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小説 創世記 4章


4章

天涯孤独となった二人。
しかし、二人は二人となって歩き出す。

「この場所を離れよ」
と、言われてすぐに二人は川下の方に向けて歩き出した。
海の方に行けば何かあると思ったのだ。

空襲で焼けたところがあちらこちらにあり、近くにはとても作物ができるようなところはなかった。
もともと畑だったところも、もはやいくら耕してもダメなように見えた。
多くの人が彷徨い歩いている。
自分達の今までいた場所が、どれだけ幸運だったか、恵まれていたかを知った。

道中、大きな犬がついてきたから仲間にした。
寝るときには二人で抱きしめて寝た。
暖かかった。


その頃、大阪の方で、一人の若者が名を上げていた。
暴力と狂気で多くの者を支配していた。
その名も「海(カイ)」であった。

カイには弟がいた。空(ソラ)と言った。
弟と二人、二人だけで育った。
しかし今、カイは一人となった。

海に捨てられていた二人。
拾ったおっさんに名付けられた。
そのおっさんには物乞いの道具として育てられ、
殴られながら大きくなった。

カイが10歳、ソラが7歳になった頃、
寝ているおっさんの頭をかち割り、そのテントを飛び出した。

空腹の中、二人で夜通し走り、朝日の中でやっと腰を下ろした。
そして生きるために盗んだ。

そのうち、親のいない子が集まってくる。
カイはまとめ上げ、ソラが世話をした。
子供達はカイを恐れ、ソラを慕った。

「あほか!これぐらいいけるわい!」
「兄ちゃん、まだこいつらには無理やって!危なすぎるて!」
「ふざけんな!おれらこのぐらいの時からやってるやろが!」
「おれたちとこいつらは違うやんか!あかんて!」
「なんやねん!死んでまえ!」
小屋をバンと出ていく。

腹が立つのは、あいつを見ているガキどもの目や。
そんで俺を見るときの目や。

淀川の河川敷を歩く。
黒く濁った心から、低く重たい声がする。
「怒りがあるのか」

黒い心はさらに深い黒になる。
「あいつらのためにやってきたことだろう」
再び声がする。
それによって怒りが増し加わっていった。

足が重く、闇にひきづり込まれそうだった。
振りほどくように川沿いを歩き続けた。

橋の下に女がいた。
その女と目が合い、女の唇がカイの目をひきつけた。
そこで初めて女を知った。

女に金を渡したとき、プツンと何かが切れた気がした。

暗い道を歩いていると、向こうから走ってくる影があった。
ソラの次に歳上のエノだ。
「カイ、ソラが死んだぞ。街で殴られて、」


そこからカイは勢力を拡大していく。
容赦のない復讐と非情さのゆえに人が集まり、恐れられた。
そして運送業界、芸能界、武器製造へと支配を広げてゆき、富と権力を増していった。

組織の名前は『バビロン』であった。

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