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日本のアンモナイトーはじめに

 1971年6月11日に初めて北海道の三笠市でアンモナイトを採集してから、今年でちょうど50年になります。この50年の間に68回も北海道に通い、たくさんの化石を採集してきました。北海道に滞在しているときは毎日毎日山に入り、重いリュックを担いで毎日10㎞とか20㎞とか、山河を歩き回っています。普段の巡検では考えられないくらいの行動力です。
 ちなみに、2020 年は12日間で25カ所を巡検し、徒歩が160㎞、自転車が40㎞と、とてもハードな活動をしました。言っておきますが僕は今年71歳になります。そんな僕ですが、頑張っています。
 採集した化石の量はちょうど200㎏、それでも例年よりはうんと少ないものでした。収穫の多い年には300㎏を超える量の化石を車に積んで持ち帰りますから、車はペシャンコに沈み、ヒーヒーあえぎながら走らせたこともあります。
 試しに計算してみましょう。平均1 回250㎏の収穫で、60回通ったとして1万5,000㎏です。なんと15トンものノジュールを採集したことになります。北海道が浮き上がり、僕の住んでいる滋賀県では琵琶湖が少し沈んだかもしれません。
 化石の世界の"三種の神器"の一つがアンモナイトだと僕は思っていますが、なんといってもその種類の多さ、そしてその美しさは飛び抜けています。後の二つ、サメの歯と三葉虫も魅力的な化石ですが、アンモナイトの美しさにはとうていかないません。また、殻の幾何学的な模様や形態も、本能的に人を惹きつけるのかも知れません。
 カナダから産出するアンモナイトで、殻が虹色に輝いているものがあります。「アンモライト」と呼ばれていて、宝石として扱われています。本当に美しく、誰もがその美しさに魅了されます。北海道から産出するアンモナイトもそれに負けないような美しいものもありますが、ただ、その規模が違うようです。
 アンモナイトの美しさは、化石のでき方やその構造によるものが大きいと思います。特に北海道のアンモナイトは、ノジュールの中に入っているのが普通で、そのために保存状態がすこぶる良いのです。
アンモナイトの殻の中(気室)が方解石の結晶で満たされていたり、あるいはメノウに置き換わっていたり、赤や黄色に色づいているものも多く、本当に美しいです。さらに、出てきたアンモナイトの表情が人の顔のようにそれぞれ違い、同じ種類であってもまったく違います。
強いて難点を言うと、硬いノジュールの中に入っているので、ノジュールを割ったり、その中から取り出したりするときに壊れてしまうものが多いことです。また、もともと壊れているものがノジュールの中に入っていることも多く、なかなか完全なものを得ることは難しいのです。だからこそ完全なものを得ようと毎回山河を歩き回るのです。これは僕の果てしない探求心です。
 さらに、ノジュールからは何が出てくるかわからない、そんなわくわく感がたまりません。まるで宝探しのようです。
僕は常日頃から化石を大事に扱うように心がけていて、見つけたノジュールはできるだけその場では割らず持ち帰り、家の中で、それもきちんと机の上で割るようにしています。ですから当然持ち帰る石の量は多く、そして重くなるのです。野外で石を割ってしまうと、化石自体が割れてしまい、破片が飛び散って失うことが多いからです。石はどう割れるかわかりません。たいてい思わぬ形に割れてしまいます。そして大事な化石が壊れ、価値が減少することが多々あるのです。あわてて破片を探すのですが、地面に落ちた小さな破片はなかなか見つかりません。そんな苦い思いをしたくないからです。
まあ、そんなきれい事を言う僕ですが、今でも採集現場で早くアンモナイトの顔が見たくて、ガツンとハンマーを入れてしまうこともあります。ハンマーで石を割る技術は上手な方だと思いますが、それでも「あ、やってしもうた」とあわてることがあります。わかっちゃいるけどやめられない、ですね。
 皆さんも極力、見つけたノジュールはそのままの状態で持ち帰ってください。もちろん、すべてのノジュールに化石が入っているわけではないので大事に持って帰っても家で割ってみたら何も入っていなかった、そんなこともたびたびあります。ですから、せめてノジュールの表面に化石がチラッと見えていたなら、そのまま持ち帰った方が無難です。
 僕はアンモナイトの研究者でも専門家でもありません。でも、ただの好事家でもありません。とにかく好奇心が強く、探求心も人一倍あります。本書では、そんなアマチュアがアンモナイトの魅力を、ほんの少しですがお伝えしたいと思います。皆さんは、アンモナイトを化石として見ると同時に、生き物としても見てください。きっと興味が倍増するでしょう。

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