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解けない知恵の輪

2021.7.11

本日未明、バイト帰りに「雨降ってない!ラッキー!しかもやっと日曜や〜」なんて思いながら自転車を走らせていた。すると、ぼんやりと視界の端に大きな影を見つけ、思わず声が出た。
山鉾の骨組みだった。
そこで初めて今年の山鉾建てが始まったことを知る。

家に帰って寝て起きて、その日の昼にまた同じ道を通った。市バス3系統の中から見る山鉾は、賑わいを見せる四条通りを彩り、沢山の人から視線を注がれて夜より立派に見えた。巡行は今年も開催されないが、山鉾の存在は人々に活力を与えてくれる。

バスに乗って向かった先は一乗寺エリア。楽しみにしていた平安蚤の市が雨天予報のため中止になったので、本好きな友人と恵文社一乗寺店へ行くことに。
3号系統のバスはよく利用するが、河原町今出川より先ではあまり下車したことがない(大抵、出町座に用があるため)。今回は出町柳駅前で下車。
叡電に乗り一乗寺駅まで向かい、下車してからおよそ徒歩2分。

落ち着いた街並みに溶け込んだ本屋が現れた。窓越しに見える本たちに期待を寄せていざ店内へ。
最初に入ったところはギャラリースペースで、雑貨や文具、絵画作品が並べられていた。奥にある扉から中庭を通り(京都文化博物館を連想させた)、お目当ての本屋へ移動する。小さな扉からは想像できない数多くの本を目にして息を呑んだ。

大袈裟な言い方に聞こえるかも知れないが、私は、自分が死ぬまでに成し遂げられないようなコトやモノを目の前にして酔うのがたまらなく好きだ。本であれば、丸善のような大型の書店や図書館がそれに当たる。

自分が死ぬまでに存在する時間をすべて使っても、絶対に生涯知り得ない情報が目の前に広がっているのかと思うと、それを実感した途端に無力感に似た感情におそわれ、目眩がしそうなほどゾクゾクする。それが最高に心地良いのだ。
そして、「どれを手に取るか、慎重に考えなければ…」と無理矢理にでも集中しろ!スイッチを自分で押す。

流石は"本にまつわるあれこれのお店"
雑貨や衣類、さらには食品まで置いてあった。

恵文社を出て、東に向かってふらふら歩くと、喫茶ウッドノートに辿り着いた。ちょうどおやつの時間だったので、迷わず入店。ログハウスのような出立ちのお店で、すごく温かみがあった。
ブレンドコーヒーにケーキセットをつけ、到着を待った。

常連らしきお客が退店した後、マスターが話しかけてきた。
一乗寺には芸大があるが、少々遠くから来た私たちは違う大学に通っている。それを聞いたマスターは「珍しいね」と言いながら私たちの近くに座った。

それから実に4時間以上、この喫茶に滞在した。運良く(?)私たちが入店した後にお客は来ず、マスターの弾丸トークに付き合うこととなったのだ。
なぜ「弾丸」になったかというと、私の旅の経験談がマスターの関心を引いたからだろう。大学の研修プログラムで多数の古墳があることで知られる明日香村へ、プライベートで天川村へ行ったことを伝えると、たちまちマスターは饒舌になった。
お店を見回せば、入り口近くのテーブルの側面が前方後円墳の形にくり抜かれていたり、関連本が並んでいたり、そこらじゅうに古墳要素が散りばめられている。
古墳の魅力や登山の楽しみ方、天川村のお気に入りの場所を楽しそうに話してくれるマスターを見て、興味に刺さる話題を提供できたことを喜ばしく思った。

ただ、最初に頼んだコーヒーとパウンドケーキは当然なくなった。サービスで甘酒を注いでもらった時、なにか追加で頼まなければと思ったが、そこからまさか4時間も居座るとは…

会計を終え店を出る前、よく喫茶店に置いてある自由帳に感想を残した。
マスターが何やら持ってくる。小さなバスケットに知恵の輪が大量に入っている。私たちはうずうずして手を伸ばし、知恵の輪解きを始めてしまった。こうして、いつまでも帰らせないつもりか…?
私が手にした知恵の輪は、なかなか解けなかった。マスターは「解けたらまた来てね」と、洒落た約束をしてくれた。それから借りた知恵の輪を返すまで、しばし日が空くことを私はまだ知らない。

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