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謎のお爺さん「トヨダさん」について #呑みながら書きました

フォローして間もない、あきらとさんの企画に(勝手に)便乗してみることにした。

(あきらとさん、読んでくれてますか)

普段は真面目に書くのが常のnoteをアルコール漬けの状態で書くという企画。
最高。

※ただし家でアップ直前に寝落ちるという失態を犯したため、投稿現在は翌日でシラフの状態。
 以下は昨夜19時前後に書いているという設定でご覧ください。

いま僕がいるのは東京都某所にある行きつけの居酒屋。
(とはいえ最近色々あったので来たのは半年ぶり)

カウンターの右側には70オーバーのお爺さんがふたり、ブラタモリが映る店内のテレビを見上げている。
左側には女の子(4歳らしい)が父親とプリキュアじゃんけんという謎の遊びに興じている。

その中間で、僕はイマドキの若者らしくスマホ片手にnoteを書いているというわけだ。

ちなみに好きなお酒はI.W.HARPER
メニューにはないけれど、お店にはなぜか毎回用意してくれている。

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ちなみにこれまでに注文したのは
・生ビール(サービスで無料)
・ガーリックライス
・鯵刺し
・ししゃも

謎のお爺さん、トヨダさんの話をしよう

トヨダさんという人がいる。
愛知の自動車のメーカーのことではない。

いま僕の2つ隣に座っている小太りのお爺さんのことだ。
たぶん歳は70歳を超えている。
ただ、めちゃくちゃにかっこいいお爺さんなのである。

トヨダさんはこの店の常連だ。
さっきまでブラタモリを見ていたが、いまは僕の1つ隣の爺さんと何やら喋っている。
僕はこれまで一言二言くらいしか話したことがない。

トヨダさんはいつも髪をオールバックに固めている。
ポマードか何かよく分からない整髪料で髪を固めて、丁寧に櫛で流れを整えた本気のオールバックだ。店の蛍光灯に反射して艶めいている。
ついでに肌もつやつやだ。

トヨダさんはいつもスーツ姿だ。
たぶんもう仕事はしていないんじゃないかと思う。それでも、上下しっかり揃った真っ黒な、高そうなスーツで居酒屋に来る。
きっと彼の中で、外に出るときはスーツと決めているのだろう。

トヨダさんはいつも店の一番奥のカウンターに座る。
いつも席が空いている小さい店だが、彼はいつも早い時間に来ては、自分の指定席に腰を下ろし、居酒屋の奥さんと話したりする。

トヨダさんは足が悪い。
どういった経緯なのか分からない。杖を使っているものの、一歩踏み出すのに5秒くらいはかかる。
だから居酒屋に来るにもタクシーを使っている。

トヨダさんはJINROをボトルキープしている。
しかも2リットルくらいの大きいペットボトルだ。それを梅割りにして飲んでいる。
服装のこだわりがある一方で、あまりお酒にこだわりはないようだ。

そろそろお店に常連が増えてきた。
僕もその会話に巻き込まれていき、文字を打つタイミングを失う。
併せて辛子明太子を追加で注文する。

トヨダさんは謎の存在だ。
店の常連はトヨダさんに対してとても丁寧に、敬意をもって接している。
髪型と服装と目つきだけ見ると、完全に「極みの道」の人だけれど、終始穏やかに酒を飲む人なのを僕は知っている。

トヨダさんは一匹狼だ。
でもほかの常連とつかず、離れず、適度な距離を保って接している。
滅多に笑うことはないが、時折少しだけ自分の話をして、またカウンターの向こうに目線を映す。そんな穏やかな人だ。

結局、トヨダさんはめちゃくちゃかっこいい。
小太りのお爺さんと言ってしまえばそれまでだが、服装や髪形にこだわりがあり、それが似合っていて、周囲との調和も忘れない。
低い声や、自分のペースで酒を楽しむところを含めて、気品とも言えるような昭和のダンディズムというものを感じる。

そうこうしているうちに、迎えのタクシーが店の前に着いた。
普通のタクシーにしては少し大きい、真っ黒なタクシーだ。

足の悪いトヨダさんが通れるように、店の常連が一斉に椅子を引いて通路を作る。
居酒屋の奥さんが、トヨダさんの歩く距離が減るように「もっと店側に車を寄せてください」なんてタクシーの運転手に注文を付けている。

そんな中を「悪いね」なんて言いながら、トヨダさんが歩いていく。
カウンターに座っている客の肩を手すりの代わりにして、ゆっくりとトヨダさんがタクシーに向かって足を引きずる。

僕の肩にも手が置かれた。
「ごめんよ」と低い声でトヨダさんは言った。
体の大きさ相応の重みが肩に加わり、よろめきそうになるのを、アルコールに浸った体幹で僕は必死にこらえる。

この重さはトヨダさんの人生の重さかもしれない。
トヨダさんと何一つ語らったことのない僕は、無責任にそんなことを思った。

特定の誰かと仲が良いわけでもなく、大笑いもせず、静かに居酒屋の隅に座ってひとり酒をやる。
それでも常連はみんなトヨダさんのために道を空け、肩を貸し、笑顔で見送る。

常連の人の好さもありながら、トヨダさんの発する言葉に言いえぬ人の魅力がそうさせるのだと思う。
居酒屋で誰からも愛される謎のお爺さん・トヨダさん。

いつか僕も年老いる日には、こんな人になりたい。

つきこ

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