見出し画像

元幹部自衛官が教える、ビジネスで使える「戦いの原則」

最近、ビジネスというのは本当に戦いだなぁ、と感じてる。インターネットの業界にいると、サービスがローンチされるのも、閉じるのも日常茶飯事だ。

キャッシュレスの覇権争いなどをみても、全力で殴り合ってる。

ところで、ビジネスの社会では、しばしば「戦略」について語られることがある。戦略的な意思決定とか、戦略的撤退とか。キャッシュレスの戦場で戦おうとするか否か、というのは、戦略レベルの意思決定だ。

一方で、戦術、つまり戦い方については、なんだか原則めいたものを見る機会は少ないように思う。戦略的に、キャッシュレスの戦場で戦うことは決めたけど、そこでどう戦うのがいいのか、という話。

私は防衛大出身で、4年半ほど幹部自衛官をやっていた。職種は後方支援職種(輸送科)なので前線で戦うものではなかったけれども、この「戦い方」については、幹部自衛官のときに戦術のお勉強をたくさんした。

そこで、今日はちょっとその原則を紹介しよう。なお、参考リンクはこのあたり。でも、微妙に言葉が違うので、参考まで。

戦いの9原則

陸上自衛隊の「野外令」という戦術に関する教範では、戦いの原則として以下の9つを挙げている。

「目的の原則」
「主導の原則」
「集中の原則」
「経済の原則」
「統一の原則」
「機動の原則」
「奇襲の原則」
「保全の原則」
「簡明の原則」

戦うときは、これらをすべてそろえなさい、ということ。そろえれば、勝てる。

ちなみに、米陸軍でもだいたい同じだったはず。なお、これは私が自衛官だった2009年まではそうだったが、現在では教範が変わったとも聞いたので、いまは違う表現かもしれない。

覚え方としては

もくしゅしゅうけいとうききほかん

という語呂が使われていた。ひとつずつ見ていこう。


目的の原則 

「目的の原則」とは、目的・目標の確立及びその追及の二つを意味してる。

明確に規定され、決定的な意義を有し、かつ達成可能であるという条件を充たすものを目的・目標として設定する。

確立した目的・目標に対しては、最大限の努力を結集して、強烈な意志をもってあくまでこれの達成を追及しなければならない。

目的は、期待すべき所望の効果であり、目標は、目的を達成するための手段、方法、数値などである。

目的〈何のために〉と目標〈何をするか〉の関係は、上下の関係でもあり、全体と部分の関係でもある。

OKRだMBOだと手法はいろいろと言われているけど、そのビジネスの目的は何か、ちゃんと会社全体で共有できているだろうか。目的と目標を混同していないだろうか。

やっぱり、目的がはっきりしている組織は戦いに強いのだ。

主動の原則

「主動の原則」とは、態度の原則であって、形式の原則ではない。

形式としての攻撃行動を奨励する原則ではなく、決定的成果獲得のため絶えず主動的態度をもって敵に我が意志を強要すべきことを示すものである。

なんでもイケイケドンドンで攻めればいい、というわけではなく、押しても引いても、敵をできるだけコントロールしようとすることだ。

逆に、敵が先にいろいろな手を打ってきて、それに追随しているようでは、戦いには勝てない。

集中の原則

「集中の原則」は、わかりやすく、戦力を分散するな、ということ。戦場を絞って、そこに戦力を集中投下する。

やっぱり、いろいろ手を出したくなる。アレもやる、これもやる、となる。けれど、一転突破はやっぱり強い。

経済の原則

「経済の原則」は、戦力を無駄に使うな、ということ。遊んでいる戦力があると、戦いには勝てない。

日本の古くからある大企業では、お給料だけ高くてあまり仕事をしないおじさんがたくさんいるという伝説を聞いたことがあるが、それでは勝利は望めないだろう。

統一の原則

「統一の原則」とは、一人の指揮官が、総ての部隊の行動を共通の目標に方向付け同調させること。意思決定者をひとりに絞ろう、という話。

船頭多くして船山に登る、ということわざもある。やっぱり、戦いに勝つには、わかりやすいリーダーが必要だ。

ただし、これはひとりのリーダーに権力を集中させよう、という話ではない。今の時代、ビジネスにおいて戦いの場はたくさんある。それぞれの場のリーダーが全員バラバラでもいいのだ。そのリーダーに決定権があれば。

機動の原則

機動という言葉は耳慣れないかもしれないが、戦闘において、敵との戦闘力集中競争に勝ち、結果として敵に対して有利な態勢を占めるために、部隊を動かすこと。

すなわち「機動の原則」とは、柔軟に動き回って、とにかく優位な立場に立とうね、という原則だ。

やみくもに動けばいい、ということではないんだけど、でも、それに近いと理解してる。動きが大きいほうが、戦いを有利に運べるのだ。速さは力だ、ともいえるだろう。

目新しい施策をどんどん出す。変化を恐れずにいろいろなことを仕掛ける。

奇襲の原則

奇襲とは、敵の予期しない時期、場所、方法等によって、敵に対応のいとまを与えないように打撃を加えること。意表をつこうということ。

相手の予想通りの施策ばかりやっていても、対応できてしまう。「そうきたかー」という施策を工夫するのだ。

なお、とにかく奇抜なことをやれ、ということではない。奇襲において最も重要なことは、「対応のいとまを与えない」こと。それが奇抜な施策で達成できるならそれでもいいけど、意表をついていれば、奇抜でなくても全然問題ない。

保全の原則

保全とは、情報を秘匿すること。自分たちがやろうとしていることが相手に漏れないようにすること。また、そうできるように十分に警戒しようね、ということ。奇襲の原則を貫こうと思うと、保全は必須だ。

奇襲と保全については、少し前までのappleがすごかったな、という印象。どんな発表があるのか予想もできない。情報が全然漏れてこない。そして、意表を突く発表をして、競合が対応する間もなく、全世界で速やかに売り出す。とても理にかなった戦い方だと思う。

簡明の原則

「簡明の原則」とは、とにかく指示命令はわかりやすく簡単なものにしろ、ということ。

「戦場は錯誤の連続が常態であり、錯誤の少ないほうが勝ちを制する」というようなことが古来から言われている。

なので、複雑な承認フローを作ったり、上から細かい指示をしすぎるのではなく、とにかく意図が伝わりやすいように、簡明を心掛けるのがよい戦い方だ。

現在だと、UIなんかもシンプルな方が強いように思う。何度もクリックしないといけないサービスはわかりづらい。だから、勝てない。

さいごに

やっぱり見直してみると、戦略も重要だけど、戦術も重要だよね、と感じる。

特に、戦略を決める経営層ではなく、実行部隊である事業部長クラスのシニアマネジメントや、フロントラインのマネージャーたちには、戦略のことよりも戦術のことを知ってもらうほうが有効かもしれない。

ぜひ、サポートお願いします。いただいたサポートは、より多くの人にコーチングが届くよう、情報発信に活用させていただきます!