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『篭のなかには二艘の舟』@書きかけ

書きかけもとりあえずアップして、どんどん書き換えていく方向で。創作訓練として「プロット100本できるかな」から。

更新記録
2021/09/18開始
2021/09/20名前修正

ここから本文

ムロカ、異形に桃を献上す。

 舐めずると桃の皮はぺろりと剥けて、夜気にみずみずしい匂いがたちこめた。ざらつく舌が果肉を喰むたび、桃を支え持つ手が濡れていく。
 濡れた音を立て、野卑にも猥雑にも見える食べ方が、この上なく高貴で眩い様子に見えるのは、舌の主がこの世ならざる美貌のせいだ。
 ムロカは月明かりの下、人外魔境に迷い込んだ心地で、ただじっと貪られる桃を見ている。傍らの篭の中には、妹に投げ返されて潰れた桃がまだふたつ残っていた。美しい異形に献上したのは、無傷のひとつだ。
 ふむ、と異形の道連れである男が首を傾げた。
「そうして桃を食っているところを見ると、やはり神族の末裔という心地がするな」
 男は逞しい身体に似つかわしい、快活な声を上げる。ムロカと向かいあわせに胡座をかいた男は朗らかだが、この光景にはそぐわない。ムロカは一層身を縮めた。咀嚼音と、傍を流れる川の水音が、人ならざるものどうしの語らいのようだ。
 やがて桃の大きな種がぷッと吹き出され、それは弧を描いて男の額に命中する。地に落ちる寸前で手のひらに種を受けた男は、バリバリと噛み砕き食べてしまった。それから甘い汁で濡れた手をひと舐めし、脇に汲みおいてあった手水で清める。
 さてと居住まいを正すと男は、ムロのほうを向くように、胡座の中心に美貌の生首を据えなおした。
 生首は、半眼をひたとムロカに向けている。
 夜目にもツヤツヤと輝く黒髪の、それは確かに生首だった。
「さあさあそれでは、頼み事とやらを聞こうか」
 男の口調はあくまで明るい。
 ムロカの喉は干上がって、膝の上の拳はふるえ背中を汗が伝った。


ムロカの後悔

 國司の招集で、ムロカは戦に出たことがある。ヒョロヒョロとして書物をめくっているのが似合いのムロカだが、戦では火器の扱いも将官の命令も飲み込みが早く、随分と重宝がられた。
 並より多い褒美を持ち帰ったムロカを、古い慣習に従い村司は特別な役職を与えたが、いかにも渋々といった様子で、死んで来るものと期待していたのは明らかだった。
 前々から、意見しては一笑に臥されていた生贄祭礼廃止の談合を、ムロカはその古い慣習で得た役職をたてに、改めて俎上に乗せたのだ。
 寄せ集めの兵たちから、他所の村や町では若い女を贄にする儀式などとうに廃れていると聞いてきた。多少は頑丈になった体と比例するように、談判するムロの鼻息は荒くなっていた。
 長老衆や班頭たちの談合で、ムロカは涙を流さんばかりに演説をした。
 演説を終えると、班頭のうちでは年若い方の一人が立ち上がった。一人、また一人と立ち上がる様を、賛同の意ととらえ、ムロカは束の間、喜びに頬を火照らせたのだったが。
 長老頭の重い杖が、ゴツンと床を打った。


2021/09/20ここまで

これは雑記。
名前、観にいった映画の予告編でムロツヨシが出てきて、もうムロツヨシの顔で再生されてしまったので変更。

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