的に、ピカソが生涯で7500億円を売り上げた裏側には、そんなビジネス能力が隠されていたらしい。

◆ 死ぬ直前まで続けた「タイアップ」商法

社交界に出入りし、グラフ誌に取り上げさせ、高級イメージ戦略の限りを尽くしたピカソのブランディングは、1973年の亡くなる年まで続く。

最高級ブランド「シャトー=ムートン=ロートシルト」のワインラベルをノーギャラで手がけ、対価をワインの現物支給で受け取った話は有名だ。

高級ワインを好む、上質な客に自分の名声を知らしめると同時に、自分がラベルを描くことによってワイン価格を高騰させ、そのワインを大量に所有する。なんて完璧な錬金術!!

ちなみに、フランス語のロートシルトは、英語にするとロスチャイルド。ロスチャイルド家のワイナリーとピカソの関係は、話がブレるので今回は触れないでおこう――(笑)

調べるとピカソの下衆い話はモリモリ出てくるが、20世紀を代表する画家として純粋に尊敬していたいので、ここら辺で。

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