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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座39デジタルトランスフォーメーションの実践-ETLツールとデータプラットフォームによる社内外データ連携-

 DXの活動はSoE(System of Engagement:関係のためのシステム)、SoR(System of Records:記録のためのシステム)、SoI(System of Insight:分析のためのシステム)の三つから成ることは何度も説明してきました。DX事例としてよく紹介されるものとしてはEC電子商取引やCRM顧客関係管理などのSoEや、「2025年の崖」を避けるためのパッケージソフト活用やクラウド移行といったSoRが目にすることが多いように思います。
 
 部署の壁、企業の壁を越えた革新的な取り組みという意味においては、SoIこそDXの主役と言っても過言ではありません。今まで使っていなかった他部署や関係会社のデータが急に利用できるようになることを想像してみてください。そのデータが自部署の業務や自社の事業にとって関係があればあるほど、革新的なビジネス進化が起きる可能性が高まるはずです。
 
 しかし、実際には関連する部署や隣の社員が持つデータですら、利用していない/できないということが多いのです。その根本的な理由は、既存データの多くがそもそも共有することを前提として収集、利用されていないからです。
 
 データウェアハウスという言葉が世に出てきた1990年代に、多くの企業がこぞってデータウェアハウス製品を導入しましたが、あまり成果が出せなかった企業が少なくありませんでした。各部署が自部署のためだけを考えて収集・利用しているデータをそのまま共有してみても、他部署にとっては価値あるものにならなかったのです。
 
 コンピュータ性能の向上やデータ分析ツールの高度化など、1990年代とは比較にならないほどSoIを実現するためのデジタル環境はよくなっています。アマゾンAWSなど分散クラウドを利用したデータ分析では、ビッグデータと呼ばれる超巨大データを高速処理することも可能です。
 
 にもかかわらず、1990年代とあまり変わらない状況は残っています。SoIもまたSoE、SoRと同じで単にデジタルシフトしただけでは実現できません。データそのもののあり方を見直す「データトランスフォーメーション」の取り組みが不可欠だからです。
 
 データ活用の善し悪しによって企業競争力に差がついてしまう現代では、「データは資産」という考えに改めなければなりません。良質のデータを持つ企業はデータ分析によって先回りの経営が可能になり、AIをフル活用することによって、SoEもSoRも桁違いの効果を出すことができるようになります。
 
 DX先進企業ではさらに関連企業間でデータ共有することによって、サプライチェーン全体での競争優位を獲得しようとしています。大手企業の一部ではグループ企業間でデータ共有することによって、新事業の創出さえ実現してしまっています。
 
 それではSoIを実現するためには、何をすべきなのでしょうか。DXの原理原則から言えば、「今の仕事」をデジタル化するのではなく、「未来の仕事」をデジタル化しなければなりません。「未来の仕事」として何をすべきかのかがわからないまま、データ分析ツールを入れても意味がありません。
 
 「未来の仕事」として何をすべきかを考えるためには、問題意識を持った「今の仕事」をしている人が集まって、あるべき姿としての仕事の理想像を描かなくてはなりません。
前回取り上げたデジタルツインと同じように、先進的な他社事例から学ぶこともよいでしょう。
 
 次にやらないといけないことは、既存データの棚卸しと整理整とんです。言い換えるならば、データの地図づくりです。業務システムや電子メール、営業資料など構造データ、非構造データなど社内には驚くほどのデータが埋もれているはずです。Excelデータだけでも社内にいったいどれほどあるでしょうか?
 
 営業メモや商談記録といった非構造データと見積や注文データといった構造データを組み合わせれば受注予測や営業アドバイスができるAIシステムをつくれるかもしれません。
 
 データの在りかがわかったとしても、同じ意味を持つデータが部署や業務によって、データ名称や形式が違っているという問題がまだ残っているでしょう。全社横断、企業間連携を実現するためには共通のデータ辞書(データカタログ)をつくる必要があるのです。
相当の労力が必要となるSoIですが、まずは関連部署などスモールスタートから始めればよいでしょう。
 
 SoIに取り組む企業にとって、先進デジタル技術は大いに力になってくれるはずです。
社内外に散在するデータを活用しやすいように収集・加工するためのETLツール(Waha! Transformer、Reckoner等)や、社内外から集めてきた様々なデータを一元管理できるデータプラットフォーム(DatabricksやSnowflake等)が、SoI構築を後押ししてくれます。そして、BIツール(PowerBIやTableau等)の多くは、これらのデータプラットフォームに接続することができます。
 
 注文データや請求、納品データを取引関係にある企業同士がEDI(電子データ交換)によってデータ送受信するシステム形態は昔からありました、しかし、やはりこれでは既存部署の既存業務のためのデータ共有にすぎません。データプラットフォームを持つ企業であれば、RFDO(WebAPI)によって、いつでもどこでも誰とでも共有することによって、ビジネス革新さらには創造することをめざせるのです。

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