小説『洋介』 18話
帰り道、彼女に相談した。
彼女は洋ちゃんとそんなに話したこともないし、特に仲良いわけでもない。でも茶化さずに、真剣に、話を聞いてくれた。
「洋ちゃんに頼りにされてるんやねぇ。
なんか君に聞きたくなる気持ちもわかるなぁ」
そう言って幸せそう笑ってくれた。そして続けた。
「なんか、去年の秋ぐらいの時から、君の感じが変わってんよね。
なんていうか……。幸せそうに感じてん。
洋ちゃんもそう感じたんちゃうかなぁ」
「それちょうど、初めて石が浮いた時ぐらいや!」
「あ、やっぱりそうやったんかぁ」
彼女はにっこりと笑った。
やっぱりって……。すごいな……。
河原についた。
ゆったりとした時間。
夕日の力に包まれる時間。
今日のことがゆっくりと頭の中を回った。
ふっと思い出した感覚があった。
それは初めに石が浮かんだ時のこと。
愛されてるって思ったんだったな。
日が沈みかけて、帰る時間になった。
彼女がまっすぐな目で僕に言った。
「私の中にも答えはないみたい。
でも幸せの感覚はなんとなくわかるよ。
ここで夕日に包まれてる時は幸せ。
その力があるってわかってからは、それ以外の時も守られてる感じがして幸せやなと思うよ。
君と喧嘩したときもなんか幸せやったよ」
そう言ってニコッと笑った。
じゃあまた明日、と言ってお互いの家に帰ろうと歩き出した後、
振り返って彼女の後ろ姿を見ていると、彼女が振り返って、
「君の答えに期待してるよー!」
と言った。
沈みかけの夕日に照らされていて、光が反射してキラキラ輝いている川と同じぐらいキラキラしていた。
その日はゆっくりと歩いて帰った。
頭はぼーっとしていて、考えているようで考えていない、そんな感じだった。
今日聞いた色んな言葉がふわふわと回っているような、そんな感じだった。
家に帰ると、いつも通りぺスが近寄ってきた。
ぺスももう9歳だ。
中型犬だからまだ死なないとは思うけど、
死んだときのことを考えて悲しくなった。
すると、頭がカラカラと動き出した。
あれ? ぺスはなんのために生きてるんやろう?
特に何かをするわけでもない。
勉強して賢くなるわけでも、お金を稼ぐわけでもない。
それでも死んだら悲しいし、父さんも母さんも悲しむだろう。
僕らにとってはすごく大事な存在だ。
「ただ生きてるだけか」
スルリと言葉が口から出てきた。
そして、頭はまたぐるぐると動き続ける。
自分の部屋に入って静まってみることにした。
いろんなものがある部屋の中では河原でのようにはいかないが、それでも慣れたもので、僕はぐんぐんと静まっていく。
ぺスだけじゃない。
僕らだって何かをしないと意味がないってことはない。
少なくとも彼女はそう、何かしてくれなくてもいい。
むしろ何かしてあげたいなと思う。
何か偉大なことをした人の方が生きる意味がある?
いや、エジソンは偉大やったけど死んだ今は関係ないし、
それで幸せだったかどうかもわからない。
あれ? 幸せ?
幸せと自分が生きる意味って関係ある?
幸せは自分のため?
生きる意味は人のため?
それは人の幸せのため? 自分のため?
考えれば考えるほど、絡まっていく。頭が痛くなってきた。
ああ、今日はもういいか。
一旦、やめよう。
焦らない、焦らない。
結局その日は、そこで考えるのをやめた。
両親と兄姉が帰ってきたのでいっしょにご飯を食べて寝た。
家族がそろった後の時間はとても楽しかった。
ぐっすりと眠った。
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