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もっと菌根の世界―編集部より

2020年に刊行して版を重ねている『菌根の世界――菌と植物のきってもきれない関係』では描かれなかった菌根の世界に、新たな11名の執筆陣が前書とは違った角度から光を当てました。
前書と同じく編者を務める齋藤雅典氏、『「植物」をやめた植物たち』(福音館書店、「たくさんのふしぎ」2023年9月号)の著者である末次健司氏をはじめ、気鋭の研究者12名がつづる菌根研究の最前線。純粋な好奇心からはじまり、過去の研究から得た知見、柔軟な発想力、調べ尽くす熱意と体力、培ってきた分析力を駆使して、地球上でもっとも普遍的な共生の現場である菌根の実態に迫ります。

はるか昔、水中から地上へ進出した植物は何らかのきっかけで菌類との共生をはじめました。生存に必要な土壌・栄養が存在しない不毛の大地で生き抜くため、菌と植物が互いに手を組んだのです。菌根は、植物の根に菌類が入り込んで形成される共生体です。第5章では、植物と菌類が土の中でどのように互いを認識しあうのか、共生開始の引き金となるシグナル物質についての研究成果を紹介します。

菌根の中では何が起きているのでしょうか。根に取り付いた菌類は根の内外に菌糸を伸ばし、共生維持のために動きはじめます。土壌中に伸ばした菌糸でリンなどの栄養物や水分を集め、根の細胞内に広げた菌糸を通して植物に渡します。その対価として光合成でつくった炭素をもらい、共生関係を維持していくのです。
「共生」というと穏やかで美しいイメージを抱きますが、その実態は意外にシビアで、植物と菌類は互いに監視しあうことによってパートナーとの関係を常に調整しています。自分に不利な関係と判断すれば制裁を与えたり、共生パートナーを変えたりして、自分の利益を守ります。第7章では、菌根菌が根の中につくった養分受け渡しのための構造物が短期間で崩壊する理由について考察します。
一方で、菌類をだまして、光合成産物を渡さずに栄養分だけを奪う植物の存在も明らかになってきました。第4章では、かつては共生関係を営んでいたとされるこれらの植物が、単に寄生能力を獲得するだけでなく、花粉や種子の運び方においても特別な適応を遂げてきたことが明らかになります。

第3章では前書で触れられなかったツツジ科のエリコイド菌根について多くのページを割き、世界中のさまざまな地域・環境に分布するツツジ科植物がその多様な生息域を獲得するために利用してきた菌類との共生関係について丁寧に紹介しました。

生物学上の意義だけではなく、農業への利用という観点でも注目を集めつつある菌根の世界を、前書『菌根の世界』とあわせてぜひ味わってみてください。

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