見出し画像

Think Global, Act Local, 2024.


ナッジ理論とゴミ捨て場

僕の住んでいるマンションには24時間ゴミ出し可能なゴミ捨て場がある。ただごみ収集は週に二回で、その前日になるとゴミ捨て場が結構ごみであふれた感じになる。最近は、そうなるとエレベーターホール寄りの入り口前がふさがったりもする。ゴミが増えてきたのだな。そう思ってた。

昨年の終わり頃、マンションの管理人が週の前後半で二交代制になった。新しい管理人はゴミ捨て場の整頓に意欲的な人だった。居住者がバラバラな大きさの袋で出したゴミが、毎日大き目の統一サイズのごみ袋にまとめて、脇に置くから詰めておかれるようになった。すると、居住者の出すゴミも通路わきに置かれる。ごみ収集前日のごみ捨て場風景が変わった。ただし、新しい管理人が務める週の後半だけ。

週の前後半(≒管理人のごみ整頓有無)でかわるゴミ捨て場風景

そして年末年始が来る。管理人がお休みし、ゴミ収集の間隔も空く大型連休。またすごいことになるんだよなと思ってたけど、ふと思いついた。もし、僕がちょっとだけ整頓をしたらどうなるだろう?ちょっとだけ。一日一回ごみを捨てに行ったとき、通路をふさぎそうなごみをつま先でちょっと脇に押してやるだけ。本当に管理人の仕事には及ばない、ささやかな程度の。

それをしてみた。1月2日の朝、大みそかと正月の盛大な(そしてごみを生む)食事の時期を超えて、ゴミ捨て場はまだ通路を残してそれほど散らかった感じはなかった。1月3日の午後、まだ通路がかろうじて残っていた。1月4日には管理人が出勤し、さすがの整頓風景を見せてくれた。そこまで、ゴミ捨て場は秩序をなんとかキープしたわけだ。僕が動かしたゴミは、たぶん10袋に満たない。あとは、みんながきれいにゴミ捨て場を使ったのだ。

2024年正月のごみ捨て場風景、通路がふさがることはなかった

新しい管理人が来てからのごみ捨て場で思ったのは、割れ窓理論のことだった。1枚の割られた窓ガラスをそのままにしていると、さらに割られる窓ガラスが増え、いずれ街全体が荒廃してしまうという。あるいはナッジ理論のことだった。小さなきっかけで人々の意思決定に影響を与え、行動の変化を促すという。割られたままの窓ガラスとか、逆に整頓されたごみ袋というのが、小さなきっかけとなってみんなの行動を変えてるかも、と。

だから、僕もほんのちょっとだけゴミを脇に押しのけて、通路がふさがらないようにしてみた。それだけで、ゴミ捨て場には例年通りの大量のごみが持ち込まれたけど、今年は最後まできれいに使われた。2023年最後の僕のささやかな実験は、こんな感じで終わった。

Think Global, Act Local.

僕は入社直後が基幹業務アプリケーション(ERP)のSI、その次が企業向けSNSアプリケーションに携わることになった。この組み合わせは、いまで言うバイモーダル、SoRとSoE、守りのITと攻めのITだ。それを社内やお客様に進めようと思えば、生産管理と在庫管理を中心とした管理経営とイノベーションを中心とした知識経営の両方、あるいは知の深化と知の探索の両利きの経営みたいなこともかじることになった。

ナッジ理論とか割れ窓理論なども、知識経営寄りの理論として読み覚えたものだ。このあたりのグローバルな考え方は、だから仕事柄学ぶことになったともいえるけど、そうでなくても話として面白く刺激的なのだ。だから必要以上にいろんな本で独学した。Think Global。でも僕はマネジメントから距離を置いた仕事をしてきたから、実践とは縁遠い。

そう思ってきたけど、実はそうでもないみたいだ。ゴミ捨て場でのささやかな実験のように、探してみれば思ったより身の回りに実践の機会が見つかる。

2023年は、モダナイズとかクラウドインフラと言って回るところから距離を置いた。代わりに、社内でコードによるインフラ構築(IaC)の業務を作った。その業務の提供と拡充体制を、オンプレで手作業構築してきたOSやDBなどの担当同僚たちとのワーキンググループの形にして、そこでAWSとIaCのハンズオンなどによりスキル展開した。拡充、つまりIaCのコード開発は週一日活動×12週=12日分の活動を1スプリントとするなんちゃってスクラムで回し始めた。

その一方で、AWS担当としてクラウドが絡むようなシステム構成から人材育成までのいろんな検討に呼んでもらえて、そこにモダナイズのエッセンスをそっと混ぜ込んできた。スキル調査?調査結果がお客様に紹介しやすい項目にフォーカスするとよさそうですね(カスタマーオブセッション)。原価低減?そのままクラウドリフトするとコスト上昇しがちですが、まずビジネスロジックとの結合度が低い運用監視ソフトなどから部分的に置き換えていくといいですよ(クラウドシフト、持たないIT)。そんな感じ。

グローバル視点の考え方は大事だけど、グローバルと僕の職場や僕らの案件は、ちょっとスタート地点もゴール設定も違う。だからそれをどうやったら業務で使えるかなと、半径3メートルの世界で試行と使用の機会を探したり場を作ったりする。Act Local。生活の場(たとえばゴミ捨て場での実験)だけでなく、仕事の場でもそちらに軸足を移してきた一年だったと、振り返ってみて思う。

実験と実践をしたい2024年

僕の所属するOKIは昨年CCoEを発足させ、クラウドやモダン開発は、体系的な社外研修を活用して学ぶ体制になってきてる。だから教科書的な話をすることは、僕のミッションNo.1ではなくなってきてるのだと思う。その意義はもう社内で共有されてるし、僕が学んできたことをこれからはみんなが学んでいく。

ずっと研修なども提供していて気になっていたことは、みんなが研修から職場に返ると、学んだことはどこかにしまい込まれてこれまで通りの仕事の進め方に戻りがちなことだった。そうなるのも分かる。だってローカルとグローバルのギャップが大きすぎて、接点が見つからない。だから研修などは手放せる段階に来た僕がすべきことは、そうした新しいグローバルスタンダードを、僕たちがいまいる組織や案件の中でどう使うか、それを見つけたり糸口をつけることかなと思ってる。

新しい年と新しい年齢を迎えて、今年はもっとAct Localしていきたい。振り返ってみればじゃなくて、意識的にAct Localしていきたい。身の回りのあちこちで、多くに提案するよりも一人一人と実践して、小さくだけどあちこちでその場を変えていきたい。そんな感じでがんばりたいと思いますので、今年もよろしくお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?