見出し画像

【空想】リトの世界

<主題歌>

ここはどこ
きみはだれなのか
かんがえて
つかれたきみに
いつまでも
はなれないからと
つげたのはいつのひだっただろう
ふりかえりきがつく
きみはもう
おとなになってしまったのだね

ここはどこ
きみのなまえはリト
何度でもなまえを呼ぶよと
ぼくはちかったのに
もう過去だね
太陽はめぐるよきみの世界

あらすじ(約2500字)

ここは雲の国と呼ばれる、空に浮かぶ大陸。厚い雲に覆われていていつも天気は曇りの大地。
その中央部に存在する広大な平原には、ブレーン要塞という城が一軒のみ、緑の中にぽつんと建っている。ブレーン要塞はこの国の脳。王ウルビの住処でもあり、内部の研究室では何人もの研究者が集まって、王の指導のもと、天候を操る装置を開発している。研究の目的は、いつもこの国を覆っているこの分厚い雲を蹴散らし、天気を晴れにすること。本来、この国が雲に覆われる以前の言い伝えによると、この国の空の色は、朝はとても淡いピンク、昼は山吹色、夜は群青色になる。とても美しい天候なのだという。「その空を見てみたい」というのは雲の国の人々皆の願いであった。国民や人々は、城で開発中の雲を散らす装置で、晴れの天気を取り戻すことに関心を向けていた。

そもそも、雲に覆われるきっかけは何だったのか。

リトは、王ウルビの娘で、雲の国の齢十三の姫である。父と弟と一緒にブレーン要塞に住んでいた。父ウルビはこの研究に、リトの弟のバルの体を使用することを決めた。雲を散らすための、巨大な扇風機のかなめの歯車には人間の体をはめ込むための型があり、そこにどうしても人間の体が一つ必要だった。それがないと、雲まで風が届かないというのだ。その型は小さくて、七歳の息子バルが最適だと王ウルビは判断した。リトは、この王の決定に反抗した。すると怒ったウルビは、開発中の扇風機による暴風を娘に向け、娘を遠くのほうへ飛ばしてしまった。
リトは目覚めるとどこか知らない鬱蒼とした森の中にいた。森に落ちた際、頭を強く打ったのか、自分のこともほとんどわからない状態だった。リトは森の中をさまよい歩いた。ようやくどうにか森を抜けたところで、何頭もの羊を連れて旅をしている羊飼いの少年サーニと出会った。
サーニは言った。
「ずっと曇りだから、羊に食べさせる草がなかなか育たなくて、羊飼いの仲間のほとんどは辞めちゃったよ。いまはぼくくらいしかいないのではないかな。ぼくたち、空には雲があるのが当たり前だと思ってきたけど、昔はそうじゃなかったんだってね。日光も雨もあって、草木や花も育つ国だったんだってね。そんな世界になったらいいのになあ」
彼と話をしていて、リトは自分のことを思い出した。
「雲……曇り……晴れ……ああ、聞いたことがあるわ……思い出した、わたし、名前はリト。この国の天気を晴れにする研究をしている王さまの娘だったのよ!」
「ええ! そうだったのかい? 確かにいい服を着ているなとは思った」
「助けて、サーニ。このままじゃ、わたしの弟が犠牲になっちゃう。雲をどける装置の一部に弟が使われちゃう」
リトは城で起こっていることを説明した。
「そうか、じゃあ、曇りのままのほうがだれも犠牲にならなくて済むのかな……」
「いや、天気は晴れにしたいわ! だってこの国の朝と昼と夜は、本来とっても美しかったっていうじゃない? バルを使わないで天気を晴れにする方法を見つければいいのよ、わたしが!」
「どうやって雲をどけるの?」
「それをいまから考えるのよ!」

〜雲の物語〜
昔、空の大地が生まれたばかりで、住む人もまだ少なかった頃、空の大地に一人の女神が住んでいた。空の大地の女神は、眼下に広がる地上の世界を天上から眺めるのがすきであった。
ある日、いつものように地上を空から眺めていると、地の大地の男の神も、同じようにこちらを見上げているのに気がついた。次の日もその次の日も、毎日毎日その男の神はこちらをじっと見つめていた。空の大地の女神は、だんだんこの男をすきになったが、同時に、恥ずかしくもなった。恥ずかしさのあまり、空の大地の女神は「そんなにわたしを見ないでほしい」と、大陸ごと厚い雲の中に隠れるようになった。こうしてこの大陸は雲に覆われた。地上からこの大陸は見えなくなり、やがてだれもが、この大陸のことを忘れ去った。それと同時に、雲の国の人々は晴天を忘れ去った。

という内容を、リトとサーニは図書館の文献を読んで知った。
サーニ「だったら、女神に『もう男の神はこちらを見ていません』と伝えたらいいんじゃない? 雲に隠れなくてももう大丈夫だと伝えたら」
リト「でもどうやって女神に伝えるの? その神さまたちの話って、何百年も前のことでしょう? 女神ってまだいまの時代にもいらっしゃるの?」
サーニ「雲の国には女神の祀られた神殿がある。旅の途中に通ったよ。あの神殿に行ってみよう。祈れば、きっと願いは聞き入れられるはずだよ」

二人は図書館を出て神殿へ行き、女神に祈った。
「雲を纏うのをやめてください、もう大丈夫ですから。地上からはだれもあなたを見ていませんから」
外から光が漏れてきた。リトとサーニは見上げて驚いた。何をしても退かなかったあの厚い雲が、なんと女神に祈っただけで晴れてしまったのだ。空の色は、山吹色だった。

そして二人はブレーン要塞へ向かった。ウルビや研究者たちは、要塞の外に出て、初めて晴天となった大きな空を眺めながら口々に驚きの言葉を発していた。そこへリトとサーニが来ると、二人は経緯を説明し、ウルビは自分よりも先に天気を晴れにすることを叶えた自慢の娘を抱きしめた。そして、自らの手で犠牲にするところだった息子にも謝罪した。
「リト、バル、すまなかったな。私はやりかたを間違えていたようだ」
こうして雲の国は晴れの天気を取り戻し、弟のバルも救われた。空の色は山吹色からだんだんと群青色に変わり、いままで知らなかった星空になろうとしていた。

     ◇

それから一年後。地上から丸見えになった雲の国は、地上の軍隊によって兵器を持って攻め入られた。地上の国はそういう国だった。そう、あの男の神は、雲の国を侵略したいと思って見上げていたのだ。ブレーン要塞は事実上の要塞となり、とうとうブレーン要塞が陥落したことを以ってこの雲の国は完全に占領された。「姫のせいだ! リトのせいだ!」侵略者の奴隷となった雲の国の人々は叫んだ。でもたった一人だけは、最後までリトの味方でいた。その一人は、サーニだった。
けれど結局、サーニはリトの自殺を止めることができなかった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?