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初めてED治療薬を使った夜のこと【人の妊活を笑うな#5】

検査をすべて終えた夜、僕は久しぶりに妻に触れた。

初めてED治療薬を服用するということで不安な気持ちがずっと頭の中を支配していた。
食事の影響を最も受けづらいのがシアリスの特徴だというが、どの程度の食事なら良いのかもわからなかったので夕飯はとても質素に済ませた。
その後はたっぷり時間を空けてから湯船につかり、出てからシアリスを1錠口に含み水で流し込んだ。

飲んでからは入念にストレッチをしたり本を読んだり妻の髪の毛を乾かして時間を取った。
シアリスはだいたい服用してから1時間後で効果が出始めて、3時間後にピークを迎えるということだったので1時間たったかなというところで妻の手を引いて寝室へと向かった。

正直、このとき身体に全く異変を感じないので焦っていた。
飲んだから自然と勃起するわけではないというのは分かっていたが、副反応と呼ばれる”鼻づまり、顔のほてり”のような症状も全くなかったのだ。
しばらくセックスをしてなかったことへの緊張もあり、勃起するイメージが全然湧いてこなかった。
(僕はED治療薬を飲んでも意味がないのか・・・)
そんな考えが頭を支配したが、妻には悟られないようにベッドに潜った。

 

結論から言うとその日は問題なくセックスをすることができた。
これといって副作用も特になく、最初こそ緊張はしたものの終始リラックスして臨むことができ、必要なタイミングでその効果を発揮してくれた。
強いて言えば硬さに若干の物足りなさを感じたものの行為自体はスムーズに進んだ。
次回以降は更なる効果を求めてシアリスの20mg(今回は10mgを服用)、またはレビトラ(即効性や硬さが出ることが特徴)の使用も検討してみてもいいかもしれないなと心の中にそっとメモをした。
何はともあれ、ED治療薬のおかげで久しぶりに妻とのセックスを十分に楽しむことができ、その夜はぐったりして眠りについた。


そしてその周期に僕らが再びセックスをすることはなかった。

*****

「一緒に暮らし始めてから一人でする時間が全然なくてしんどいわ。
 嫁がお風呂入ってる間に急いでトイレでするもん(笑)」
「わかるわー。向こうが土日に友達と出かけてくれるとリビングで一人で出来るから最高(笑)」

居酒屋で飲んでいるときに”同棲あるある”として友人らがこんなことを言っていた。
当時の僕はバンドマンでフリーターで実家暮らしで彼女ナシだったから、同棲とか結婚っていう未来をうまくイメージできていなかった。いやイメージしようとしなかった。
なので「まじか。それはやばいな(笑)」くらいの浅いリアクションだけで流していた。

それから数年たち、同棲を始めたときにその友人らの気持ちが痛いほどわかった。
妻とは仕事は違うが互いに完全週休2日制の土日祝休みで基本的に残業もないので平日休日問わず家で一人になることがほとんどなかった。
加えて僕はEDで妻に触れる勇気もなかったため完全に性欲を持て余していたのだった。

幸いにも(というのが適切かは分からないが)、同棲を始めた年というのは新型の感染症が世界各地で猛威を振るい始めたころで、会社は助成金が得られるということで社員に週一日の休業日を与えることになった。

とは言え、外出もできない状況下で平日に休業日を与えられても何もすることがない。
そのため家の中でヒマがつぶせるYoutube、SNS、Netflixそしてインターネットポルノに没頭するようになるのも時間の問題であった。

ED治療薬を手に入れて問題なくセックスができるようになってからもその習慣は改善されず、妊活をするにあたっても排卵日付近に1、2回タイミングを取る程度だった。
僕自身この頃は妊活に関してかなり楽観的で、いくら僕の精子の運動率が平均値を下回っているとはいえ、あっさり授かることができるだろうと考えていた。

友人たちからも「ずーっとレスだったけど子作りのために久しぶりにしたら一発だった!」とか「病院で先生から言われた日にしたら一回でできた!」という話を聞いていて、自分の中で「そういうもんなんだ」と勝手に解釈していた。

ようするに僕は”最低限のセックス”で妊活を終わらせるために、自分に都合の良い情報だけを吸収していたのだ。
その裏で何人もの人たちが来る日も来る日も涙を流しているかを知りもせずに。


それからすぐに結婚式があった。
直前まで出席のキャンセルや余興、二次会の準備などに追われてバタバタしたが始まってしまえばあっという間で、たくさんの友人に囲まれながら祝ってもらえて本当にやって良かったと思った。
(・・・それにしても誓いのキスでテンパって参列者側に頭を傾けてキスしてしまったことは一生後悔している。)

そして結婚式から1週間後、義妹の妊娠が発覚した。
これによって僕らの妊活は一気に加速度を増すことになる。
それと同時に僕の楽観的な思考回路がそのスピードについていけず、妻と何度も衝突することとなるのであった。

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