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森とカビ・キノコーまえがき

永い進化の過程を見ると、自然に育っていた樹木が病気や害虫に侵されて大量に枯れたり、森林が山火事や自然災害などで消えたりした例は多い。したがって、大騒ぎするほどのことではないかもしれないが、二十世紀初頭以来、なぜか樹木が大規模に枯れるという奇妙な現象が増えている。今、日本でもアカマツやクロマツの枯れがどんどん北上し、ミズナラやコナラ、シイ、カシなどの広葉樹も大量に枯れている。亜高山帯の針葉樹やスギ、ヒノキなども衰弱し、タケにも異常が見られる。なぜ、こうなったのだろう。

私は植物病理学が専門でもなく、病原菌や害虫について深い知識を持っているわけでもない。しかし、なんの因果か、マツタケとのつながりで松くい虫から始まって、大気汚染によるスギの衰退、クリの立ち枯れ、ナラ枯れ、ウメやリンゴなどの果樹の枯れと、樹木の枯死に立ち会うことが多く、今も海岸林で枯れるクロマツと格闘している。

ここに紹介する仕事はいずれも、樹木の枯死と土壌微生物や菌根との関連を調べて、「なぜ、木がこれほど枯れるのか」、その背景を調査してほしいという依頼によるものだった。そのため、病気や害虫を直接扱うというより、疫学的な見方にそって、樹木を健全に保つ方法を考えることを主にしてきた。

樹木の枯死については、森林を相手にするので、どうしても疫学的調査から入らざるをえない。ところが、被害が進行すると一網打尽になり、その背景となる誘因が見えなくなってしまいがちである。生態系の変化を知るためには、対照とするものが必要だが、広域に影響が及ぶと、それがなくなるため、当然過去と比較して考えざるを得なくなる。そのため、ここでもいきおい古い話を持ち出すことになった。言い換えれば被害が始まる以前と始まった直後の状態を知ること、いわゆる初動捜査を的確に行わなければならないのである。

このような調査研究は、いきおい状況証拠を追いかけることになり、なんとなく「風が吹いたら桶屋が儲かる」の類で、曖昧な点も多く、科学論文にならないうらみがある。私たちが行った調査研究結果のほとんどは内部報告書の段階に止まっており、人の目に触れる機会も少なかった。そのため、間違いや思い込みも多く、我田引水になりがちだが、これまで見聞きしたことを、この際思い切ってまとめてみることにした。

これは、近年地球的規模で拡大する樹木の枯死現象の誘因がどこにあるのか、考えるつもりで書いたもので、文献を網羅し、知識をまとめた教科書ではないことをお断りしておく。私が気にしているのは、樹木の大量枯死の原因は「病原菌や害虫だけなのか」「大気や土壌の汚染がかかわっているいるのか」「温暖化を含む大規模な環境条件の変化によるものなのか」などといった、煩雑で扱いにくい話題である。当然不明なことが多く、現象を説明しきれない悩みも多いが、地上の環境だけでなく、土の中の世界や植物の根の働きなどにも注意を払っていただければ幸いである。

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