見出し画像

見て・考えて・描く自然探究ノートーなぜネイチャー・ジャーナリングなのか?

まっさらな視線で世界を見ると、至るところに美があるとわかります。丁寧に物事を見ることで、あなたの人生を慈しむ機会を自分に与えてあげましょう。修道士であり作家でもある、デイヴィッド・スタインドル- ラストが言うように、「幸福によって感謝の気持ちが湧くのではない。感謝の気持ちをもつことで、私たちは幸福になる」のです。あなたが、見たものをジャーナルの中に記録するときは、あなたの周りにある環境に感謝してみてください。あなたのジャーナルのページの一枚一枚を通して世界を祝福すると、絵筆や鉛筆の運び一つひとつが、いま生きているという巡り合わせへの感謝の歌となることでしょう。
心の中で次の言葉を、いままで何度言ったか考えてみてください。「私はこの瞬間を決して忘れない」。特別な瞬間が心に刻まれることはあります。しかし、なかなか認めづらいことかもしれませんが、かつて自分にとって大いに意味のあった経験や想いの多くを、私たちは忘れてしまうものです。たしかに、人生の主要な出来事でさえも漠とした記憶しかもたずに人生をやり過ごすことも可能ではあります。人生の一瞬一瞬において、私たちは無意識のうちに、自分の五感から得た情報を摩耗させています。私たちが記憶に留められるのは、そのうちのほんの一部でしかありません。
しかし、ジャーナリングという作業は、ある瞬間を記憶に焼きつけるのに大いに役立ちます。旅行中に日記(ジャーナル)をつけた経験がある人には、このアイディアはなじみ深いものでしょう。とはいえ、ジャーナルのために旅をする必要はありません。日々の生活の中でも、不思議で心を満たし、身近で経験した美の記録でジャーナルを埋めることができます。この作業を通じて、力強さ、忍耐力、冷静さ、そして感謝する心が養われることでしょう。

愛でることから行動へ
私が、The Laws Field Guide to the Sierra Nevada(シエラネバダ山脈のロウズ式フィールドガイド)に取り組んでいたとき、出会った植物や動物について、3,000 枚近くの水彩画を描きました。一つの植物を描き終えると、その植物との信頼関係がしっかり築けたと感じました。だからこそ、旅の道すがら、絵を描くために植物を摘んでしおれさせてしまうのは間違っていると思いました。その代わりに、植物の傍らに座り、原寸の比率に忠実に描き、水彩で色を施して、それが終わって立ち上がったら、自分がそれまで座っていた場所の草をふわふわに盛り上げていました。6 年にわたるこの仕事が終わる頃には、気がつけば、絵に描くたびに、その植物たちに話しかけ、移動の前には、植物とその場所に感謝するようになっていました。出会った植物の一つひとつと、私は何度も恋に落ちていました。
愛情とは、思いやりをもって周囲を気遣うこと、と定義することもできるでしょう。子どもや、パートナー、教え子、そして通りすがりの人であっても、相手に真摯な気遣いをすることで、私たちは理解と優しさの関係性を築きやすくなります。同じように、私は理解や労り、思いやりをもって、ジャーナルを描き、自然に深い考察を向けます。自然にまつわる愛が、木々を元気づける森の泉のごとく、活力を届け、育んでいるのは、「執事の精神」です。つまり、何かを保護し、何かに責任をもつことであり、この本の文脈でいえば、あらゆる自然世界と生物多様性を護り、責任をもとうとする心構えのことです。ジャーナルをつけることは、あなたを世界とのより深いつながりに引き込み、次の行動へと導いてくれます。あなたが暮らしている場所で、新しい一歩を踏み出す方法を見つけてください。「自然の執事たち」である自然愛好家のコミュニティーを見つけて参加したり、直感に従い行動していくための、あなたが強く信じる活動の促進役になってください。あなたが自然を護り修復するにつれ、自然もあなたを本来の姿へと戻してくれるでしょう。

ゆっくり、観察し、発見し、出会う
すべての分野のライター、ナチュラリスト、科学者はジャーナル(記録帳)を使用して、彼らが仕事の過程で見たこと、行ったこと、考えたことを記録に残しています。ジャーナルは、私が野外に持っていく最も重要なツールです。双眼鏡よりも、もっと大切です。ジャーナリングとは、人生をより深く生きたいと願う人のためのスキルであり、年齢を問わず学ぶことができ、意識して実践することでどんどん上達するスキルです。探究しながらスケッチや文章を書くことは、何かを新しく発見しようと試みるときに自分自身をその気にさせるための、最も効果的な方法です。
ネイチャー・ジャーナリングによって、私たちは、科学がもたらすドキドキした気持ちを何度でも味わうことができます。観察とジャーナリングによって、あなたはゆったりとした気持ちで、立ち止まり、座り込んで、あたりを見回し、幾度も対象に目を向けるでしょう。じっと、静かに、注意深く観察する時間を、普段、どれほど時間をとっていますか? この手順をふむことで、あなたは自分の考えを整理し、答えを寄せ集めて、さらに深い疑問を投げかけることができるでしょう。落ち着いて、自分のジャーナルに観察結果を記録できるくらいの時間をかけて、じっくり観察すれば、あなたの目の前で様々な謎が解かれていくことでしょう。あらゆる科学にとって肝心なことは、飽くなき好奇心と深い観察力といった、最良の学びを導く気質なのです。もっと具体的にいえば、不思議だと思う直感から始まった学びや、理解したいという欲求、そして、観察する力のことなのです。
私は、よく見る、記憶する、好奇心を常にもち続ける、という三つの理由のために、ネイチャー・ジャーナリングに取り組んでいます。あなたがジャーナルに描く、そして書くために野外に座るたびに、これらの能力は高められます。絵を描くのが得意である必要はありません。また、ジャーナリングの成果は、紙面に描いたものだけではありません。むしろ、その成果や恩恵は、あなたが自然の中で見聞きした経験と、それをどう捉えたかという思考方法の中にあるのです。
この本はまず、いかに自然と出会い、観察し、発展させるのかを学ぶのに役立つ実用的な方法についてお伝えします。その後に続く各章では、材料や道具の選択方法に関する情報が続きます。いくつかの種類の植物に加え、陸の景色と、空の景色まで正確に描く方法、そして、あなたのスケッチスキルを磨く方法も掲載されています。ネイチャー・ジャーナリングの経験のあるなしに関係なく、この本のどこからでも、読み始めてください。好奇心と喜びをもって世界を旅する方法についてのガイドブックになります。あなたのジャーナルを手に取り、外に出て、いま生きているという豊かな経験を耕し、育ててください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?