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【SD】納涼2023年サンディエゴパドレストレードデッドライン総括

当noteではトレードデッドラインの印象を毎年写真や動画で表現している。

2021年はこちらの一枚

目白志むら 清水白桃のかき氷 今年も食べたい

先発投手が足りない中でマックス・シャーザーやトレイ・ターナーを取り逃し、何故か二塁で被るアベレージ打者アダム・フレイジャーと外野守備固めジェイス・マリスニック、リリーフのダニエル・ハドソンというニーズとかけ離れた獲得に留まった。8月以降チームは失速しプレーオフ出場を逃した。

2022年はこちらの動画

2012年7月4日独立記念日のサンディエゴ花火大会、誤って全ての花火に引火させ30秒足らずで打ち上げてしまった様子だ。プロスペクトを一斉放出しブリュワーズから抑えジョシュ・ヘイダー、ナショナルズからフアン・ソトジョシュ・ベル、レッズからブランドン・ドルーリー、そして地味にダメなトレードによりブレント・ルーカー放出でキャム・ギャラガーを獲得しMLBトレードデッドライン史に残る超大型補強を敢行した。8月に息切れるもワイルドカードでプレーオフに進出し、NLCSにまで駒を進めた。

そして2023年、パドレスのトレードデッドラインのイメージはこちらである






間違えた。


https://www.kamedaseika.co.jp/product/1318/

昨年同様量は多いが小粒なトレードとなった。

今年のトレードは三つ


パイレーツ→パドレス
チェ・ジマン
左打一塁手
リッチ・ヒル 左投げ先発

パドレス→パイレーツ
ジャクソン・ウルフ
(AA)左投げ先発
アルフォンソ・リーバス (AAA/MLB) 左打一塁手
エステゥアル・スエロ
(Arizona Complex League) 両打中堅手


このトレードの目的は、パドレスの弱点補強とデプス強化だ。まず31歳チェ・ジマンについては右投手対策だ。

パドレスのスラッシュライン.240/.328/.415は一見物足りないが投手有利なペトコパークでプレーしている影響で低くなっており、wRC+は106でナショナルリーグ15球団中5位だ。右に強打者が多いパドレスは左投手に対しては116wRC+(4位)でフェルナンド・タティスマニー・マチャドキム・ハソンは150wRC+以上を記録している。一方右投手に対しては101wRC+(7位)に留まる。対右投手でフアン・ソトが177wRC+とNLトップの数字を叩き出しているが、彼に続く平均100以上の打者はザンダー・ボガーツとキムが115、タティス111の3人だけだ。

チェのキャリア左右別成績は明暗がはっきりしている。
対左投手:.199/.284/.303/.586/68wRC+
対右投手:.245/.350/.459/.809/124wRC+

https://www.fangraphs.com/players/ji-man-choi/5452/splits?position=1B&season=0

この数字からも右投手専任のDHか一塁の出場に限定されることが推測できる。つまり打つことのみが求められるDHで.166/.296/.302という低成績を残しているマット・カーペンターの出番をそっくり奪うことになるだろう。ちなみに2020年、チェはブルージェイズの左投手アンソニー・ケイ相手に右打席に立ちホームランを打っている。

今季はアキレス腱の怪我で23試合の出場に留まり.205/.224/.507と物足りない数字だが、怪我から復帰した7月は.268/.295/.634と復調している。キャリア12.9BB%を考慮するならば出塁率の上昇も期待して良いだろう。

43歳のヒルは今年メジャー最年長。先月42歳のネルソン・クルーズがDFAされチームが若返るかと思いきやさらに年上を獲得し平均年齢の底上げに貢献。球種が多彩な割にカーブの次に投げる割合が多い球種が88mphの4シームなので驚くが、それでも20%以上空振りを奪うのでさらに驚く。とはいえ全盛期は過ぎており4.76ERA/5.51xERA/7.87SO9/3.55BB9/1.13HR9。8月初旬現在、肩炎症で戦列を離れているマイケル・ワカの先発穴埋めが当面の役割だろう。もう少し良い先発投手が欲しかっただろうが対価に縛られた結果だろう。チェもヒルも今季末にフリーエージェントとなる。

トレードの対価を見てみると、先月メジャー初先発を果たした2021年ドラフト4巡指名のウルフもまた、19歳の年齢差こそあれど軟投派の左腕という点でヒルと共通点がある。長身から出所が見づらいフォームで90mphちょっとの4シームにスライダー、薬指と小指で挟むチェンジアップを投げる。MLB Pipelineの球団プロスペクトランク16位。

26歳のリーバスは非力ながらアベレージを残す一塁手。今年30番を背負い右手にファーストミットを着けた後ろ姿にパドレスからお給金をもらいながら育休中のエリック・ホズマーと一瞬見紛ったりもしたが、普通に送球を捕っていたのでポロリ時代は終わったのだと気付かされた。リーバスにはまだパドレスが紺色のユニフォームを着ていた2010年代前半の暗黒期に現れては消えていた無名な一塁手たちを想起させられる。

17歳のスエロは新人リーグで.216/.306/.345/4HR。身長6′ 5″と長身で俊足強肩にパワーも兼ね備えフィジカルに恵まれているが、大振りでまだ打撃に穴が大きい。MLB PipelineではTop30圏外だったがFangraphsでは10位と高評価だった。いずれにしてもまだ磨かれる前の原石なので、メジャーデビューするとしても早くて5年後だろう。

パイレーツnote担当ののばさんが逆の立場からこのトレードについて見解を示している。


マーリンズ→パドレス
ギャレット・クーパー
右打一塁手・右翼手
ショーン・レイノルズ (AAA)右投げリリーフ

パドレス→マーリンズ
ライアン・ウェザース
(AAA/MLB)左投げ先発


チェがカーペンター2.0ならクーパーはネルソン・クルーズ+ブランドン・ディクソン2.0だろう。.256/.296/.426/13HR。32歳の右打ちで打球速度が速く、一塁の守備も悪くない。問題は空振りの多さでスライダーだけでなく4シームでもWhiff%が30%を超えている。右投手なら外角攻めでやられそうなので左投手相手にDHか一塁で出場するだろう。四球率も5.2%と低いがパドレスの待球方針がフィットするか否か。今季末FA。ちなみに風水ではラッキーカラーの白眼鏡を掛けていたディクソンはひっそりとDFA。

身長6' 8"と大柄な25歳のレイノルズは今年のトレードで獲得した選手の中で最も若い。マイアミの2016年4巡指名で同球団のMLB Pipeline21位。プロ入り直後はパワーを見込まれ打者としてプレーしていたが三振が多過ぎ2021年から投手にコンバート。当初荒れていた制球が徐々に落ち着き、94-95mphだった球速は100mphに届き始めた。他にスライダーとチェンジアップを投げる。既にエルパソAAAで登板済み。

以前大谷翔平の獲得を試み、クリスチアン・ベサンコートに三刀流を試させたA.J.プレラーGMが好みそうではある。

ウェザースは2018年ドラフト全体7位指名でパドレスに入団したが、今回の放出により2016年から2020年のパドレスドラフトトップ指名('16年カル・クアントリル、'17年マッケンジー・ゴア、'18年ウェザース、'19年C.J.エイブラムス、'20年ロバート・ハッセル三世)が全員放出されたことになる。90mph半ば4シームと80mph半ばのスイーパーとチェンジアップという一通りの武器は持っているが、コマンドが整わずはっきりとしたボール球が多く、たまにストライクに入ると観ている側の血糖値が跳ね上がるような甘すぎるコースに入り痛打されるという登板を繰り返していた。2020年のプレーオフでメジャーデビューを果たしたせいか性急な昇格で育成不足な可能性が高い。僅かながら年々速球の質は良くなっており、まだ23歳なのでしっかり育成を行なえばローテーションの一角、少なくともブルペンで活躍できるチャンスはまだ残されていそうだ。

SSS-1912さんによるトレード見解はこちら。


ロイヤルズ→パドレス
スコット・バーロウ
右投げリリーフ

パドレス→ロイヤルズ
ヘンリー・ウィリアムズ
(Low-A)右投げ先発
ヘスス・リオス (Dominican Summer League) 右投げリリーフ


バーロウのみが今回のトレードで獲得したメジャーリーガーの中で唯一来年まで契約が残っている。過去2年ロイヤルズの抑えとして活躍したが今年は球速が低下し4シームが92.7mphと、2年前より2.6mphも遅くなっている。5.35ERA。制球も悪化しているが三振は多いこともありxERAは3.70とそこまで悪くはない。スアレスの前に7回を投げる役割が主だろう。パドレス移籍後既に登板済みで、午前三時に起床しカンザスシティからデンバーに向かいホテルで朝仮眠後、昼のブルペンデーで3番手として1.2イニングをパーフェクトに抑え勝利に貢献。

ウィリアムズは2022年3巡指名で、Pipelineでは11位だった。トミージョン手術上がりで今年Low-Aで5.74ERA。ただTJの他にも腕の痛みを抱えたこともありリスクは高い。現在球速は92-93mph程度だが完調なら94-95mph。スライダーが武器。

21歳のリオスはメキシコ出身で95mphの速球とスライダーを投げるだが。年下が多いDSLで6.38ERAと、先のスエロよりも期待感は低い。


ロイヤルズnote担当のKyooさんのトレード振り返りはこちら。

これらの3つの補強をA-Eランクで総合評価しろと問われたらリンガーハットのちゃんぽんと答えるだろう。具沢山でお値段お手頃で野菜も摂れるでも餃子はサイズの割に少し高い、つまりB+ということだ。元々MLB29位の77wRC+に留まるDHと一塁以外に大きな穴はスタメンにはないのだが、彼等が出られない時のバックアップが不安だった。そこの厚みを一通り埋めている。昨年とは対照的に9位以上のプロスペクトは放出していない。強いて言えばヒル以上の先発とセンターが守れる外野手が欲しかったかもしれないが、今年の勝率やプロスペクト層を考えるとAランク級の補強は期限前から期待されていなかった。

No Move is Your Best Move?

実は今年のトレードデッドラインは、トレードより戦力に影響する出来事があった。いや、正確には無かった。


トレードされなかった人達
ブレイク・スネル (2023年末FA)2.50ERA NL1位
ジョシュ・ヘイダー(2023年末FA)0.89ERA オールスター選出クローザー
フアン・ソト(2024年末FA)155wRC+ NL3位
キム・ハソン(2024年末相互オプション)5.4bWAR NL2位


7月31日時点でパドレスは52勝55敗と負け越し、ワイルドカード争いは末席3位には5ゲーム差の7位。しかしながらシーズンを諦めず主力をキープし買い手になった。そのパドレスから僅か1ゲーム下回るもパドレス以上に裕福なオーナーが保有するニューヨーク・メッツはデビッド・ロバートソン、マックス・シャーザー、マーク・カニャ、ジャスティン・バーランダー、トミー・ファムらを手放すことで今季に見切りをつけわずか半年で若手主体の再建に舵を切るという対照的な動きを見せたにもかかわらずだ。ちなみにメッツはひっそり去年パドレスのメガトレードでとばっちりを喰らったルーク・ボイトと胸毛をリリースしている。

かつてのA.J.プレラーGM政権下でも売り手か買い手どちらの立場を取るべきか迷う状況はあった。2015年だ。プレラーがGMとして初めて迎えた2014-15年のシーズンオフ、パドレスはプロスペクトを一挙放出して大型補強を敢行。マット・ケンプクレイグ・キンブレルらの他に2015年シーズン終了後でフリーエージェントになるジャスティン・アップトンアーロン・ノースクラフトをアトランタ・ブレーブスから獲得するため後にエース級の働きを見せるマックス・フリードらプロスペクトを放出。地区優勝はやや遠くもワイルドカード候補と目されたが、トレード期限7月末時点の成績は41勝49敗と奮わなかった。NL西地区首位ドジャースとは8ゲーム差の4位、当時枠が2チームのみだったワイルドカード2位のジャイアンツとは6.5ゲーム離れていた。

7その年月末にパドレスは主力売却のトレードは行わなかった。控え外野手エイブラハム・アルモンテをクリーブランド・インディアンスに放出し、左腕中継ぎのマーク・ゼプチンスキーをトレードで獲得した。当時インディアンスはAL中地区で最下位、そしてゼプチンスキーは4.43ERAながら3.04FIPだったのでパドレスにとっては小さな買い手トレードと見てよいだろう。

しかしパドレスの成績は上向かない。バド・ブラック監督は解任。落ち目になっていたFA前最終年の中堅手ウィル・ベナブルを当時8月まで許されていたウェイバー経由のトレードでテキサス・レンジャーズに放出も、獲得した27歳右腕ジョン・エドワーズや21歳シングルA内野手のマーカス・グリーンは当時として将来の主力として目されていたわけではなく、実際その見立てを凌ぐことはなかった。

全体的な編成としては最後まで勝負を捨てなかった2015年パドレスだが74勝88敗でシーズンを終えた。そしてオールスター前に.253/.332/.422/14HRの成績でパドレス唯一の球宴出場選手となったジャスティン・アップトンはそのままFAとなりタイガースへ移籍した。

そして翌2016年ドラフト補償ピックとしてタイガースから受け取った全体24位指名でパドレスは高卒内野手ハドソン・ポッツを獲得。ポッツは高い運動能力を有してはいるが大振りで、1巡指名にしてはリスクが高い選手と評者からは目されていた。そして2020年夏にミッチ・モアランド獲得の為にレッドソックスに放出された以降もメジャー未昇格。AA以上で目を引く成績を残せていない。

逆のケースもある。一方2019年のパドレスはオールスター前45勝45敗で迎えたが7月後半に旧失速し借金7に。7月末まで27本塁打を打っていたフランミル・レイエスらをクリーブランドに放出。8月半ばにはタティスの故障もあり70勝92敗で終え、アンディ・グリーン監督は解任された。

昔話が長くなったが、もし2015年のパドレスが7月にアップトンを放出していれば、ドラフト24位指名権以上のプロスペクトを獲得できた可能性があった。そして今年のパドレスはヘイダーやスネルをシーズンオフまで保有を決めた。翌2024年のドラフトは2016年よりパドレスにとって2つの要因により不利になる。

1点目は補償指名権巡目の低さだ。もしヘイダーやスネルの様な新球団でのFA契約年俸総額が$50M以上のクオリファイングオファー(QO)拒否FA選手を他球団に獲得された球団が得られる指名権の巡目は、利益分配や贅沢税の支払い手か受け手かどちらでもないかという立場と勝率で異なる。利益分配の受益側でぜいたく税を支払っていない場合は1巡目とCompetitive Balanced Round A(戦力均衡ラウンド:市場格差を解消するために設けられた。AとBがあり最小市場チーム10球団に与えられるAは1巡目(もしくはProspect Promotion Incentive Pick)の後、Bは2巡目の後)の間に指名権が得られるが、利益分配ルールで支払い側のパドレスが受け取れる指名権は4巡目以降になる。今シーズン7月までトップクラスの先発投手と抑えへの補償としてはあまりに低い。

2点目は贅沢税閾値超えへの罰則として来季ドラフト指名権順位の低下だ。球団年俸が贅沢税の第三閾値$273Mを超えたチームは翌年ドラフトのトップ指名順が10位降格させられる(元々上位6位以内の指名権を保有する場合は2番目に高い指名権が10位下がる)。スネルやヘイダーを放出しなかったため、2023年パドレスの贅沢税ベース球団年俸はおそらく超えたままの最終額になるだろう。

2015年のオールインで即戦力ベテランを搔き集めも負け越してから2018年くらい迄のパドレスはメジャーレベルでのプレーオフ出場は期待されておらず、手持ちのベテランやダレン・バルスリー投手コーチの元で開花したリリーフをプロスペクトに替えるトレードを続けていた。しかし今年のパドレスはその頃と事情が異なる。一つ目はベテラン選手との長期契約によるロースター流動性の無さだ。

マチャド(2023-2033年: 11年$350M)
ボガーツ(2023-2033年: 11年$280M)
タティス(2021-2034年: 14年$340M)
クローネンワース(2023-2029年: 7年$80M)
ダルビッシュ(2023-2028年: 6年$108M)
マスグローブ(2023-2027年: 5年$100M)

上記の選手が今年優勝するための選手と限定または完全トレード拒否権条項が盛り込まれた長期契約を結び多くのポジションが固定されている。そのため高額選手を完全に売り払う以前の様な完全なスクラップ&ビルドな再建には振り切れない。ましてタティス以外は全員30代でキャリアピーク期の後半に差し掛かっている。加えてプレラーGMは一度トップチームの戦力を更地にしているため、ピーター・サイドラーオーナーからもう一度の完全な戦力売却を要する再建の機会が与えられる事は無いだろう。先のドラフトで不利になるという点も含めて、2025年以降の戦力は後で心配するとしてとにかく今の中心戦力が居るうちに勝ちたいという考えがあるのだろう。ただ裏を返せば、スネルとヘイダーを除いた主な戦力は少なくとも来年はほぼ継続されるということだ。

二つ目は得失点差だ。

今季パドレス延長戦は0勝10敗(米国7月31日時点)。MLBの延長戦未勝利最長連敗記録が1969年モントリオール・エクスポズの0勝12敗だ。しかしこの年エクスポズにとっては球団創設年で、20連敗を含む52勝110敗という球史に残る弱さを誇るチームだ。開幕前にワールドチャンピオンを狙っていた55シーズン目のパドレスとは明らかに戦力と立場が異なる。

ロッキーズとの3連戦を終えた8月4日現在パドレスの得失点差+75はブレーブスとドジャースに次ぐNL3位で、得失点差から算出する勝敗は62勝47敗と実際の勝ち星54勝55敗と大きく異なる。つまり先の様な延長戦など僅差で負け勝ち試合に大量得点が多いということだ。この勝ち星のギャップについては采配を問題視する意見もあるが、大半を占める理由は運だろう。あと近年は延長戦がノーアウト二塁で始まるため、ヘイダー以外に奪三振率が高いリリーフが居なかった事も要因かもしれない。この点についてはロベルト・スアレスとまだ本調子ではないがスティーブン・ウィルソンの復帰、そしてバーロウの獲得で対応がなされている。Fangraphsによるとパドレスのプレーオフ進出の可能性は45.6%とワイルドカード争いのチーム中3位だ。

とはいえまだ50%以下のため、プレーオフに進出できない可能性の方が高い。それでも、というかやっぱりパドレスは賭けに出た。ベン・ギャメル獲得では終わらなかった。温厚だが底知れぬ執念を漂わせるオーナー、聖ピーター・サイドラーとロックスターGM率いるチームなので仕方がない。





プロファーもトレードされなくて驚いた。

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