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すきなもの2021

エッセイの中では面白く感じるのに、いざ自分が書こうとするととことんどうでもいいテーマに感じる。「すきなもの」といっても「犬」とか「ダンス」とか直接的な癒しや生活の軸になっているものじゃなくて、日常の中で軸をひそかに支えているものを掘り起こしてみるのはどうだろうか。何もしていないつまらない日の中にも、実は自分の「好き」は充満しているものだ。すぐに思い浮かぶ表面的な「好き」ではなく、どうしても嗅いでしまうもの、どうしても触ってしまうもの、どうしてもやってしまうもの。足しになるのではなく、隙間を埋めるようなもの。

そんな、「すきなもの2021」。

①どうしても嗅いでしまうもの
丁度今の時期、満開を迎える沈丁花。この匂いを嗅ぐことができるのは、長い一年の中でほんの一瞬。もともと母親が沈丁花の香りが好きで、生まれた時から家の庭に植えてあった。地獄のような冬から、少しずつ暖かくなるタイミングで春を伝えるみたいに満開になるこの花が好き。この季節の気温と沈丁花の匂いはぴったり重なり合う。この季節は、どんな道を歩いていても匂いで「あ、ここの家咲いてるな」って思う。思うだけ幸せ。冬が嫌いで、季節の中心は夏だと考えてるからっていうものあるんだろう。沈丁花が香りを放つ、暖かくなり始める、夏に向かう、気持ちが晴れる。いいサイクルの始まり。どうして一年の締めくくりは冬で、みんな冬に向かって頑張るのか。師匠が走るほど忙しい、師走というものがあるのか。冬は寒くて体が縮こまり、体が縮こまるせいでメンタルもやられる。動物も植物も冬眠してるのに、どうして人間だけ冬に頑張るんだ。冬はおとなしくコタツの中で丸まらせてくれませんか。

②どうしても触ってしまうもの
冷たい布団と冷たいスウェット生地。布団はまだしも、スウェット生地はいまだ誰にも共感してもらったことがない。冬は嫌いといったけど、冷たい空気の中で冷たくなるスウェット生地の感触が大好き。布団は、中で温まりながらも表面の冷たさを味わえる嗜好品。寝ながら表面の冷たい部分を探し求めたり、布団の端っこをずっと握ってほっぺにくっつけて寝る。文面に起こすと気持ち悪いな。布団は基本的にどんな種類でも冷たくなるから好きなんだけど、スウェットはこだわりがある。タオルっぽいようなものではなく、中がフリースになっているようなのでもなく、柔らかすぎもダメ。少し重厚感があって冷たさが続くようなものがいい。新品ではなく、古着屋の少し使い古された感じの感触もいい。なんか変態みたいだな。でも本当に好きなんです。自分の持ってるスウェットの中でドストライクの感触のやつがあって、それを着ているときは裾をずっとほっぺにくっつけたり顔にうずめたりします。なんか安心するんだよな。スヌーピーのライナスでいうタオルケットみたいな役割なんだろうな。この話は分からない人には全く分からない話だと思うので気にしないでね。でも私は他人のこういうどうでもいい癖とか安心するものとかを聞く時間が好きです。『アメリ』も確かそんなどうでもいい癖を切り取った映画だった気がする。そういうの、好きです。

③どうしてもやってしまうもの
卵って最強。卵があれば生きていける。本当にそう思う。特に私が好きなのは、お味噌汁に落とし卵をすること。遅くに帰ってきて、ご飯がお味噌汁しか残ってなくても落とし卵をすれば私にとってはご馳走になる。4割くらい半熟にして、終盤で割るのが好き。七味もあると尚よい。世の中にはいろんな卵料理があるけど、卵を生かして他の料理を作るのではなく、卵本来の味を引き出すという意味ではやっぱり味噌汁に落とし卵。溶き卵ではなく、落とし卵。何度でも言おう。お味噌汁には、落とし卵。

④どうしても嗅いでしまうもの(2)
もう一つあった。どうしても嗅いでしまう匂い。本屋の匂い。新品の雑誌の匂い。紙の匂い。なんて表現したらいいかわからないけど、本屋に入った瞬間の匂いがすごく好き。これは共感してくれる人は多いと思う。しばらくすると匂いに慣れちゃって感じなくなってしまうから、入るときの一瞬しか嗅ぐことができない。でも本を一冊一冊開くごとに、またその閉じ込められてた匂いが解放される。香水にしたいとかそういう種類の好きとは違くて、どちらかというと冷たい布団とスウェット生地に対する感覚と似ている。なんか安心する匂い。ライナスにとってのタオルケットみたいな匂い。

誰の目から見ても素晴らしいもの。輝かしいもの。癒されるもの、そんな「すき」も素晴らしいけれど、自分にしか分からない、日々のちょっとした癒しがあるはずだ。少し変態だと思われてもいい。どうしても本能的に好きなもの、安心するもの。これを大切にできることは、自分を大切にすることに直結するのではないだろうか。

いつかいろんな人の、それぞれにとっての「タオルケット」を寄せ集めた本とか作りたいな。


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