月を描いた絵本たち

 真っ暗だと眠れないといううちの子たちに、先日夫がこんなライトを注文してくれました。

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 灯りを取り巻くようにわたしの手作り羊毛フェルトの小人さんたちを配置してみました。お月さまを囲んでお祭りをしているようで、子どもたちも喜んでいます。
 月へのアニミズムを思わせる雰囲気で、月の静かな佇まい、神秘的な空気を子どもながらに感じてくれているようです。

 そんな気持ちに寄り添う絵本がいくつか思い浮かびました。「月」を題材にした絵本は、各国本当にたくさんあります。我が家の本棚にある「月の絵本」の中でも何度も読んでいる作品をご紹介します。

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おつきさまこんばんは

林明子(文・絵)
出版:福音館

 一冊目はこちら。名著ですよね。きっと生まれて最初に触れる「月」の絵本だったお子さんも多いかもしれません。我が家も長男が生まれて間もない頃に、最初に読み聞かせたい本として迎えました。

 シンプルなお話ですが、夜空にぽっかりと浮かぶおつきさまの顔に子どもは気持ちを重ねます。雲で隠れてしまい、みえなくなると、息子は「だめだめ、くもさんどいてー」と言いながらページをすすめます。林明子さんの穏やかな表情のおつきさまは何かを象徴しているようにもみえて来ます。そしてきわめつけは裏表紙。

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このお月さまの舌出し顔を真似しながら楽しく本を閉じ、めでたしです。


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おつきさま おやすみなさい (Goodnight Moon)

マーガレット・ワイズ・ブラウン (著) クレメント・ハード (絵) せた ていじ (訳)
出版:評論社(1979)

 初出版が1947年というアメリカの絵本です。多くの素晴らしい作品を残したマーガレット・ワイズ・ブラウンの文にクレメント・ハードの絵が素晴らしい不朽の名作です。絵の色合いが興味深く個性的。ポツポツと呟くようなことばでこどもがいろいろなものに「おやすみなさい」を言い、ページが進むにつれ、次第に本の中の部屋が暗くなっていきます。ちょっと不思議な気持ちになる美しい絵の流れが効果的です。
 わたしが初めて読んだのは、仕事をするようになってから、職場のコピーライターの先輩からいただきました。絵本が人に与えるエネルギーを感じました。
 なんとも言えない間と、眠る前の静かな空気が感じらえる詩的な絵本です。


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つきのオペラ

ジャック・プレベール (著) ジャクリーヌ・デュエム (絵) 内藤 濯 (訳)
出版:至光社

 フランスからは、ジャック・プレベール作の「つきのオペラ(L'Opéra de la lune 」です。ジャック・プレベールはジャズの定番曲にもなっている「枯葉」の作詞、また「天井桟敷の人々」の脚本家としても知られるフランスの国民的作家です。

 この絵本は第二次世界大戦後、兵役から戻ったプレヴェールが描いた、両親を亡くした少年のお話です。孤独で悲しい少年は月をみると、にこにこ嬉しくなります。少年には月の人々がみえるのです。その人々の中に彼の両親も見えて皆楽しそうに歌い、踊り、オペラも開いていたりと、戦争を体験したプレベールが月をモチーフに反戦の想いを込めて子どもたちへと綴った作品です。

「どこのとおりも よるじゅう おどりまくって
 おつきさまが みんながうたうのを てらすんだ」
(中略)
「せんそうをする きかいのおとだった
 なにもかもを たたきこわす いやなおとだった
 ころされてしまいそうな ひどいおとだった
 だからみんな おつきさまに もどったんだ・・・」

 悲しい少年の心を潤す存在の月の世界が、奥深いプレベールの文と美しい絵で表現されたメッセージ性の強い作品です。


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Nains et lutins (仏語)

Pierre Lienhard(著)
Bettina Stietencron (絵)

 長男の4度目のクリスマスに、プレゼントした絵本です。ドイツで出版されたシュタイナー教育の中でもよく読まれている本の仏語版です。ぼんやりとした絵のタッチで、こびとの住む世界を描いたお話で、夜になる満天の星の下、こびとたちが月あかりに照らされながら、朝が来るまで踊り続けるシーンが微笑ましいです。
 このお話をもとに、冒頭の羊毛フェルトの小人を作り、その年のクリスマスに合わせてプレゼントしました。


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つきよのおんがくかい

山下洋輔(著)柚木沙弥郎(絵)
出版:

 私の大好きな染色工芸家の柚木沙弥郎さんとジャズピアニストの山下洋輔氏が描く絵本との出会いが来るとは思ってもみませんでした。

 月夜の晩にジャムセッションをする動物の演奏家たち。それぞれの楽器の擬音も愉快です。
 月の下、森のうさぎたちとともにジャズのセッションで踊る少年… 
 ここでも月夜踊るいきものがたちが描かれています。

 月のもつ神秘性、人々が太古の昔から心を動かされる月に対するプリミティブな共通意識は、言語や時代を超えてずっと存在していくことでしょう。

 感受性豊かにつくりあげられた月を描いた世界、是非お子さんたちと楽しんでみてください。

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 それでは、おやすみなさい🌙

今日紹介した作品:



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