計算が苦手。
小学生の僕は、多い時で週に6、7個のお稽古事をしていた。僕は特別やりたいとは思っていなかったけど、気付けばもう通うことになっていたものがいくつもあるし、通いたくないといっても辞められるわけではないからそのまま続けていた。
小学生になった僕は、とても計算が苦手だった。
小学一年生を半分以上過ぎてもなお、2+3の答えが分からないほどだった。ある日、当時育ててくれていたヒトが僕に「そろばんとか興味ない?」と言った。計算には苦手意識があったし、そもそも既にたくさんのお稽古事をしていたから、「興味ないしやりたいとも思いません」とはっきり拒絶した。
翌日朝の6時に起こされて、「今から遊びに行くから着替えなさい」と言われた。こういう流れはもう何度も経験しているから、大体察しがついた。昨日のあれはきっともう確認ではなかったんだ。「今日は友だちと約束していたんでした」「まだ学校の宿題が終わっていなくて」と言い訳をしているうちに車に乗せられて、片道1時間半の距離をただ揺られていた。車の時刻表示と楽しそうに鼻歌を歌う二人の後ろ姿を眺めながら、まるで何かのカウントダウンみたいだと思った。1時間半かけて塾まで行き、6時間そろばんを弾いて、また1時間半かけて家まで帰る土曜日が、それから4、5年くらい続いたような気がする。
一度、問題を解く息苦しさが限界を突破したとき、答えを丸写ししたことがある。すぐにバレて、二人が迎えに来るまでの間、教室の一番前で立ちながら問題を解いていた。
その日は何故かとても疲れていて、帰りの車の中で眠ってしまった。
目が覚めたら家の駐車場に停まった車の中に一人取り残されていて、家中全ての鍵がかけられていた。
これ以上のことはもう書かないけど、当時の僕は頑張っていたなということをふと思い出した。多分ちゃんと頑張っていた。えらい。
野菜ジュースを飲みながらこの文章を書いている僕はもうしあわせ者だ。
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