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当事者意識が芽生え、精子の質やEDを改善を図った【人の妊活を笑うな#13】

「やっぱりね~おれはうまくいくと思ったんだよ」
受精の確認を知らされた夜、僕らは病院へと向かっていた。
僕はいまにも口笛を吹いてしまいそうな気分でハンドルを握っていた。なんなら「ぴゅ~」と漏れていたかもしれない。
いっぽう妻はといえば「むしろこれからだ」といわんばかりの表情を浮かべていた。だがその口角がうっすらと上がっていることを僕は見抜いていた。

病院では着床しやすくするために今日から毎日注射をすること、今周期に移植も可能であることを先生から告げられた。
妻は前のめりで「移植、お願いします」と答える。
僕も無意識ではあるがグッと身を乗り出していた。
治療を始めてやっと二人で前向きな気持ちになれた気がした。

気持ちにゆとりが生まれたせいだろうか。
これまでは外側へと向かっていた意識が内側へと向くようになった。僕はいま一度、自分自身のことを見つめ直した。
僕は果たして自分からなにか考えて行動したことがあったか?
妻が悲しんだり、治療や保険適用について調べている横でだらだらスマホを見ていなかったか?
.…。
変わろう…
病院からの帰り道、僕は静かに”ある決意”を固めた。

*****

自身の喫緊の課題は精子の運動率とEDについてだ。
今回の移植でうまくいけばそれで良いのだが、せっかく気持ちが上向いているのだ。今しかない(僕はキッカケがないと行動に移せないナマケモノである)。

精子の運動率に関しては数値が40%台ですら「このままではマズいかなぁ」と思っていたが、前回はなんと20%台だったのだ。
いくらワクチンの副反応明けとはいえ、これでは話にならないだろう(その病院では50%以上が基準値とされていた)。
いくら保険適用になったとはいえ、毎回顕微授精するわけにもいくまい。

EDに関してもそうだ。
人工授精や体外受精をするにしてもその日以外にタイミングを取る。
特に生理終わりには体内に溜まっている古くなった精子を出しておく意味も込めてセックスすることは僕たちのなかで取り決めがされていた。一錠1500~2000円あたりする治療薬を毎回使うのもやはり避けたい。

そこで僕は以下の四つを決意した。
・禁酒
・筋トレ
・有酸素運動
・下着の変更
夕食時、僕は「これから体質改善に努めます!」と宣言をした。
妻は突然のことに目を丸くしていたがニコッと笑い
「がんばってね!」と言ってくれた。


まずは禁酒。
もともとお酒を飲むのは大好きだった。
20代の頃は健康診断で肝臓が引っかかり、先生に「最低でも週に二日は休肝日を作ってください」と言われても一切飲むことをやめなかったほどだ。
そのため決意をしたはいいものの「絶対ツラいだろうな~」と思っていたが杞憂におわった。
結論から言うとキッパリやめられた。
宣言後すぐに友人との飲み会や後輩の結婚式があったが全然問題ナシ。
やめる目的が明確であれば行動に移すことは難しくない。
飲み会だってコーラで十分楽しめる。そもそも酒を飲まないと楽しめないような間柄の人との飲み会なんて行く必要あるのだろうか、と考えられるほどに考えも大きく変わった。
妻は全く飲まない人なのでこの変化には歓喜。
酔っぱらってソファで寝てしまうこともなくなり、終電を逃すこともないため妻の機嫌を損ねること自然と少なくなった。

そして筋トレや有酸素運動。
下半身を中心に家の中でトレーニングしたり家の周りのランニングを始めた。
最初のほうこそツラくて「もう別に治療薬だってあるしEDのままでいいや…。今回の移植でうまくいってたらそもそもこんなことする必要だってないし」と邪念まみれだったが習慣とは偉大だ。
それでも毎日続けていると「さぁ今日もやろうか」という気分に自然となるから不思議だ。
また、お風呂上りにフォームローラーを使ってストレッチをするのが日課なのだがその時間にケーゲル体操を取り入れた。
どうやらこのケーゲル体操、オーストラリア政府も推奨するED改善トレーニングらしい。
寝たままできるというのはナマケモノな自分にもピッタリだった。

これまで下着はユニクロのエアリズムボクサーパンツを履いていたのだが、ボクサーパンツは身体へのフィットが強いため温度が上がり精子に悪影響を及ぼすおそれがあるというのだ。
さっそく僕は所有しているパンツをすべて処分し、無印良品インド綿オックスフォードトランクスに変えた。無印のパンツにした理由は「なんかていねいな暮らし感が出るから」だ。
スース―感は3日で慣れた。

一連の行動を見ていた妻は「自分だけじゃなくて旦那も頑張ってくれている」という事実がとても嬉しかったようだ。
これまでは「自分に出来ることなんてないし…」とついつい考えてしまい、ただ言われたとおりにするばかりだった。
だがここにきてようやく当事者意識が芽生え、ついにその一歩を踏み出すことができた。
それからは「わたしだけが辛い思いをしている」という意識も薄れ、目に見えてケンカが減ったことを実感した。

*****

移植も終わり、僕らは互いに『トツキトオカ』をダウンロードした。
夫婦で共有する妊娠記録アプリだ。僕らは「たまひこ」と名付け、ただただ判定の日を待った。
顕微授精をした。受精した。毎日注射もした。体質改善も始めた。夫婦関係もより良くなった。
「今回は…いけるかも…」
初めてそう思うことができた。


それでも

それでもリセット日はやってくる。

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