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やさしい物理講座v9「日常生活に見る慣性力(見かけの力)と転向力(コリオリ力)が作り出す台風の渦巻き」

毎年のように、夏になると台風の季節になります。
地上からは台風の渦巻きが分らない。しかし、衛星画像を見ると日本を襲来する台風はなんと「左巻き」です。
では、どうして左巻きの渦になるのでしょうか?さて今回はその疑問に迫ってみたい。

                   2021.11.10

                   さいたま市桜区栄和

                  理論物理研究者 田村 司

はじめに


その疑問を理解するには、「慣性の法則」を理解する必要があります。
「外から物体に力が働かない限り、静止している物体はいつまでも静止の状態を続け、運動している物体はいつまでも等速直線運動を続ける。」
簡単なようで当たり前のようですが、これを、実体験で考えてみましょう。

日常生活のバスでの慣性力の体験


1、 バスに乗りつり革を掴んでいるが、急発進すると貴方の体はどうなりますか?
体が目に見えない力で後方に引っ張られるようになりませんか。誰も引っ張っている訳でもなく「見かけの力」(慣性力)ーFで引っ張られるのです。どうして「見かけの力」が働いたのか?
それは、静止している体にバスの急発進した力が静止中の体に力を加えたのです。今回は外(バス)から物体(自分)に力が働いたため、静止している物体(自分)には、逆の力の作用(反作用)のように「見かけの力」ーFが働いたのです。言い換えると、作用・反作用の関係でもあるのです。 

バスの事例をイラストにしましたので合わせてご確認ください。下手なイラストです。ご容赦ください。          

 

バスのイラスト

画像2

2、 逆に、バスが急停車(急ブレーキ)した場合はどうなりますか? 体が後ろから押されたような「見かけの力」(慣性力)Fで前の方に押されたようになります。この場合は等速直線運動をしている物体(自分)にバスから減速させる力(急ブレーキ)-Fが働いたために「見かけの力」が働いたのです。


画像1



慣性力とはいつまでもそのままの運動を続ける力である。これが「見かけの力」の正体です。

数式:2mv・ωsinφ 

自転している地球上を直進する個体又は流体は見かけ上、北半球では直進方向に対して右にずれてゆくような運動の軌跡を描く。これを転向力(コリオリの力)といいます。
2mv・ωsinφ (物体質量m 運動の速さv 自転角速度ω 緯度φ)で表されます。
この数式では全然、イメージが湧きません。

フーコーの振り子

フーコーの振り子」をご存知でしょうか。
振動面の回転は緯度によって異なるのです。
北極の振り子は北極点を中心にして、一日一回転の速さで時計回りに回っていくように見えるのです。
中緯度(φ)の振り子は一日に360゜×sinφの速さで時計周りに回っていくように見えます。
⑶ 赤道上の振り子は常に地球の中心を通る面内で振動し、回転しない
このように振動面の回転は緯度によって異なります。いま緯度φで地球が一回転するうちに振り子の振動面360゜×sinφだけ回転する。振り子の振動面が1回転する周期Uは、自転周期を24時間とすると、U=24×1/sinφで表される。地球の自転が振り子の振動面に影響することがわかるかと思います。

これでは全然イメージが湧かないので、慣性の法則を例にして説明します。
今我々は地球上に立っていますが、地球の回転していることを体で感じますか。体は地球に止まっているように感じます。

緯度の自転の速度の見える化(可視化)

東京付近の緯度35°に位置しています。しかし、宇宙空間から見ると東京付近に立っている私は地軸を中心に緯度35゜の円運動をしています。
風が吹かない限り、地面と一緒に等速で運動しているように感じます。
次のように、別表にしてみました。

それぞれの緯度の自転の速度を「バス」に見立ててください。
赤道上から高緯度に移ると速度差があることが分かります。
緯度0゜上では秒速463mで移動しているのです。しかし、日頃は何も感じません。赤道から東京に瞬間移動したなら秒速83m(463-380)の見えない力(慣性力)として東方向に働きます。これが右方向にずれる原因です。逆に東京方面から赤道へ移動したときは西方向に働きます。これも進行方向から右方向にずれます。
このように緯度により自転の速度の差が慣性力になります。その緯度の間に強風が吹くと北半球は右方向に、南半球は左方向ずれるコリオリ力(転向力)という「見かけの力」(慣性力)となって作用するのが理由です。
下図の表にしました。

緯度ごとの自転速度の表

ω=(24×60×60) 赤道上の地球の円周(40,075,000m) 

            2πrcosφ/ ω=V   

                V=自転の速さ(m/s)

                              差  累計
緯度0゜ cosφ= 1.000  40,075,000m ÷86,400= 463m/s     0    0

緯度5゜ cosφ= 0.996  39,914,700m ÷86,400= 462m/s     -1   -1

緯度10゜ cosφ= 0.985  39,473,875m ÷86,400= 457m/s    -5   -6

緯度15゜ cosφ= 0.966  38,712,450m ÷86,400= 448m/s    -9   -15

緯度20゜ cosφ= 0.940  37,670,500m ÷86,400= 436m/s    -12   -27

緯度25゜ cosφ= 0.906  36,307,950m ÷86,400= 420m/s    -16   -43

緯度30゜ cosφ= 0.866  34,704,950m ÷86,400= 402m/s    -18   -61

緯度35゜ cosφ= 0.819  32,821,425m ÷86,400= 380m/s   -22   -83
(東京)
緯度40゜ cosφ= 0.766  30,697,450m ÷86,400= 355m/s    -25  -108

緯度45゜ cosφ= 0.707  28,333,025m ÷86,400= 328m/s    -27  -135

緯度50゜ cosφ= 0.643  25,768,225m ÷86,400= 298m/s    -30  -165

緯度ごとの速度を地球のような円形の図に加工して見える化した。

緯度ごとの自転速度の図


画像3


ⅴ(m/s)= 2πr・cosφ/ω
自転速度はcosφの変化に依拠しています。加速度は微分により算出できます。
(cosφ)´=-sinφ となります。
緯度φの加速度は減速する結果となります。これにより、北半球では赤道から北へ流れる風は慣性力の効果として進行方向の右方向へ、北から赤道への風も進行方向に向かって右方向へ進路がずれることになります。
そして、2mv・ωsinφ (物体質量m 運動の速さv 自転角速度ω 緯度φ)が導きだされます。


ここで疑問、右方向にずれるのになぜ左巻きの渦巻きになるかというと、低気圧に進む進路が台風の目に真っすぐに進まずに右方向にずれながら(コリオリ力:転向力)低気圧に向かうため左回りの渦巻きになるのです。

台風の恐怖に負けず、この蘊蓄(うんちく)で台風を観察してください。気象衛星画像ひまわり8号おw参考資料欄に掲載したのでご覧あれ!


参考資料


気象衛星画像 ひまわり8号で追った 台風5号 迷走から急発達

https://www.youtube.com/watch?v=T-39bZW8ARE





堀 源一郎著 『力学』放送大学 1993年3月 第1刷
奈須 紀幸 小尾 信彌著『地球と宇宙・地球編(改訂版)』放送大学 1993,3改訂版第2刷
斉藤 正彦著 『微分積分学Ⅰ』放送大学 1995.2 第2刷
小暮 陽三著『物理のしくみ』日本実業出版社 1994.10第8刷


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