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植栽による択伐林で日本の森林改善ーはじめに

 森林が国土面積の三分の二を占める世界有数の森林国であるわが国では、森林は人間の生活にとって不可欠な存在で、木材生産や環境保全のために利用されてきた。

 しかし、長く続いた経済優先の社会では木材生産の機能が偏重され、一時的にではあるが無立木状態となって環境保全機能が全て失われるという欠点のある皆伐林が著しく広がり、環境保全機能の低下が目立つようになった。これに対する反省から、木材生産と同等に、あるいはそれ以上に環境保全の機能が重要視される新しい時代に入った。しかし、二つの機能がまだうまく両立できていないのが現状で、二つの機能が高度に発揮できるような森林に改善することが喫緊の課題となっている。

 森林の現状に問題があるとしたら、それは過去における森林の取り扱い方のまずさに起因するところが大きい。よって第Ⅰ章では、木材生産と環境保全の歴史を整理し、二つの機能の両立を図る上での、森林の現状における問題点と現行の対策の疑問点について検討した。その結果、多くの皆伐林を抱えたままでは木材生産と環境保全の機能の両立を図ることは難しいという見解に至った。それを受けて、環境保全機能は皆伐林よりも優れていて、木材生産量も皆伐林より多いと期待されている照査法によるヨーロッパ方式の択伐林の導入が、機能の両立につながるのではと考えた。

 そこで、第Ⅱ章では、林木の生育空間を最大限に利用するという照査法本来の目的に立ち返って、照査法が目指す択伐林における樹冠の空間占有状態をモデル化し、皆伐林と樹冠の空間占有モデルのようなヨーロッパ方式の択伐林における樹冠の大きさと空間占有状態および量の差異、木材生産と環境保全の両機能の優劣、さらには木材生産上欠かすことのできない木材生産の経営収支などの森林経営上の得失についての比較検討をした。

 第Ⅲ章では、第Ⅱ章での比較検討結果に将来的な展望を加えて、皆伐林と樹冠の空間占有モデルのようなヨーロッパ方式の択伐林についての総括をした。そして、新しい時代が要求している木材生産と環境保全の機能の両立が可能で、木材生産の経営収支の黒字も見込めるような森林への改善には、樹冠の空間占有モデルのようなヨーロッパ方式の択伐林主体の森林にするのが最適であるとの結論に達した。そのため、このような森林への改善策を提案した。

 私は、大学教員として、冷静な立場で半世紀にわたって日本の森林の変化を見聞しながら、樹冠との関連で皆伐林と択伐林の両者についての調査・研究をしてきた。そして、森林の将来に強い不安を抱くようになったので、これからの森林のあり方とそんな森林への改善策を考えた。木材生産と環境保全の機能の両立が要請される新しい時代における森林のあり方として、ヨーロッパ方式の択伐林が望ましいことを前著『究極の森林』(2008年 京都大学学術出版局)で述べた。これを受けて、本書はヨーロッパ方式の択伐林のあり方をもっと具体的に詰め、それを利用した日本の森林の改善策を述べたもので、本書は前著の続編といえる。ただ、話を進める都合でⅠ、Ⅱ章、とくにⅠ章では前著と重複的記述も多くなっていることはお許し願いたい。

 森林の施業方法としての択伐林のことをあまり知らない読者、あるいは知っていても、その認識が「ナスビ伐り方式」や「照査法」といった域にとどまっている読者には、こんな択伐林もあることを知ってもらい、今後に役立ててほしいと考えている。

 本書の参考文献は多岐の分野にわたり数も多いが、ここでは択伐林に関する主要な和書の文献と本書の基になった拙著などを最後に一括して示すにとどめた。

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