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やさしい物理講座v10「地球の重力による落下(運動)現象は無重力状態を作り出す」


イプシロン5号のロケット発射されました。そこで、予備知識として「重力」について若干論じる。地球の重力を振り切り宇宙空間まで到達するための計算は大変なことと察します。量子力学からみると古典力学と称されますが、ニュートン力学も侮れない世界である。今回は重力とキログラム (記号は kg) は質量について論じる。

                  2021.11.11

                  さいたま市桜区

                  理論物理研究者 田村 司

はじめに

無重力状態の体験のために、頭の体操として簡単な問題を解く。

東京スカイツリー(634m)からエレベータの箱を落下させたら,何秒後に地面に落ちるか。ただし、緯度などの細かい重力(万有引力と遠心力)は考えず、しかも、空気抵抗は考えないこととする。そのエレベータの箱に乗ると無重力状態の経験ができる。

回答   方程式 S=1/2gt² のtを求めます。(微分・積分でも式は同じになります。)

重力加速度g=9.80665m/s²,と高さS=634m,を代入します。解は t=11.37

エレベータの過去に入ったら、11.37秒間の無重力状態の体験ができる。しかし、地面に落ちて即死になる。

宇宙空間でのロケットの運動についても考察しました。第1宇宙速度(7.9×10³m/s)つまり地球に落ちない速度(人工衛星)で人工衛星に乗った人は実は、遠心力と重力の合力が0ないし0と看做し得るのとき無重力状態を体験できるのである。重力の影響を受けて落下しているが遠心力で均衡をとっているのである。

人工衛星の釣り合い状態

地球では、ある物体をロケットに載せて第一宇宙速度(理論上、海抜0 mでは約 7.9 km/s = 28,400 km/h)に加速させることで、地球の重力と重力から脱出しようとする遠心力とが釣り合い、その物体は地球周回軌道を回り続ける人工衛星となる。

低軌道 (LEO) - 高度2,000km以下の地球周回軌道。国際宇宙ステーションなどはこの軌道に存在する。
中軌道 (MEO) - 高度2,000kmから地球同期軌道(35,786km)までの地球周回軌道。
高軌道 (HEO) - 地球同期軌道より外の地球周回軌道。


地球上の重力とは


重力とは、地球上の物体が地球から受ける引力で、物体の重さの原因となっている力。地球の万有引力と地球自転による遠心力との合力である。遠心力には慣性力が働く。つまりベクトルで表すことのできる加速度が働く。加速度の働く慣性力は重力と同じ作用が働く。故に、その両者の合計が地球の重力となる。地球の重力=万有引力+慣性力(遠心力)

万有引力と運動方程式で導きだされるものに次のものがあります。

第1宇宙速度(7.9×10³m/s)・・・地球に落ちない速度(人工衛星

第2宇宙速度(11.2×10³m/s)・・・地球の重力を振り切る速度(地球から脱出

第3宇宙速度(16.7×10³m/s)・・・太陽系外に出るための速度(太陽から脱出

注目すべきは第3宇宙速度において,は燃料を使わず,スイングバイという天体の万有引力と公転運動を利用して加速させる(万有引力の法則)方法を使っています。


宇宙と地球の境界線はどこか?それは、「カーマン・ライン(100㎞)」と言われている。そのイメージ図が下図である。

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出典元:[宇宙の姿-1]宇宙と地球の境界線(カーマン・ライン)参考資料


諸君は話題はキログラムの定義が変わったことはご存知か?

プランク定数と重量

今回の特筆すべきことはキログラムの定義にプランク定数を新基準に採用したことです。エネルギーに使われるプランク定数が何故「重量」に使われるのか? 以下は分かり難いのでさらりとお読み下さい。

キログラムの定義の解説

改正前の定義

 「国際キログラム原器」と呼ばれる「白金イリジウム合金製の分銅」が質量の基準

改正後の定義(2019年5月20日)


キログラム (記号は kg) は質量のSI単位であり、プランク定数 ℎ を単位 J s (kg m2 s−1 に等しい)で表したときに、その数値を6.626 070 15×10⁻³⁴と定めることによって定義される。

新しい定義においてプランク定数はSIを定義する定義定数として位置付けられ、SI単位による値は実験的に決定される測定値ではなく、固定された定義値となった。 プランク定数(h = 6.62607015×10−34 J s)とともに値が固定された定数である光速度 c、及びセシウム133の超微細遷移周波数 ΔνCs とを組み合わせることで、キログラムが導かれるという仕組みになっている。


⑴ 用語の解説

① プランク定数 ℎ

1900年にMax Planck博士が黒体からの熱放射を研究する過程で導入した物理定数。

その後光電効果として、光の粒子的な性質のエネルギーに使われる。

振動数ν、波長λの光線はエネルギーEと運動量P
E=ℎν 、P=ℎ/λ

このときの定数ℎは6.62607015×10⁻³⁴ Jsで、プランク定数と呼ばれる。

プランク定数は量子論における最も重要な基礎物理定数の一つであり、電子の質量と関連づけられる。このため、現行の1 kgをプランク定数によって表現することができる。

①-1 プランク定数の測定
(産総研 主な研究成果 2012年2月27日)
  自然界のシリコンには3種類の安定同位体(28Si、29Si、30Si)が存在するので、モル質量を決めるには同位体存在比を測定する必要がある。
 28Siだけを99.99 %まで濃縮した28Si単結晶を製作。
この28Si単結晶を用い、プランク定数を当時の世界最高精度3 × 10-8(1億分の3)で測定した
この測定精度は国際キログラム原器の長期安定性を凌ぐものであったが、
米国標準技術研究所(NIST)がキッブルバランス法で決定したプランク定数とは一致しなかった。

①-2 プランク定数の測定内容

 アボガドロ国際プロジェクトで制作した28Si単結晶から研磨された球体を用いた。
球体の質量と直径はそれぞれ約1 kgと約94 mmであり、
その質量と体積を精密に測定し、密度を決定した。
体積測定には産総研で開発したレーザー干渉計を用いた。
約2000方位から球体の直径を測定し、2×10-8の精度で球体体積を決定した。直径の測定精度は0.6 nmであり、ほぼ原子間距離(格子定数)に相当する。
直径測定は、産総研が開発したレーザー波長の精密制御技術と、球体温度の精密計測技術(精度6/10000 °C)によって実現した。
シリコン球体の質量は、超高精度な質量比較が可能な真空天びんを用いて、質量の国家計量標準である日本国キログラム原器と比較して測定した。

シリコン原子数えプランク定数を決定するには、シリコン原子だけからなる部分(シリコンコア)の質量と体積を決定する必要がある。

X線光電子分光法と分光エリプソメトリーによる球体表面分析システムを開発した。シリコン球体の回転機構を備え、球体の全表面を分析できる。
このシステムにより、球体表面層の組成を決定し、さらに球体表面層の厚さを0.1 nmの精度で測定した。シリコン球体の質量と体積の測定値をこの表面層分析結果で補正し、シリコンコアの質量と体積を決定した。

シリコン球体の表面層の組成を決定し、表面層の厚さを0.1 nmの世界最高の精度で測定できる。いずれの装置も球体回転機構を備え、球体全表面を分析できる。
 今回測定したシリコンコアの質量と体積を、この精度は、1 kgに換算すると24 µgであり国際キログラム原器の質量安定性である50 µgを凌ぐ


 ② アボガドロ数
 物質量 1 mol を構成する粒子(分子、原子、イオンなど)の個数を示す数である。国際単位系 (SI)における物理量の単位モル(mol)の定義に使用されており、その値は正確に 6.02214076×10²³ mol と定義されている 。
 2019年5月20日改定。

 アボガドロ数の値は電気素量,α崩壊の測定,X線による結晶解析などにより求められる。


⑵ プランク定数は二通りの方法で測定方法
 ① キッブルバランス法
 ② X線結晶密度法。
産総研は、X線結晶密度法を用いた。

この方法では、シリコン単結晶の密度、モル質量、格子定数を測定し、シリコン単結晶に含まれる原子を数えてアボガドロ定数を測定する。


⑶ プランク定数を使った計量、計測方法

① プランク定数hと電子1個の質量m(e)との関係
「m(e)=2R∞h /(cα²)」で与えられる。

c:真空中の光速度
α:微細構造定数
R∞:リュードベリ定数 (R∞=m(e)cα²/(2ℎ)と表される )

プランク定数とアボガドロ数の関係式

プランク定数hとアボガドロ数NAとの関係はNA=cMeα²/(2R∞h)
アボガドロ数の測定値から、ほぼ同じ精度でプランク定数を算出できる 


⑷  アボガドロ数を使った計量

① プランク定数から導出した電子の質量を基準として、「¹²C 1個の質量を求めることができる。
さらに、キログラムを莫大な個数(5.018∙∙∙×10²⁵個)の「¹²C」の質量に等しい質量として表現できる。
つまり「¹²C」 の12gが1モル(6.02214076×10²³mol)とすると1000/12がその1kgの質量になります。

② 「¹²C 」との相対原子質量とアボガドロ数から計量

 電子と任意の核種、例えば¹²Cとの質量の比は高精度に分っている。
 Ù=m(¹²C)/12これは水素原子の一個当たりの質量に非常に近くなる。
このようにして、相対原子質量を求めることができる。

⑸ ハイゼンベルクの不確定性原理

① 位置の不確定さをΔ✕、運動量の不確定さΔPとすると
ΔX⋆ΔP=ℎ (ℎはプランク定数)

② エネルギーΔE、と時間Δtの不確かさ
ΔE⋆Δt=ℎ (ℎはプランク定数)


従来は「誤差」と呼ばれていたが、最近では「不確かさ」が正式な用語となりつつある。 


⑹ 重力質量慣性質量の計量

 ① 重力質量は地球の同一地点で働く重力と標準物体(キログラム原器)の比較の値でこれを計量するのに天秤が使われる。無重力の空間ではこれが使えない。

 ② 慣性質量は同じ大きさの力が働いたときにある物体が得られる加速度の大きさと標準物体が得る加速度の大きさとの逆比の値で定義された質量で、物体がもつ慣性の大きさを表します。
ニュートン運動方程式:F(力)=m(質量)×ℊ(加速度)から
ℊ(加速度)=F(力)/m(質量)とすると、質量mは「慣性力」の大きさを示している。すなわち、力Fが同じであるとすると質量が大きい程、加速度ℊが小さい、つまり速度が変化しにくいとこを表しています。
ニュートン力学では質量が「一定の値」を持つと考えられている。
重力質量は重力ℊが加速ℊと同等である。


 ③ アインシュタインの主張する「E=mc²」で計量。


振動数(光子・電磁波の周波数)ν、波長λ、物体の静止質量mの光線は
エネルギーEと運動量Pは
 E=ℎν 
 P=ℎ/λ となる。
 E=mc²=ℎν の式が成り立つ 。
 ν=mc²/ℎ となる。
 m=1kgを代入する。
1kgの質量は周波数(c²/ℎ)ヘルツの光子のエネルギーと等価な質量と定義することになる。 

補足説明
アインシュタインは相対論とは別に提唱したもの。
光子(光量子)一つは次のエネルギーEと運動量Pを持っている。
E=ℎν=Pc
P=ℎν/c
電磁波にも仮想の質量mを考え
P=mc
E=mc²
m=E/c²
これを拡張解釈して、電磁波エネルギーEの放出は、Eをc²で除した値に相当する質量欠損をきたすと考えればよい。

なお、著者の吾輩としては、「E=mc²」については検証性に疑義を持っているので申し添える。

光子(素粒子)は質量0であるので電磁波を仮想粒子(素粒子)の質量mは「0」と定義されるので数式は無意味であろう。


参考資料(文献)

阪上孝・後藤武 編著 『はかる科学』中公新書 2007.10.25発行
p26~54

小暮 陽三 著『物理のしくみ』日本実業出版社 1994.10.15 8刷発行
p132

後藤学著『相対性理論のどこがおかしいか』p324~326「相対論はやはり間違っていた」徳間書店 1995.5.10 
巻末資料2 A・Einstein 『 E=Mc²に関する論文 』p18~20

原 康夫著『量子力学』岩波書店 1994.6.6 1刷発行 p3~5

伊藤幸夫・寒川陽美著『単位の基本と仕組み 国際単位系(SI)』秀和システム 2004.8.10 第一版1刷 p62~、p104


国際単位研究会著『SI単位ポケットブック』日刊工業新聞社 2003.6.26 2版1刷

今井秀孝監修『計量の本』日刊工業新聞社 2007.11.30 1版1刷 p134 

中井多喜雄著『早わかりSI単位辞典』技報堂出版 2003.9.1 1版1刷発行

山内薫著『分子構造の決定』岩波書店 2003.10.10 3刷発行 p6~15


吉田伸夫著『素粒子はなぜわかりにくいのか』技術評論社 2014.1.10 初版1刷 p129~158 摂動法

ジム・アル・カリーリ著 林田陽子訳『見て楽しむ量子物理学の世界』日経BP社 2008.9.29 1版1刷





参考資料

イプシロンロケット5号機、打ち上げ成功


出典元:[宇宙の姿-1]宇宙と地球の境界線(カーマン・ライン)

https://www.neomag.jp/mailmagazines/topics/letter201709.html

-人工衛星の基礎知識

http://www.yac-j.com/labo/list/pdf/2.Satellite/2-2.pdf

人工衛星
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F


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