見出し画像

時間とキログラムの定義の解説

  昔、吾輩の幼いころは寸法は尺、面積は坪、数量は升、重量は貫などを使っていた。戦後度量衡が変わったが、年配者は戦前の尺度を使う。日々切磋琢磨しないと時代の変化について行けなくなる。 

 表題の定義は現代人にとって、知るべき教養である。吾輩も知識の遅れが危惧されるので、再認識のため記述する。
 今回の特筆すべきことはキログラムの定義にプランク定数を新基準に採用したことです。

エネルギーに使われるプランク定数が何故「重量」に使われるのか?

「 定義」しても「計測」出来なければ、「計量」できない。
まさに、「論語読みの論語知らず」に如かず。これは、浅学菲才の吾輩が果敢に挑戦した軌跡である。
有料100円に部分に、「E=mc²」にも言及しております。


                                                                                                          2020.10.3
                                                                               埼玉県さいたま市桜区にて
                                                                               理論物理研究者 田村 司


目次
はじめに
1、時間の定義
2、キログラムの定義
3、時間の定義の解説
4、キログラムの定義の解説

はじめに
「時間の定義」を取り上げたのは、前回の『ミュオン(ミュー粒子)の寿命と仮説』と「時間の遅れ(time dilation)の錯誤』で「時間」について、定義の観点についての説明不足があるためです。
「キログラムの定義」に「プランク定数」が定義付けられたことについても解説が必要です。理解に悩んでいる者への助けになるなら、それが吾輩の幸せです。


1、 時間の定義

 国際単位系(SI)によると、長さ、質量、時間(秒)、電流、熱力学温度、物質量、光度などを定義している。

改正前の定義

 「時間の場合の定義は、「秒(second)は、133Cs原子の基底状態の2つの超微細準位(F=4、M=0、及びF=3,M=0)の遷移に対応する放射の9192631770周期の継続時間である。」と基準化されている。」

改正後の定義(2019.5.20改定。)

 「原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数を単位Hz(S⁻¹に等しい)で表したときその数値を9192631770と定めることによって定義される。」


2、 キログラムの定義

改正前の定義

 「国際キログラム原器」と呼ばれる「白金イリジウム合金製の分銅」が質量の基準

改正後の定義
「キログラム[kg]は質量の単位である。
その大きさは、単位 s-1·m2·kg(J·s に等しい)による表現で、プランク定数 h の数値を 6.62607015×10⁻³⁴と定めることによって定義される。」


3、時間の定義の解説

⑴ 用語解説

① セシュームについて
  原子番号は、55、元素記号は、“Cs”、原子量 132.90545。
  分類は、アルカリ金属、レアメタル。

  ラテン語の「青い空(caesius)」に由来する。
  ・発見経緯
  1860年、鉱泉水の炎色反応の調査により、
  既知のアルカリ金属化合物とは異なる2本の輝線スペクトルを発見。
  分光器により輝線スペクトルが青色であることを確認。
  (分光分析(炎光分析)で発見された最初の元素)
  ・利用例
  原子時計(133Cs)、
  放射線治療(137Cs)半減期 29.68年。(γ線源)、
  医療診断、
  衛星、全地球測位システム(GPS)など

  反応性は、アルカリ金属の中で最大で、空気中でも常温で酸化する。
  粉末状のものは自然発火する。
  水とも爆発的に反応して水素を発生し水酸化物を生成する。
  消防法では危険物指定されている。
  ルビジウムも原子時計として使われているが、
  セシウム原子時計は、30万年に1秒程度しか誤差が生じない。

  ・放射性物質なの?
  原発事故関連で話題となっているセシウムは放射性セシウムである。
  セシウム137(137Cs、半減期30年)と
  セシウム134(134Cs、半減期2.1年)などがある。 
  これらは摂取すると人体に影響がある。

  ・天然に存在するセシウム
  非放射性同位体セシウム133(133Cs)であり、放射能は無い。
  大量に摂取しない限り無害である。 
  

② 摂動(せつどう)


典力学や量子力学において,解の求められている運動をする系に,さらに別の比較的小さな力が作用してもとの運動をわずかに変化させるとき,その小さな力の影響をいう。摂動とは、運動などの厳密な解が得られる系に対し、小さい攪乱(かくらん)から生じたずれ(影響)をいう

③ 基底状態(きていじょうたい)

原子や原子核などを構成する粒子や場のシステム(系)、すなわち量子力学系のエネルギーはさまざまな値をとるが、このうちエネルギー値のいちばん低い状態をその力学系の基底状態という。

④ 励起状態(れいきじょうたい)

基底状態より高いエネルギーの状態を励起状態という。

⑤ 遷移(せんい)
物質がエネルギーを吸収して(あるいは放出して)状態が(基底状態から励起状態、又は励起状態から基底状態へ)変化することをいう。


⑵ 計測装置と原理

① 定義と原理の説明

・ある特定周波数の電磁波(マイクロ波)をセシウム(133Cs)原子に照射する
・基底状態のから励起状態(超微細構造の間)を遷移する
・超微細構造遷移周波数(固有な周波数=電磁波)を放射する。
・放射する電磁波の1回の振幅する時間の9,192,631,770倍を1秒と定義。

② 計測装置

「原子時計」というもので、正確な「秒」を得ている。前述の条件を具現化する機器で「真空・電子・電波などの技術を統合したハイテク機器」です。「100万年に一秒も狂わない」という正確さです。


以上が時間の定義に関する話題です。これからが有料となります。


 


4、キログラムの定義の解説

改正前の定義

 「国際キログラム原器」と呼ばれる「白金イリジウム合金製の分銅」が質量の基準

改正後の定義


キログラム (記号は kg) は質量のSI単位であり、プランク定数 ℎ を単位 J s (kg m2 s−1 に等しい)で表したときに、その数値を6.626 070 15×10⁻³⁴と定めることによって定義される。


⑴ 用語の解説

① プランク定数 ℎ

1900年にMax Planck博士が黒体からの熱放射を研究する過程で導入した物理定数。

その後光電効果として、光の粒子的な性質のエネルギーに使われる。

振動数ν、波長λの光線はエネルギーEと運動量P
E=ℎν 、P=ℎ/λ
このときの定数ℎは6.62607015×10⁻³⁴ Jsで、プランク定数と呼ばれる。

プランク定数は量子論における最も重要な基礎物理定数の一つであり、電子の質量と関連づけられる。このため、現行の1 kgをプランク定数によって表現することができる。

①-1 プランク定数の測定
(産総研 主な研究成果 2012年2月27日)
  自然界のシリコンには3種類の安定同位体(28Si、29Si、30Si)が存在するので、モル質量を決めるには同位体存在比を測定する必要がある。
 28Siだけを99.99 %まで濃縮した28Si単結晶を製作。
この28Si単結晶を用い、プランク定数を当時の世界最高精度3 × 10-8(1億分の3)で測定した
この測定精度は国際キログラム原器の長期安定性を凌ぐものであったが、
米国標準技術研究所(NIST)がキッブルバランス法で決定したプランク定数とは一致しなかった。

①-2 プランク定数の測定内容

 アボガドロ国際プロジェクトで制作した28Si単結晶から研磨された球体を用いた。
球体の質量と直径はそれぞれ約1 kgと約94 mmであり、
その質量と体積を精密に測定し、密度を決定した。
体積測定には産総研で開発したレーザー干渉計を用いた。
約2000方位から球体の直径を測定し、2×10-8の精度で球体体積を決定した。直径の測定精度は0.6 nmであり、ほぼ原子間距離(格子定数)に相当する。
直径測定は、産総研が開発したレーザー波長の精密制御技術と、球体温度の精密計測技術(精度6/10000 °C)によって実現した。
シリコン球体の質量は、超高精度な質量比較が可能な真空天びんを用いて、質量の国家計量標準である日本国キログラム原器と比較して測定した。

シリコン原子を数えてプランク定数を決定するには、シリコン原子だけからなる部分(シリコンコア)の質量と体積を決定する必要がある。

X線光電子分光法と分光エリプソメトリーによる球体表面分析システムを開発した。シリコン球体の回転機構を備え、球体の全表面を分析できる。
このシステムにより、球体表面層の組成を決定し、さらに球体表面層の厚さを0.1 nmの精度で測定した。シリコン球体の質量と体積の測定値をこの表面層分析結果で補正し、シリコンコアの質量と体積を決定した。

シリコン球体の表面層の組成を決定し、表面層の厚さを0.1 nmの世界最高の精度で測定できる。いずれの装置も球体回転機構を備え、球体全表面を分析できる。
 今回測定したシリコンコアの質量と体積を、この精度は、1 kgに換算すると24 µgであり、国際キログラム原器の質量安定性である50 µgを凌ぐ。


 ② アボガドロ数
 物質量 1 mol を構成する粒子(分子、原子、イオンなど)の個数を示す数である。国際単位系 (SI)における物理量の単位モル(mol)の定義に使用されており、その値は正確に 6.02214076×10²³ mol と定義されている 。
 2019年5月20日改定。

 アボガドロ数の値電気素量,α崩壊の測定,X線による結晶解析などにより求められる。


⑵ プランク定数は二通りの方法で測定方法
 ① キッブルバランス法
 ② X線結晶密度法。

産総研は、X線結晶密度法を用いた。

この方法では、シリコン単結晶の密度、モル質量、格子定数を測定し、シリコン単結晶に含まれる原子を数えてアボガドロ定数を測定する。


⑶ プランク定数を使った計量、計測方法

① プランク定数hと電子1個の質量m(e)との関係は
m(e)=2R∞h /(cα²)」で与えられる。

c:真空中の光速度
α:微細構造定数
R∞:リュードベリ定数 (R∞=m(e)cα²/(2ℎ)と表される )

②プランク定数とアボガドロ数の関係式

プランク定数hとアボガドロ数NAとの関係はNA=cMeα²/(2R∞h)
アボガドロ数の測定値から、ほぼ同じ精度でプランク定数を算出できる 


⑷  アボガドロ数を使った計量

① プランク定数から導出した電子の質量を基準として、「¹²C 」1個の質量を求めることができる。
さらに、キログラムを莫大な個数(5.018∙∙∙×10²⁵個)の「¹²C」の質量に等しい質量として表現できる。
つまり「¹²C」 の12gが1モル(6.02214076×10²³mol)とすると1000/12がその1kgの質量になります。

② 「¹²C 」との相対原子質量とアボガドロ数から計量

 電子と任意の核種、例えば¹²Cとの質量の比は高精度に分っている。
 Ù=m(¹²C)/12これは水素原子の一個当たりの質量に非常に近くなる。
このようにして、相対原子質量を求めることができる。

⑸ ハイゼンベルクの不確定性原理

① 位置の不確定さをΔ✕、運動量の不確定さΔPとすると
ΔX⋆ΔP=ℎ (ℎはプランク定数)

② エネルギーΔE、と時間Δtの不確かさ
ΔE⋆Δt=ℎ (ℎはプランク定数)


従来は「誤差」と呼ばれていたが、最近では「不確かさ」が正式な用語となりつつある。 


⑹ 重力質量と慣性質量の計量

 ① 重力質量は地球の同一地点で働く重力と標準物体(キログラム原器)の比較の値でこれを計量するのに天秤が使われる。無重力の空間ではこれが使えない。

 ② 慣性質量は同じ大きさの力が働いたときにある物体が得られる加速度の大きさと標準物体が得る加速度の大きさとの逆比の値で定義された質量で、物体がもつ慣性の大きさを表します。
ニュートン運動方程式:F(力)=m(質量)×ℊ(加速度)から
ℊ(加速度)=F(力)/m(質量)とすると、質量mは「慣性力」の大きさを示している。すなわち、力Fが同じであるとすると質量が大きい程、加速度ℊが小さい、つまり速度が変化しにくいとこを表しています。
ニュートン力学では質量が「一定の値」を持つと考えられている。
重力質量は重力ℊが加速ℊと同等である。


 ③ アインシュタインの主張する「E=mc²」で計量。

ここから先は

902字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?