ネコ

ネコは知っていました。自分が人よりも先に死んでしまうことを。
どれほど願っても、この先ずっと一緒にはいられない。自分のほうが先に死んでしまうことを知っていました。
ネコは怖くなりました。自分が死んだ後、ご主人はネコのことを忘れてしまうのではないかと。あるいは新しい家族を向かい入れて、自分と過ごした記憶を上書きされてしまうのではないかと。そう思うと、怖くなりました。
そこでネコは思いました。「人間になりたい」「人間になれば、ずっと一緒にいられる」少なくともネコのままでいるよりも、もっと長く一緒にいられると。
ネコはこれを思いついた、その日からあくる日もあくる日もずっと願い続けました。来世は人間としてご主人と一緒に暮らしたいと。それから季節は
何度か巡って、ネコは老いていきました。式の近さを悟ったネコは隣に座っているご主人の膝に載りました。ゆっくりとご主人の顔を眺めました。これが最後かもしれないと思いながら。ゆっくりと見つめました。すると、ご主人はネコの頭を優しくなでて微笑みました。ネコはそれを見て幸せな気持ちになりました。そして、重たくなるまぶたに身を任せて、そのまま眠りにつきました。それは最後の眠りでした。
最後の瞬間には「人間になりたい」と思っていたことなど忘れていました。ただ、ご主人の顔と温もりを感じていたいと思っているだけでした。

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