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1ミリも狂わない「148mm×100mm」がはがき文化を支えている

年末恒例、年賀状の宛名印刷をしていて、あれっと思った。宛名の印字位置が、あれほど微調整したのにズレている…。

ここ数年で何か所か年賀状印刷サービスを試したのだけど、その中ではカメラのキタムラの自分でデザインする年賀状 フチなし写真きれい仕上げが実際きれいで今年も頼んだ。ただこで、写真のフチが切り落とされるように説明されてるけど、実際にははがきのフチが切り落とされるらしい。官製はがきのサイズを前提にした宛名印刷はうまくいかなくなるわけだ(※)。

知らなかったのでちょっとした落とし穴にはまった気分だったけど、逆に官製はがきの1mmも狂わない「148mm×100mm」サイズのすごさを意識する機会にもなった。これが、ある意味でははがき文化を支えているのだ。そういったら、言い過ぎかもしれないけど、でもある面では。

※カメラのキタムラには問合せをして迅速で丁寧な対応をいただいた。そういう仕様と知っていればなんとでもなる話で、多分来年もこのきれいな印刷をお願いすると思う。

年賀状がモノづくりとして楽しい

ここ数年、年末のささやかなモノづくりとして年賀状を楽しんでいる。と言っても絵心もデザインセンスもないので、この時期各所イラストサイトが揃える年賀状デザインを見て周り、気に入ったイラストを縁なし印刷してもらって、宛名面の下半分を挨拶欄になるようデザインし、そこに一筆啓上という具合だ。

母がもらった絵葉書を大切に飾り、また絵葉書を送ることを楽しむ人だった。僕もよく絵葉書をもらい、そうした感覚を受け継いだのだと思う。ある時期から、年賀状を送るなら、受け取った人が(気に入ってくれればだけど)ポストカードのように飾って楽しめるものにしたいと思ったのだ。それで通信面は全面イラスト。

2014年の花羊美飾図から浦正さんの作品を使い始めたのだけど、2018年からのプロヴァンスの丘の亥から内藤しなこさんの作品とその年より気に入った方を使うようになって、でも使わなかった方も含めて両方買って蒐集めいたことにもなってる。

アフロモールさん - Twitterより

デザインを決めたら今度は印刷に出す。その間に宛名面デザインを作り、納品されたら宛名面だけは自分でプリンター印刷する。宛名面は、ハガキを縦に使う場合下半分、横に使う場合左半分は通信分に使ってもよいことになっている(内国郵便約款 第23条1項(4))ので、挨拶などはこちらに書かせてもらっている。

宛名面の楽しみを支える148mm×100mm

この内国郵便約款のなかで、官製はがきのサイズも14.8cm×10㎝と規定されている(第21条1項(1))。私製はがきは長辺14~15.4cm、短辺9~10.7cm(第22条1項(1))と幅が持たせてあって、その範囲内の官製はがきサイズなんて決まってても決まってなくてもどうでもよさそうにも見える。でも実はけっこう重要だ。

宛名面をデザインをしようとしたことがあれば気づくけど、大きさを合わせるだけじゃなく、あて名書きや通信文は切手欄や郵便番号欄を避ける必要があるし、郵便番号は郵便番号欄にきれいに納めたくなる。ミリ単位での位置合わせになる。通信文なしの宛名だけでも、簡単じゃない。それでデジタル印刷全盛の時代にみんなが気にならないのは、周辺のエコシステムが整っているからだと思う。

こうしたエコシステムが成立するのも、官製はがきが1mmたりとも狂わない寸法で作成されているからだ。今回気づいたフチなしフォトプリントでの寸法は、フチが切られた分だけ少し小さくて、計ってみると縦3ミリ、横2.5ミリほど短い。大した数字じゃないと思えるかもしれない。でもその3ミリと2.5ミリというのは、印刷結果だとこれだけ違ってくる。これに気づいて問合せて対応いただいてこちらでも対応して、なんてやってたら、今年は早くに始めた年賀状の準備がけっきょく大晦日の投函になってしまった。

宛先住所と郵便番号印刷結果。

宛名面を自分で印刷するときでもズレは1mm程度に収まってほしい。それが前述したようなソフトやテンプレートで苦もなくできるから、宛名面のデザインなんてこともできる。ここ数年の「痛年賀(宛名デコ)」なども、こうしたエコシステムが生んだ新しい楽しみだろう。楽しみに多少の苦労はつきものだけど、それが苦痛の域だったら続かないし広まらない。

「148mm×100mm」という最後の砦

若者中心に“年賀状離れ”」と報じられるけど、世代は問わないんじゃないかなと思う。自分が年賀状世代で年賀状文化を持っていても、当節、相手が年賀状という習慣を持ち続けている人じゃないと送りにくい。

昔ながらのコミュニケーション手段と習慣が「礼儀正しく時間を奪う」ということは1995年の『続「超」整理法』のころから言われてきたけど、メールネイティブ、メッセージングネイティブが台頭するいまどきは普通になりつつある感覚だろう。そのなかで、少なくとも義理や礼儀で出す年賀状は、むしろ年の瀬に年賀状交換の手間を取らせる遠慮で書き換えられていくんじゃないかな。つまり「礼儀として出す」に対して「礼儀として出さない」という考え方も普及してくる。どちらも正しい。多様性の時代なのだ。

その中で、モノづくりや贈り物といった「楽しみとしての年賀状」を支えることは、はがき文化の最後の砦のように思われる。それをしているのがはがき作りの楽しくない工程を取り除くか軽減してくれるいろんなサービスや製品で、そのエコシステムの土台には「148mm×100mm」の官製はがきがある。1mmたりとも狂わない官製はがきのサイズがなく、その周りのエコシステムもなく、ただ郵便システムがあるだけだったら、当の昔に電報のような知る人ぞ知るサービスになってたかもしれない。

なんて話を大きくしすぎかもしれないけどね。でも僕は「148mm×100m」にリスペクトを覚えたし、はがきに携わる人にはこのリスペクトは共有してほしい。それが共有されていてこそ、僕たちはそれはいろんなサービスを組み合わせてはがきを出すことを、年賀状を作ることを気軽に楽しめてる。それがなくなるなら、1人ぐらいはまた年賀状離れしていくかもしれない。つまり僕だけど。


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