夏の長い夜に聴く『トリニティ・セッション』
今年も夏至を迎えました。フランスでは夏至の夜に『Fête de la Musique フェット・ド・ラ・ミュージック』といって路上や公園、公共の施設など様々な場所で音楽を聴くことのできるお祭りです。昨年はウイルスの影響で中止となりましたが、今年は通常よりも少ない箇所で制限付きで開催されたようです。夏の始まりを祝うかのように音楽が鳴り響いたことでしょう。
でも個人的には夏至の夜は白夜のようにじわじわと暗くなる部屋でキャンドルの灯りで過ごすのが好きです。炎の揺らぎを眺めつつじっくりと向き合える音に耳を傾ける、瞑想的で安らげる時間。
そんなチルアウトしたい夏の長い夜に聴きたくなる一枚、カナダのロックグループCowboy Junkies カウボーイ・ジャンキーズの『The Trinity Session ザ・トリニティ・セッション』(1988年)です。彼らを世界的グループへと導いた傑作として愛されているアルバムです。
このアルバムの特徴はカナダのトロントにあるホーリー・トリニティ教会で、4人組の彼らが「マイク一本」で1987年11月のある日に録音されたということ。目を閉じ演奏を聴きながらその様子を想像してみます。なんと素敵な風景でしょう。教会の音響のおかげでしょうか、いい塩梅の音の広がりと残響、一聴するとライブ録音とは思えないクオリティです。
エルヴィス・プレスリーに捧げる『Blue Moon』、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『Sweet Jane』のカバーなどをボーカルのマーゴ・ティミンズが涼やかで耽美的な声で歌います。
Blue Moonのライブ映像。若きマーゴの美しさからも目が離せなくなります。
こちらの『Sweet Jane』のオフィシャルビデオも素晴らしい。ルー・リードも彼らのカバーがお気に入りなんだそうです。
様々なアーティストに言えることですが、このアルバムの成功が彼らの人気を不動のものにしたとは言え、その後発表する作品が常にその比較から語られるようになってしまいました。例えば村上春樹でいえば『ノルウェイの森』のような。
普段はあまりカントリーフォーク的な音楽は聴かないのですが、このアルバムに限っては、それがなんとも心地よいのです。誰かとぽつりぽつりと静かに語らいながら聴くのもいい。この作品が与えてくれた静寂と穏やかで豊かな夜はかけがえのない時間です。
夏の夜の夢の入り口にぜひ。
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