正月
N 或る年のお正月のことで、ございます。
【登場人物】
息子(ヨウスケ) ーー
母親 ーー
父親 ーー
N ーー
(※ーーの箇所は、役者が決まり次第。加筆修正すること)
一、年明け
息子が、目を覚まし。父親を起こす。
息子「起きて、父さん。明けましておめでとうございますなんだよ、新年なんだよ」
父親「うん、おめでとう……もう少しだけ、休ませてくれ」
息子「ええ、父さん。今日は、お正月なんだよ。初詣に、ぼくと、ままと、ぱぱと、みんなで行くんだよって言ったでしょう?」
父親「わかった、わかったからね。そう引っ張るなよ。居間へゆこう。母さんが、待っているよ」
息子「うん、わかった。父さん。あのね、あのね、夢は、見た?」
父親「初夢か?」
息子「ぼくはね、とってもいい夢をみたのさ。父さんにだけ、教えてもいいんだよ」
父親「いい夢は、大事にとっておきなさい。叶った時にでも、教えておくれ」
息子「うん、わかった。じゃあね、あのね……」
二、居間
父親と息子は、様々に会話をしながら階段を降り。居間に入る。
(フラッシュ※瞬間的演出)
息子は、居間に入るやいなや庭に駆け出していった。
下駄を履いて外へ行ってしまう。
父親は、咄嗟のことで止められなかった。
あっと言葉をこぼし、唖然と見つめる。
庭で世話をしていた花が咲いたのを息子がみつけたことを父親は、発見した。
息子は、心の底から嬉しいらしい。
庭につながる大きな窓は開け放したままで、風が吹き込んでくる。下駄を履いた息子はその前で朗らかに、ふふふと声に出して微笑むように笑っている。
父親は、あの花は、確か……と、考え込んでいると、後ろから母親がやってくる。
母親「明けましておめでとう、ヨウスケ。あなた」
父親「うん、おめでとう」
息子「まま!!! 見てみて、咲いた!!」
母親「あらあら、良かったわね」
息子A「あっ、忘れてた。いけない、明けましておめでとうございます」
母親「ふ、今年もあわてんぼうさんね」
父親「今年は大人しくしてておくれよ」
息子「ぼく、まだ大人じゃないよ!!」
母親「ふふ、おせちを持ってくるわね」
息子「まま、手伝うよ。だって、今年からお兄さんだもん。ぼく」
母親「あら、そうね」
父親「君は少し休んでいいよ、俺が持ってくるから」
息子「ぱぱね、おっちょこちょいさんだって、ままが言っていたから、ぼくがもってゆくよ」
父親「危ないからいいよ」
息子「やだ、ぼくがする」
母親「お正月から喧嘩はだめよ。ふたりとも、ね」
父親「よおし、父さんが台所に一番乗りするぞ!!」
息子「まってよぉ」
父親が台所へゆく、それに庭にいた息子が慌ててついてゆく。窓は閉めたつもりが、締め切らず隙間から少し風が入り込んだままである。
母親「ふたりともちょっと慌てないでちょうだい。後は、お重とおしるこを持ってくるだけなのよ」
母親も、その二人の後を追いかけて台所へゆく。
N 庭で咲いたあの花は、福寿草。
N 風にそよそよ揺らいで、微笑むよう庭で咲いている。それを年明けの陽の光があたたかく包み込むように花や庭、部屋の中を照らしていた。
三人が戻ってるまで、その居間はひっそりと静まり返る。戻ってきて賑やかにおせちを分け合い食べていると、息子がぐるぐるあたりを見回す。
大きな鈴が揺れたような音がしたのだ。が、息子は黙する。福の神が微笑んだような気がして黙っていようと思った。
部屋の中には依然と隙から少し風が吹いたままだった父親は、くしゃみを大きくした。
父がしっかりとその窓を閉めた。
母親は、息子の食事の世話を焼いている。
それを手伝いったりしながら父親は、手元のおしるこを啜る。
終
2023年 お楽しみ読み物コーナー【正月】企画
参加作品(脚本)
企画主催者:青西瓜様
文:辻島治
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