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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座29デジタライゼーション(②SoE)の実践-Webサイトは会社で一つの時代から商品、担当者ごとの時代に-

部署の壁、顧客の壁を越えるような取り組みにはどんなものがあるか教えて欲しいとよく聞かれます。あらゆる仕事が顧客からの注文や他部署からの依頼によって始まり、仕事の結果を顧客や他部署に引き渡すことを考えれば、探すのは簡単だと思うのですが、長年のルーチンワーク化によって、誰のためにやっているのかがわかりにくくなっている仕事が増えているのかと思うと、なんとも言えない気分になってしまいます。

極端なことを言う人の中には、まずは部分最適でいいからデジタル化や業務改善に取り組めばよいと言う人もいますが、私にはそれが到底DXと呼べるものとは思えません。何かをするやる気をなくしてしまった組織に対して、まずは行動を起こせと言うことに反論はありませんが、やはりそれはDXではなく、DXとは異なる普通の「カイゼン」と呼ぶものだと思います。(普通の「カイゼン」が悪いわけでも否定するわけでもありません。)

AIをはじめとするデジタル技術が劇的なスピードで高度化していく現代において、歩くようなスピードで「カイゼン」していくような余裕は企業にも人にもありません。来年のAIはどこまで進化するのか誰も正確に予測できませんが、5年前、10年前と変わらない仕事のやり方をしている人は、いずれAIに仕事を奪われる覚悟をしておいた方がよいでしょう。

電卓や表計算ソフトが出てきた過去においても、単なる計算が得意という人の強みはなくなっていきました。字がきれいという人の強みもワープロの登場によって薄れていきました。しかし、ビジネスにおいて、富士山の体積をアバウトに推測できるような概算力を持つ人や、知らない文字でもきれいに書ける美的センスを持つ人は、AI時代においても活躍の場を失うことはないでしょう。

このビジネスシーンではどの程度の詳細な説明が求められるのか、その説明に使うための資料はどの程度、見た目にこだわるべきなのか、概算力や美的センスが必要になる場面は少なくありません。ChatGPTを使う場合でも、適切なプロンプト(入力文)が書けないと、回答結果もピント外れなものになってしまいます。

具体的な例として、自社のWebサイトのリニューアルを考えてみましょう。WebサイトのリニューアルはDXの取り組みのスタートとしてお勧めしたいテーマなのです。自社のWebサイトはまさに顧客向けにつくられるべきものであり、かつ会社全体に関係するものであるからです。

しかし、現実には、特定の部署や担当者が社内に相談することなく、社外のWeb制作会社に丸投げして作られたものが多いのが事情ではないでしょうか。誰もがホームページをさほど重要なものと考えていないからです。

自社のWebサイトを見る人はどんな人なのか、どのような目的で見に来るだろうかという問いに対する答えを真剣に考えなければ、どのような情報をどの程度の詳細さで発信すべきかという「概算力」も、用語や見た目などのデザインを考える「美的センス」も発揮することができません。
にもかかわらず、Webサイトができあがっているのは、Web制作会社やWebデザイナーがよくある構成、よくあるデザインという無難な選択(妥協?)をしているからなのです。

DXの取り組みテーマとして、自社Webサイトのリニューアルをあげても誰も反対しないでしょう。それははっきりとした当事者がいないからです。どこの部署も余計な仕事を増やしたがらないからです。しかし、Webサイトは顧客からも就職活動をする学生からもじっくり見られている重要な会社の顔のはずです。

社内の誰もがその重要性には気づいているが、明確な管轄部署が決まっていないWebサイトのリニューアルはDXのスモールスタートとして最適かもしれません。まずは、自社Webサイトは誰に向けて何をわかってもらうためのものなのか、そのためにはどのような情報をどのような形で提供すべきなのかという課題を将来視点で考えていくことがDXテーマとしてのWebサイトリニューアルを進めていく上での鍵となります。

その結果、ある「問い」にぶつかるかもしれません。自社Webサイトは「一つ」だけでよいのだろうか?顧客向けのWebサイトと就職活動をする学生向けのWebサイトとでは全く違うものになるのではないだろうか?

顧客は新規とリピート、お得意先様では分けるべきではないでしょうか。お得意先様向けには一社ごとに専用のWebサイトを用意すべきなのではないでしょうか。そこにはCRM(顧客関係管理)という大きなDXテーマが見えてくるはずなのです。

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