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魚の自然誌―編集部より

地球表面の70パーセントは水に覆われている。この広大な水域には多数の奇妙な生き物が生息し、その中でも最高におもしろいのが魚たちだ。

寿命が数百年という巨大魚もいれば、数週間という短命の親指くらいの小魚もいる。ホットケーキのように平たい魚がいるかと思えば、風船のように膨らんだ魚もいて、体色を使って声高にものを言う魚もいれば、背景に溶けこんでしまう魚もいる。不正を働く魚、ダンスを踊る魚、記憶力がよい魚、謝るのがうまい魚だっている。ほとんど身動きしない魚もいれば、地球規模で泳ぎまわる旅を続ける魚もいる。

それなのに、魚の魅惑的で複雑な生活の多くは取るに足らないものとして見過ごされてきた。魚は水の中に隠れていて目に触れず、忘れ去られてきたのだ。

著者は水中の世界の水先案内人で、海の深みを調べ、魚として生きるということがどれほど素晴らしいかを解説してくれる。

本書には魚が登場するだけでなく、ブードゥー教のゾンビをつくる薬を探す人たちや、魚に歩き方を教えた研究者をはじめ、深海の探索を90歳になっても続ける研究者まで、魚に思いを寄せながら魚を観察し続けた人たち、あるいは今も観察し続ける人たちが登場する。

また随所に著者自身の水中探検の寸描がちりばめられている。薄気味悪い夜の海に潜ったときに光る魚を見たこと、巨大なマンタに間近で遭遇したときのこと、数千個の不思議そうに見つめてくる魚の群れの渦のまっただ中を漂ったときのことなどが語られる。

本書は、内容が濃いおもしろい読み物であるだけでなく、魚という動物や、魚が生息する海にもう一度思いをめぐらせるのを助け、水族館の水槽のガラス越しに魚を眺めたり、水中を泳いで天然の魚を見つめたりして、わざわざ出かけていってでも魚の不思議を楽しもうという気にさせてくれる。

日本人にとって、ふだん魚は食べ物としてとても身近な存在だ。
しかしこの本を読むと、その魚たちについて、ほとんど何も知らないことがよくわかる。
どこからでも興味のある章から読んでいただいてかまわない。
読後は絶対に、家で飼っている金魚や熱帯魚の動きをじっと観察したくなるだろう。

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