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小さな学校の時代がやってくる―まえがき

今、〝学校〟は、大きく揺れています。新型コロナウイルスによる教育活動の混乱もそうですが、それだけでなく今までやってきた教育のやり方が根本から問われているからです。いじめや不登校の問題が提起するように、学校は子どもたちにとって安心して学べる場になっていないのではないか? 今の学校教育は、基礎的な知識や技能の習得を重視しているが、一人ひとりの子どもの個性(よいところ)を伸ばすことをやっているのだろうか? テストの成績でその子の能力を評価するのは、その子の持っている個性を伸ばすことになっているのだろうか? AI(人工知能)やロボット技術が今以上に発達した未来の社会では、創造力や批判的思考力が必要であると言われているが、果たして今の教育のやり方でそれが身につくのだろうか?

日本には、国が定めた学習指導要領に則った画一的な教育が行われている公立学校か私立学校しかありませんが、海外には教育スタイルの違った個性的な学校がいくつもあって、その中から自分に合った学校を選ぶことができます。そして、それらのほとんどが生徒数200人以下の〝小さな学校〟です。どんな学校が合っているかは、子ども一人ひとりによって違うので、複数の選択肢があって、その中から自分に合った学校を選べるのが理想的です。

私は、近い将来〝小さな学校の時代がやってくる〟と思っています。今の学校は、学びから逃避する子ども、荒れる子ども、不登校の子ども、いじめや学級崩壊など、様々な困難な問題を抱えています。学校側はいろいろと対策を講じていますが、もはや限界にきています。それらを解決するには、今までの教育の常識を覆すような新しい取り組みが必要です。その有望な解決策の一つが〝小さな学校〟をつくることです。

この本には、そのことに関する一つの構想が書かれています。子育て中の人、現役の学校の先生、教師になろうと思っている学生さん、自分たちで学校をつくりたいと思っている人には、ぜひ読んでほしいと思います。また、過疎化や少子化が深刻で学校閉鎖を迫られている学校の保護者や管理者の人たち、大学生の教育に携わる教員や教育学研究者、日本の教育行政を担っている文部科学省や地方自治体の教育部局の人たち、そして政治家の人たちにも読んでほしいと思っています。この本から、日本の教育をよくするためのヒントを少しでも得ていただければ幸いです。

余談ですが、筆者がこの本を書こうと思った動機についてお話ししましょう。

私は、30年余りにわたって、3つの大学で建築学を教えてきました。教師生活はそれなりに楽しかったのですが、講義中の学生の私語の多さと学習意欲の低さにうんざりしていました。200人収容の大講義室でマイクで講義するマスプロ授業のせいかもしれないし、私の講義がつまらなかったからかもしれませんが、多くの学生が授業に積極的に参加せず、学ぶ意欲が低いのには何か別の原因があるのではと思いました。そしてたどり着いた結論は、高校以下の教育のやり方に問題があるのではないかということでした。学校では、決められた時間割にもとづいて、長時間、席について先生の話をひたすら聞いているだけの受け身の授業と、時々、先生の話した内容の理解度を確かめるためのテストが行われます。小学校から高校に至るまで、このような授業を受け続けてきた結果、勉強はテストがあるからするものになり、学ぶことに何の喜びも感じられなくなってしまったのだとしたら、学生たちを責めるわけにはいかないなと思いました。

そんなとき、海外の自由学校を実際に見る機会があって、「日本の教育は何と貧しいのだろう。子どもたちが生き生きと学んでいるこんな学校を日本にもつくりたい」と切実に思うようになり、2004年に大阪の箕面市にNPO法人立のオルタナティブスクール「箕面こどもの森学園」を仲間と共につくりました。それから17年たって、〝ハッピーで民主的な小さな学校の時代がやってくる〟ことを予感しつつ、箕面こどもの森学園での教育の様子や、他の自由学校の様子などを含めて、この本を書きました。

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