二枚舌

吐き気を催す夏を歩く人々の渦は
見えないだけで感情が入り乱れていて
不快指数はとにかく上がっていく
右も左も怪訝そうに誰かを探している

捜索している他人同士で牽制し合う
薄い笑い顔の裏の感情は指が現している
そういう時代になったのだ
そんなものは随分前からだ

形を変えながら二枚舌は生き残る
隠れた本性を器用に隠しながら
生きる人間の処世術
人々は衝突を恐れ衝突を欲しがる
火事を見物しにくる
ああそういえば昔からそうだった

人間の本性はどこにあるのだろう
かたや聖人君子のように祈り
ある時は悪魔のように蔑み罵倒して
鏡の向こうの自分は他人だと思うのか

溢れた感情の洪水が押し寄せる空間に
耐えきれず溺れ死ぬ人が多数いる
消化し切った感情のあと何事もなかったように
空間は静寂に包まれてまた波が起きている
その波に飲まれないよう抗う人たちが
耐えきれず溺れ死ぬ
どうして人が死ぬということが理解できないのだろう
だけれども遠い場所で誰かが交通事故で亡くなったとして
悲しめるのかといえばそうではないと言えてしまう

呼吸音が聞こえてくる世界はあまりにも矮小で
地べたに倒れている同級生の声すら聞こえない
そして笑うんだ優しい人間を演じるかのように
それとも他者に攻撃できる人間を演じているのだろうか
何のために?

鏡をそっとみてみると舌が二つ
声さえも色さえも言葉遣いさえも
腕も足も二本ずつ生えてきて暴力的に動いて
感情すら二分され表情すら二分され顔面すら二分され
いつしか化け物になっている
ほら影を見てごらん


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