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こぼれたワインが知らせるいくつかの現実(2)

ジグソーパズルの最後の1つのピースが足りない、そんな心境だった。突然の別れ。いや、別れなのだとすぐに認識できればまだ良かった。突然消えたのだ、彼は。

その苦しみは、眠れない夜を10か20過ぎた頃に、私の持つ普通の感覚を、少しばかり狂わせた。

足りない1つのピースを自力で埋めて、この恋愛を「完全に終わり」にする手段。
どんな方法が適当だろうかと考えながら、それはある意味、何でも良いのだと結論づけた。

彼は既婚者だった。
腹いせに配偶者に全てを話す…そんな昼メロ的な結末でも良かったが、それはできない。
何故って、そんな事をしたら、完全に終わりにするどころか、今度は罪悪感に襲われて眠れない夜を過ごすに違いない。

とにかく何か行動を。
少しばかり感覚が狂った私は、彼の配偶者である梨花子の職場に、派遣会社を通じて入社した。

今もその時の心境はよく理解できない。意味がわからない行動だと今さら思う。

そうして出社した日に、梨花子を見た時の事は忘れない。

とびきりの美人ではない事は、ある事情で知っていた。
その事より、梨花子のやつれっぷりに驚いたのだ。

肝臓でも悪くしたかのような黒い肌。笑顔は以前通りだが目に輝きがない。

その時から、力んでいた肩の力が抜けてしまい、梨花子のおしゃべり相手に徹しているのだ。

梨花子の口から出る「本音」から、何となく彼が「小さな冴えないおっさん」に思えてくる。

まるで姑のように家事にダメ出しをすること。
乾いた洗濯物のたたみ方にも難癖を付けたり、料理も気に入らないと残してイヤミを言うこと。
そのくせ「外ヅラ」は一級品で、いつもカッコつけていること。

笑い話として聞いている顔で、私の知っている、スーツ姿がキマってる彼の化けの皮が1枚づつ剥がされて行く。

そんな毎日なのだが、私の化けの皮が剥がされる日が来てしまった。

それは梨花子とイタリア料理屋でランチを食べた日の仕事が終わった夜の事だった。

続く

#小説 #恋愛

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