見出し画像

【疑惑のカルテ Ⅰ】④カルテ改竄


「白い悪魔」になんか殺されてたまるものか。
 

戦闘開始を決めた私が最初にすべきことは、開示カルテの精査だ。

病名がズラリと記載されたサマリーを見て、「怪しい」と察しはついていた。

細かく見ていけば、絶対に「不正請求」に行き当たる。その確信はあった。

確たる理由はない。勘だ。
いろいろなことがチグハグで、不自然過ぎた。

「ごめんなさい」の一言が言えない、その裏に、膨大な嘘と、重大な不祥事ーー犯罪が隠蔽されているのでは? たぶんミステリー作家なら誰もが感じるであろう第六感。  

ありえない不自然さ

普通なら1人くらい真実を告げても不思議ではない。

ところが、スタッフ全員が口を揃えて、黒を白と言う。

その足並みの揃い具合が、奇妙だった。

仮に不正があれば、それを知っていれば、自分の身可愛さから、真実をカミングアウトしてもよさそうなものだ。

だが、揃って嘘をつく。まるで取り憑かれたように。

その姿はあたかも、カルト教団を思わせた。

スタッフ全員が、何者かに洗脳されているーー?


少々わかりづらいと思うので、ここで「民事」と「刑事」の別を、私の案件に沿って簡単に説明しておこう。

医療過誤、医療ミス、個人情報漏洩は、「民事」である。

「不正請求」は詐欺、犯罪なので、「刑事」だ。

それぞれ管轄が違い、訴えるべきところも違う。

私の場合、この時点では、両方の可能性があった。
(後に不正は確定した)


民事にしろ、刑事にしろ、医師および病院の罪を暴くには、カルテの解析が必須となる。

さて、開示されたカルテの第1ページを見て、 
「あっ!」と声を上げた。

明らかに、書き換えられているーー!

カルテ改竄

ドラマでしか聞いたことのない現実が、目の前にあった。


2018年11月15日分・最後の行。

「全脊椎立位2R」

どうやらこれが「問題の検査名」らしい。

らしい、というのは、むろん初耳の検査名だからだ。

そもそも、私の疾患部位は「股関節」である。

「脊椎」ではない。腰などに痛みもない。

なぜ「全脊椎」の撮影が必要なのか、さっぱりわからない。 

ーー否。

実は、撮影の機械を見てすぐに察しがついていた。
いかにも高価そうな、新しい機械が、レントゲン室の奥に据えられていた。今まで、どこの病院でも見たことのない巨大な「新兵器」。

どうやら、これを病院のウリにするつもりらしい……。

「機械代金の回収」  

という言葉がすぐに浮かんだ。

そのくらいは誰でも気づくはずだ。

さらに突っ込んで推測すると、

「全身撮影をします」
と患者に告げれば、たいていの人が拒否反応を示すに違いない。

特に女性は、「全身の肉まで写す」と言われて、OKする人はまずいないと思う。

よほど脊椎に痛みがあれば別だが。ならばその部位だけをMRIなりCTなりで撮ればよい話だ。

つまり医師は、故意にインフォームド・コンセントを行わなかった可能性が高いーー!

確信犯

という疑念が湧く。

病院側が認めるべくもないが、おそらく間違いないと、私は思う。

医師は、「わざと」インフォームド・コンセントをしなかった
あるいは細かいことまで説明するのが面倒くさかったのかもしれない。
理由は何にしろ、違法である。
 
証拠がある。

事故当日の予約表


検査前の診察で渡された「予約表」だ。

「X-Pあり」とだけ手書きである。 
レントゲンの単純撮影のことだ。

「全脊椎立位2R」の文字はどこにもない。

まだ私の推測に過ぎないが、カルテの「全脊椎立位2R」は、医師の手で書き加えられている。むろん、私がカルテ開示を請求した後に、だ。

すなわち、カルテ改竄

そう思える理由の一つは、外来のカルテは常にクラークが書いている。特に医療の専門家ではないから、表現は平易だ。要するに誰でも書ける文章。

「全脊椎立位2R」だけが妙に浮いているのがわかる。

もう一点、素人が書いている証拠に、医大の教授の名前が違っている。「増見教授」という人はいない。

そして、事故があった問題の12月13日。

はっきり言う。

この日のカルテの内容、さらに時刻すら、すべてがでっち上げの嘘っぱちである。それについては、最後に述べる。

これはクラークの文章だ。

彼女も、グルであることがわかる。

さらには、この時Y医師についていた外来看護師も、むろんグルだ。

「あなたたちは、犯罪を犯しているという自覚はないのか??」

今彼女たちに会うことがあれば、首根っこをつかまえて、そう言うだろう。

もちろん、一族郎党で、私から逃げている。


話を11月の診察日にもどす。

「いつものレントゲンを2枚撮りましょうね」

Y医師は、いつもながらのソフトな声で告げたのだった。

Y先生がお腹の中で、「ふふ、高いレントゲン代をむしり取ってやる。馬鹿なカモ!」

と言ったとしても、医師を信じきっている患者の耳に届くはずもない。
 

実際に、Y先生が腹で笑ったかと言うと、ノーだと私は想像する。

 
先生は誰かに操られている……。

もっとはっきり言うと、先生の弱みを握った何者かに、いいように利用されているふしがある。

私がリストアップしているのは、2人。院長と事務長だ。あるいは、2人を操る陰の人物。

それというのも、この後に判明した不正(カルテ改竄ではない)は、非常に巧妙なやり口だ。カルテとレセプトと画像、すべてを突き合わせないと、決してわからない不正。素人が考えられる手口ではない。厚生局の役人が見破れる手口でもない。

とても頭のよい人間が考案し、おそらくは日本中の病院にレクチャーして回っている……。

しかし、ここまで来るともはやノンフィクションの枠を外れて医療ミステリー小説になってしまうので、ここでは事実のみを語ることにしよう。


再び12月13日のカルテ。

「ピアスの穴あけして欲しい。」とある。クラークが書いたものだと思われる。(医師の文章と比べれば確定できる。漢字の使い方でわかる)

問題は内容だ。

その時に私が言った言葉、真実を、そのまま書くことにする。

「先月、ピアスホールの予約をしたんですけど、今日はもう疲れちゃったんで、次の外来の時にしてください」

と言った。正確に言うと、Y医師と外来看護師に一回ずつ、二回言った。

看護師は「はい……」と答え、なぜか処置室へと消えた。

やがてもどってきて、

「G先生が来て待ってるから、やって。ピアスはほんの一瞬で終わるから」

私がしぶると、

「ほんの一瞬だから。G先生をもう呼んだ。先生が処置室で待ってるから」

G先生が待っているのなら、悪いな、と思い、処置室に行った。

が、G先生の姿はない。しばらくーーおそらく15分か20分、処置室前のベンチで待った。

あんまり遅いので、処置室看護師に「G先生が待っていると聞いたんですけど」と訊ねた。

看護師は、「今呼びます」と答え、内線電話をかけた。

しばらくしてG医師が、階段を降りてやってきた。

つまり、「G先生がすでに待っている」と言った外来看護師の言葉は、まったくのウソだったのだ!

外来の看護師たち全員、7~8人ほどが集まり、「実費よ、実費!」と手を叩いて喜び合っていた。ピアスホールは自費で5400円なのだ。

その時していたアメジストの18金ピアスを私が外すと、看護師の1人が、まるで使い終えた注射針のように、ポイ、とトレイに投げ捨てた


ここでカルテが再び問題となる。時刻だ。

外来診察の9分後に、ピアスホールを開けたことになっている。

全然合わない。

私は、処置室にいるはずのG医師を、かなり長いことベンチで待った。9分後に処置が終わったはずがない!

すべてが、ウソ。


さらに言うなら、ホールを開けた後に、看護師から、「毎日くるくる回してね。肉がくっつかないように」と指示があった。

医師は、パチンとパンチした跡は、見もしない。注意はなかった。

言われたとおり、真面目に毎日くるくる回した。

結果、4か月後にピアスを外すと、夥しい出血があり、止まらなくなった。

耳たぶは赤く大きく腫れ上がり、とても穴などに触れるものではない。

大失敗!

今どき、中学生ですら開けられるピアスホールを失敗する医師……。

むろん傷を治してほしいと訴えたが、フォローはいっさいなし。

おかげで、穴は開かずに、大きな傷跡だけが残った。

その頃には、左目はデロリとなり、右の耳たぶは赤く腫れ上がり、お岩さん以上の風貌となった。


ここに書いたのは、見てすぐにわかる単純な《カルテ改竄》だ。

もっと巧妙で悪質な改竄をしている可能性が高くなってきた。

つまりは、《データの捏造》だ。

かつて東京女子医大事件であったような。

いや、容疑が固まれば、さらに酷いデータ捏造の可能性。


「事故を隠蔽したがるような病院は、もっと重要な隠蔽をしている」

自分の直感を信じ、斬り込む。



(つづく)







ここ数年で書きためた小説その他を、順次発表していきます。ほぼすべて無料公開の予定ですので、ご支援よろしくお願いいたします。