【映画感想】東京カウボーイ

映画「東京カウボーイ」(監督:マーク・マリオット)

対話を恐れるな、ということだと思う。

モンタナ州の牧場の牛の大移動の日。
休憩時間に自ら振る舞ったビールをわざと溢す主人公・英輝に「飲めないのか?」「貸せ、それじゃ休憩にならないだろ」と笑って言う仲間たち。下戸であることを隠さなければ馴染めないと思い込み恐れていた英輝だが、そんなことで気持ちが離れていくような仲間ではなかった。

夜、焚き火を囲んで大仕事を終えた仲間同士語らう中で、英輝に「(日本の婚約者との)子どもは考えていないの?」「彼女とは話した?」と問う牧場主。それがきっかけか、婚約者に直接謝罪し、しばらくはモンタナ州での仕事に専念したいこと、それでも彼女との将来を諦められないことを素直に伝える英輝。忙しさを理由に結婚をズルズルと引き延ばしてきた自覚があり、婚約者に愛想を尽かされることを恐れてか無意識に対話を避けてきた英輝だが、そんなことで彼を諦めきれないのは彼女も同じだった。

郷に入っては郷に従え。飲みニケーションを大切にし、プライベートな家庭の事情を職場でもオープンにする。そんなモンタナ州の牧場での日々に主人公が感化されていくのは微笑ましくある一方で、せっかく素敵な映画なのに、昭和みたいな働き方を肯定するだけのラストだったらなんかヤダな…とも思っていた。

だから、前者のビールのシーンで無理に飲むことを良しとしない仲間たちの姿勢や、後者の焚き火のシーンで「家族が増えるっていいわよ」などと踏み込んだことは言わずに婚約者との対話を勧めるに留めた牧場主の姿勢に安心した。
英輝の上司(ケイコ)もハビエルの上司(牧場主のペグ)も当たり前のように女性であることも、これは現代の話である、ということに説得力を持たせている。

あと、國村準演じる和田さんが良いね。

あとはなにより、みんなで温泉に浸かるエンドロールが最高。
映画の心地よい余韻のような後日談だが、あまりにリラックスしたムードに演者のオフショット(?)かと思うぐらいだった。


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