見出し画像

やさしい物理講座v18「『オームの法則』には温度の条件も考慮が必要」

中学・高校の学習レベルの「オームの法則」について今回はテーマとする。大学での授業で、科学は実証実験が必要であることを実感した。実験で新しい発見というか、再認識させられた事例として「オームの法則」における温度の重要性と留意点を簡単に解説する。

                2021.11.24

                さいたま市桜区

                理論物理研究者 田村 司

はじめに


導体に流れる電流の大きさⅠ  と導体に加えた電圧 Vは比例する。このことをオームの法則という。中学理科でも高校物理でも登場するが、もちろん内容は同じ。比例係数を として式で表すと

 V(電圧)=R(抵抗:比例係数)×Ⅰ(電流)

と表せて、この比例係数 R抵抗と呼ぶ。同じ電圧V  に対し、R が大きいほど流れる電流 は小さくなるので、R の大きさは電流の流れにくさを表していることがわかる。

V(電圧)=R(抵抗:比例係数)×Ⅰ(電流)これをⅠの式とRの式に変形すると次のようになる。

Ⅰ(電流)=V(電圧)/R(抵抗:比例係数)

R(抵抗:比例係数)=V(電圧)/Ⅰ(電流)

この関係の逆を考えると、流れる電流が電位差Vに比例する、と表現することができる。これを数式で表せば

I =GV

となる。このときの比例係数 G = R⁻¹つまり、比例係数の逆数が電気伝導度(conductance)、あるいはコンダクタンスと呼ばれる。

電流の単位にアンペア(記号:〔A〕)を、電位差の単位にボルト(記号:〔V〕)を用いたときの電気抵抗の単位はオーム(記号:〔Ω〕)が用いられる。また、コンダクタンスの単位はジーメンス(記号:〔S〕)でオームΩの逆数を意味する


本題

(オームの法則の比例係数は温度などで定まる)

オームの法則は、電気回路の2点間の電位差が、その2点間に流れる電流に比例することを主張する。 電流が I で電位差が V であるとき

   V(電位差)=R(抵抗:比例係数)×Ⅰ(電流)となる。

比例係数 R 導体の材質、形状、温度などによって定まり、電気抵抗(electric resistance)あるいは単に抵抗(resistance)と呼ばれる。

温度による電気抵抗の比率

次の図は導体(銅と白金)の温度による電気抵抗の比率を表したものである。机上の空論ではなく、実証実験で起こることは、電流が流れ⇒発熱をして⇒温度が上がる⇒電気抵抗が上がる⇒電流が減少する⇒それでも発熱する⇒温度が上がる⇒電気抵抗が上がる⇒電流が減少する⇒それでも発熱する⇒温度が上がる⇒・・・このような循環が繰り返される。

画像1

出典:小暮 陽三 著『物理のしくみ』日本実業出版社 p112

各物質の0℃における抵抗率  (Ω・m)

アルミ二―ム     5.5×10⁻⁸

銀          1.47×10⁻⁸

タングステン     4.9×10⁻⁸

銅          1.55×10⁻⁸

二クロム       107.3×10⁻⁸

以上から分かることはニクロムの抵抗率は銅のほぼ70倍である。銅線がコードに使われニクロム線が電熱器に使われるのはこのような低効率の違いによる。そして、電流により、温度の上昇で抵抗率が上昇していくのである。

サーミスタ温度計の仕組み

抵抗温度計は、以上のような抵抗の温度変化を利用する。

サーミスタ温度計も電気抵抗の変化を利用して温度を知る点は同じであるが、サーミスタは金属とは反対に、温度が上がると抵抗が急速に減少する。

温度が上がると電気を伝える電子の数が急激に増え、図3のように電子が原子から原子へぴょんぴょんとはねて進む。これをホッピングといい、電気が伝わり安くすることになる。

マンガン・ニッケル・コバルト・クロムなどの酸化物粉末を高温で焼き固めてサーミスタをつくる。

画像2

出典:小暮 陽三 著『物理のしくみ』日本実業出版社 p112


日常生活での電気消費の愚行

節電のために「短絡的」にこまめに電源を切る行為が電力の消費の無駄遣いになると言われている理由は上記図2「抵抗の温度変化」でもわかる通り、抵抗が低いために大量の電流が流れることになる。電源を入れたときに大量の電気を消費することになるのである。「短絡的」という言葉があるが、「短絡」とは「ショート」を意味している。スイッチを入れたときはまさに「短絡(ショート)」に近い現象(多少は抵抗がある)が起こしているのである。

短絡とは


短絡とは、電気が流れている導体同士が接触し、負荷抵抗が電線抵抗のみになった状態である。100V回路でいえば白線と黒線が接触した状態であり、「ショート」とも呼ばれている。

回路が短絡状態になった場合、その回路には「電線長さ分の抵抗」しかない。諸所の影響を無視した単純な考え方であるが、VVFケーブルの1.6mmのkmあたり抵抗値は約9Ωであり、100m(0.1km)敷設した場合の回路抵抗は0.9Ωである。

この電線路の末端を短絡して100Vの電圧を印加した場合、約111Aの電流が流れ負荷が接続されていなければ、電線本体の抵抗が熱に変換される。

銅線に短時間電流が流れた場合の温度上昇式 θ = 0.008 ( I / A )^2 ×t で1秒毎の温度上昇を計算する。

θ = 0.008 ( 111A / 2[mm2] )^2 × 1[sec] = 24.6℃
上記の計算のように、1秒毎に25℃弱の温度上昇が発生することになる。電線からは一定速度で放熱するが、発熱量の方が多ければ温度は上昇することになり、3~4秒もすれば電線音頭は100℃を超え被覆が溶融し発火につながる。

このように、電路が短絡状態となる極めて大きな熱量が電線全体から発生し、電線を被覆しているビニルやポリエチレンが加熱され溶けてしまう。さらに内部の銅線も発熱によって損傷することになるため、短絡が発生した場合即時電路を遮断し、保護しなければならない。


To be continued .  See you later !




参考文献


小暮 陽三 著『物理のしくみ』日本実業出版社 1994.10.15 8刷発行


ここから先は

63字
この記事のみ ¥ 100
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?