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盆の調査 再会編

さて、生物学科を卒業してから7年ばかり、バイトをしていた博物館で非常勤職員として働くこととなったが、未来が見えない気がして大学に行こうと考えた。
民俗学がいいか、でも出版されている本を見てるとどうも論理が怪しいし。社会学……は統計で全体をとらえる学問のようだから、そこは生態学と変わらないし。自分は集団から離れて妙な動きをする個体が好きである。こういうことを扱うのは……地理学か。地理学は地域差をみる学問である。

高校で選択していなかったので独学で高校地理を覚え、地理学科のある大学に編入試験することにした。理学部で一般教養は履修している。編入試験に合格し、2年に編入学を果たした。

その1年目、「比較民俗学」という共通科目を履修した。夏休みの宿題として、「地元の祭り」をレポートせよとの課題が出た。
自分の住んでいたところは高度成長期直後に開発された新興住宅地で神社はない。地域の夏祭りに神輿は廻るが、そこには神はいない。
課題をどうしようかと考えていたところ、あの墓地を思い出した。
卒業研究で見つけた墓の前の植物でできた棚のようなものである。
早速現地に行き、聞き取りを行った。やはり盆に関わるものだった。呼ぶ名を「ガラガラ」というらしい。作成方法も教わり、今でも自分でも作れる。
刈ってきたモウソウチクを細く割り、60㌢ほどの長さで切る。それを十字に合わせ、合わせた真ん中からマコモの葉で編む。マコモは近くの水辺に生えていたものを刈り、一晩ほど干したものである。まず十字にしたところを斜めにマコモで巻き、反対の斜めからも巻く。竹に巻き付けたら隣の竹、隣に巻き付けたらさらに隣……というように、四角く巻き付けていく。そうして15㌢四方の正方形が出来たら、端を処理して残った竹を山折りに折る。そうすると、15㌢四方の天井をもった高さ10㌢ほどの脚の棚ができる。それを盆の前、現地での盆は月遅れの8月13日から15日である、の12日までに墓の前に脚を挿して設置する。
13日は迎え盆である。夕方 先祖の霊を墓地まで迎えに行って家の中の盆棚にまねき、15日に送る。その間、14日には墓地には誰もいないはずである。それなのに、14日の朝早く、かつては競って早い時間に向かったが、今では朝の4時に墓地へ行く。そして、設置しておいた棚に、蓮の葉の上に食べ物を置いたもの、季節のキュウリやナスを賽の目にしたものに生米を混ぜたアラヨネと呼ぶ物を、乗せるのだそうだ。
誰もいないはずの墓地に食べ物を供える。一体誰に?と問うと、さあ?とか墓に「ルスバンノヒト」がいて悪さをすると困るから置く、とか答える。「ルスバンノヒト」とは何かと聞いても不明であった。
「ルスバンノヒト」とはいったい何か。
研究のテーマが決まってしまった。

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