2023年度の一橋大日本史について

2023年度の一橋大日本史について簡単にコメントしておきます。

詳しくは,
つかはらの日本史工房(一橋大日本史/過去問研究)をごらん下さい。

 最初に確認しておきたいことがあります。
 一橋大日本史は小問ごとの字数指定がなく,設問全体で400字以内という設定しかありません。小問ごとにどれくらの字数を割くのかは,受験生が自分で判断しなければなりません。
 したがって,設問全体をながめたうえで,どの小問で字数をかけて説明すればよいかを算段することが不可欠です。そのうえで指定字数の8割(320字)ほどを目安に答案をつくりはじめたい。

1.江戸時代の経世論と法・経済

問1は「江戸時代の儒学者・経世家」,「著作『経済話』」というヒントで人物を問うという,高校日本史レベルから言うと悪問。答えなくてよい捨て問(一橋日本史にありがち)と判断したい。
問2は「経世論」を説明させる問題だが,高校教科書の説明で対応できる。「荻生徂徠の学問」との関連づけも,荻生徂徠が経世論の基礎を作った,あるいは経世論に道を開いた,くらいの説明なら教科書レベルだし,それで十分。ただ朱子学との関係づけるのが難しかっただろう。史料に「上にては,民が孝・悌・忠・信になりたらば法に背くまい,とかく民の孝・悌・忠・信になる様にと思ふこと也」とある点に注目すれば,朱子学=徳治,そして荻生徂徠が朱子学を批判,ということに気づけば,関係づけは可能だが。
問3は公事方御定書と分かれば平易。
問4で字数をかせぎたい。200字程度は書いておきたい。
 問われているのは「掛屋と札差について説明」することだが,200字程度の字数で書こうとするなら,いきなり「掛屋は……」と書き出すのは愚策。用語の説明が問われたら,一般的には,「いつ,どこで,誰が,何をしたのか」を想起しつつ,それに加えて「背景」や「影響」を説明できるように心がけたい。その意味で,掛屋や札差が活動した背景をしっかり説明しておきたい。諸藩が年貢米を販売した代金を管理するのが掛屋で,旗本・御家人が幕府から受け取る俸禄(禄米)の換金にかかわるのが札差なので,幕府や諸藩が年貢米(米納を主とする年貢)を財政基盤としていた点,年貢米を換金する必要があった背景などを説明しておきたい。
問5は村田清風の名前を記したうえで,越荷方を活用して藩財政の再建につとめたことを説明できればよい。紙や蝋の専売制を改革した点を書いてもよいが,専売制を始めたのではなく,改革・再編成したという点に注意が必要。

2.明治~昭和戦前期のジャーナリズム


問2と問3,特に問2でがっつり字数を確保したい。

問2は「明治初期に新聞紙条例が制定された背景」が問われているが,条件として「当時の政治状況をふまえ」ることが求められている。したがって,自由民権運動について具体的に説明していきたい。自由民権運動は言論,集会,結社(政社)という3つの観点から内容を確認しておくと,この問題でも答案を構成しやすいだろう。新聞紙条例が出されたのは1875年,自由民権運動が始まった頃,いわゆる士族民権の頃で,言論と結社(政社)が中心。板垣・江藤らが愛国公党という結社を作り,そのうえで政府に民撰議院設立建白書を提出したことが自由民権運動の始まりだが,愛国公党は佐賀の乱で自然消滅し,そのあとは各地で結社(政社)が設立→連合組織としての愛国社の結成へといたる一方,民撰議院設立建白書が新聞「日新真事誌」に掲載されたことをきっかけとして民撰議院(公選制議会)の設立をめぐって賛成・反対の立場から新聞・雑誌で議論がくり広げられる。こうした状況を説明したうえで,政府が新聞紙条例を定めた意図・目的にふれればよい。
問3は「日露戦争において」とあるので,最低限,開戦後に限定して説明すればよい。政府を批判した新聞は,非戦論に立つ幸徳らの「平民新聞」がすぐに思いついたものの,政府を擁護した新聞がわからなかった受験生がいたのではないか。しかし,幸徳らが「万朝報」社を退社して「平民新聞」を立ち上げた経緯を考えれば,日露開戦時に「万朝報」が主戦論の立場から政府を擁護したことに気づくだろう。なお,山川『詳説日本史B』には徳富蘇峰の「国民新聞」も主戦論に立った新聞の一つとして説明されているが,難しいだろう(ちなみに「国民新聞」は厳密には主戦論というよりも政府擁護派。当初は主戦論をとらず外交交渉による解決という政府の立場を擁護する慎重論だった)。
問4は戦時体制のもとで統制・利用されたことが書ければよいのだが,具体例を思いついたか。山川『詳説日本史B』には内閣情報局が記載されており,これが書ければいいのだが難しい。国家総動員法により統制されたことが書ければOKか。

3.敗戦~高度経済成長期の政治・外交・社会経済


 リード文を読んで,沖縄史の出題かと思ったら,沖縄に関する論述問題が全くない。なんだか肩透かしで悲しい問題だ。リード文と設問をセットで考え,リード文を生かした設問をしっかり配置してほしかった。
問1と問4は語句記述問題なので放っておく。
問2ではソ連を通じた終戦工作が問われた。高校教科書にしっかり記載されているので,書けてほしいところだが,さて,どうだったのだろうか。鈴木内閣の終戦工作が書ければ十分か。
問3はサンフランシスコ平和条約の締結をめぐる国内での批判について説明することが求められている。個人的にはこの小問で字数をかせぎたいと思う。「批判」だけを説明するのではなく,サンフランシスコ平和条約がなぜ批判されたのかについても説明したい。つまり,サンフランシスコ平和条約が単独講和であった点について,その背景,そして単独講和であることの内容(中国が招かれていない,ソ連が調印していないなど)を含めて説明したい。
問5は革新自治体が数多く成立した背景を問うたもの。大都市圏では過密が進み,公害問題(都市公害)などで生活環境が悪化しており,公害の規制が求められていたことが説明できればよい。


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