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菌根の世界―はじめに(齋藤雅典)

「キンコン」「キンコンキン」という言葉を聞いて何のことかわからなくても、「菌根」「菌根菌」と漢字で表すとなんとなくイメージがわいてくるかもしれない。菌根とは、菌類いわゆるカビの仲間が植物の根に共生している現象を指す言葉である。マツタケがマツの根に共生するマツタケ菌から生じる子実体(キノコ)であることはよく知られている。まさにマツタケ菌はマツの根に共生する菌根菌なのである。

じつは、マツタケ以外にもさまざまな種類の菌根菌が存在し、陸上植物の約8割の植物種と共生関係を営んでいる。菌と植物の共生である菌根が地球の緑を支えていると言えるだろう。

菌根という共生現象についての関心は少しずつ高まっている。高校の生物の教科書の中でも、菌根に言及するものが出版されており、2020(令和2)年度の東京大学の入試問題「生物」に菌根に関わる問題が出題され話題となった。大学生などを対象とした菌学、土壌微生物学、微生物生態学などの教科書や解説書では、菌根共生にページが割かれるようになってきている。

わが国では、これまで小川真によってマツタケやアーバスキュラー菌根菌などの菌根に関する書籍が複数出版されてきた。また、アーバスキュラー菌根菌の農業利用や林業における外生菌根菌利用についての実用的な冊子類も出版されてきたが、多様な菌根の世界について総合的に解説した日本語の書籍はまだ見あたらない。

そこで、さまざまな菌根について、それらを研究対象として実際に研究を進めてきた研究者たちによって、菌根について解説する書籍を著すことにした。各章では、それぞれの菌根の特徴や観察手法について解説するとともに、それぞれの著者が取り組んできた研究の成果などを取り入れながら、できるだけ最新の菌根学の成果もわかりやすく解説しようと試みた。各章はそれぞれの菌根ごとにまとめてあるので、必ずしも章順に読む必要はなく、関心のある章からページをめくっていただいて差し支えない。

本書を通じて、菌根という共生の世界のおもしろさを知って関心をもっていただけると幸いである。

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